週刊「歴史とロック」

歴史と音楽、たまに本やランニングのことなど。

Manic Sheep 『Brooklyn』

a3095848933_10

「轟音ギターノイズ」は
むしろ優しい


 タイのYellow Fungについて書いたときに、「母国語で歌うアジアのバンド」という話をしましたが、昨年の暮れに新しい出会いがありました。台湾出身のManic Sheepです。

 何度かメンバーチェンジをしてるそうですが、現在は男性2人女性2人の男女混成4ピース。2012年にセルフタイトルの1stアルバムをリリースし、今年1月に2ndアルバム『Brooklyn』をリリースしました。僕の場合は彼女たちを知ったタイミングが2ndが出る直前だったので、連続してポンポンッと聴けたのですが、1stをリアルタイムでフォローしてた人は5年も待ったことになるんですね。

 ただ、音源はリリースしてなかったもののライブ活動はコンスタントに行っていて、日本にも14年、15年の2年連続FUJI ROCK出演をはじめ、かなり頻繁に来日しています。つい最近も来てましたね。海外ではKyteのオープニングアクトもやったことあるようです。



 彼女たちのどこがそんなに好きなのかというと、ノイジーな轟音ギターとボーカルChrisのウィスパーボイスの組み合わせにつきます。いわゆるシューゲイザーの系譜をひくバンドではあるのですが、ライドやマイブラ、ホラーズといったUK系正統的シューゲイザーバンドと比べると、Manic Sheepはずっとメロディが立っていてポップです。でも、ペインズや初期のスーパーカーが好きな僕としては、彼女たちの方が肌に合う。

 ギターのノイズが増せば増すほど、凶暴さではなく繊細さを生む。僕はシューゲイザーのことをそのように理解しているので、Manic Sheepはまさに見本のようなバンドといえます。Chrisの、ただでさえ傷つきやすそうな細い声が、ほとんどギターの音の中に埋もれてしまっている極端な音像は、まるでギターが歌を抱きしめているようにも聴こえます。アンバランスであるからこそ、そこにピュアネスを感じるのです。

 あと、全然音楽と関係ないけど、Manic Sheepで驚くことといえば、ジャケットに対する異様なまでの「凝り」。1stのインナースリーヴは、ページの1枚1枚が羊の毛皮、筋肉、内臓、骨格などのレイヤーになっていて、綴じると1頭の羊が、ページを最後までめくるとその羊の胎内にいる赤ちゃん羊が見えるという、「一体ジャケットにいくらかけてるんだ?」というくらいに手の込んだものでした。

 2nd『Brooklyn』ではなんと、ケースを覆うカバーが完全に密封されていて、購入者はカッターやハサミを片手にカバーを開けないとCDが聴けない、という代物でした。カバーにジャケットイラストがあるから、ぐちゃぐちゃに開けるわけにはいかない。かといって、切り取り線もない。ビニールを解いてから音を出すまで30分かかったCDって初めてです。何をさせたいのか意味不明すぎて笑いました。

 以前Yellow Fungの記事の中で、「今の20代は英語で歌うことへの違和感が下がってるんじゃないか」と書きました。でも、英語も母国語も不自由なく歌い、両方が自然に共存しているManic Sheepを聴いていると、「今の20代は英語で歌うことと母国語で歌うこととの間に区別がない」と書いた方が、より適切なのかなあ、なんて思います。








sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

2017年7月の3冊 〜2人の薩摩藩士のサーガ〜

『九重の雲 闘将 桐野利秋』

「嫌がる西郷隆盛を無理やり担いで暴発した狂犬の親玉」というイメージがあるかと思えば、「いやいや、単なる過激主義者とは違う合理的思考の持ち主で彼もまた下の者に担がれただけの犠牲者だった」という意見もあり、毀誉褒貶激しい人物である桐野利秋
 本書はその桐野を主人公にしているだけあって、基本的には彼を肯定的に描いてはいるのですが、一面的ではありません。たとえば「人斬り」と呼ばれたほどの男であるにもかかわらず、洋式銃の威力を知ると早々と刀に見切りをつけて乗りかえる合理的精神の持ち主として描く一方で、その合理的精神も「西郷」という理屈を超えた存在を前には退化してしまい、西南戦争に突入していく桐野については否定的に描いています。
 職業テロリストの陰惨さと古武士のような颯爽とした色気を併せ持ち、頭では分かっていてもついには近代人への一歩を踏み越えられなかった本書での桐野には、「最後の中世的英雄」というようなイメージを抱きます。





『狙うて候 銃豪村田経芳の生涯』

 村田経芳というと、明治陸軍に制式採用された初の国産洋式銃「村田銃」を発明した人物、としか知識がなかったのですが、タイトルにもある通り、彼は研究者であると同時に優れた射撃手=銃豪でもありました。
 彼の腕前がどのくらい優れていたかというと、幕末期に横浜で開かれた射撃大会に出場して、日本に駐留してた欧米の軍人を圧倒して優勝したほか、明治8年の欧州視察旅行では、イギリス、フランス、ドイツ、スイスと各地の射撃大会や軍人との試合を転戦して全て勝利を収めたほどでした。彼の活躍は欧州各地の新聞に載り、「ヨーロッパで一番の射撃手」と呼ばれたそうです。
 村田の出身地は薩摩です。同郷の友人や兄弟たちが、明治維新と西南戦争で次々と死んでいくなか、彼は天寿を全うして83歳まで生きます。晩年、「なぜあなたは生き延びられたのか」という質問に対して「技術屋に徹していたのがよかった」とした彼の答えには唸るものがありました。
 技術に徹していた=政治には手を出さなかったという意味なのですが、村田が国産様式銃の開発と軍制式化という壮大な夢に向けて突き進んでいる間に、友人たちは次々と非業の死に倒れ、西南戦争では同郷の人間同士が殺し合う(村田自身も参戦)ことになります。村田は「技術に徹していた」という言葉を、誇らしさと後ろめたさの両方を感じながら語っていたような気がします。





『銃士伝』

 関ヶ原の戦いの際、いわゆる「島津の退き口」で島津軍の殿を務め、追撃してくる井伊直政に重傷を負わせた兄弟の銃士や、高杉晋作が香港で買い求め、贈られた坂本竜馬が寺田屋事件の際に捕方に向けて発砲したといわれるリボルバー銃、近藤勇が伏見で狙撃されたときの銃など、日本史のさまざまな事件で登場する「銃」にフォーカスして書かれた話を集めた短編集
 著者の東郷隆(“りゅう”と読みます)は作家になる前、『コンバットマガジン』というガンマニア向けの雑誌の編集をしていました。『九重の雲』の桐野のウェストリー・リチャーズ銃にしても、『狙うて候』の村田銃にしても、この人の作品にやたらと銃が登場し、しかもその描写がめちゃくちゃ細かいのはこの経歴のためでしょう。
 ちなみに、この『銃士伝』にも桐野利秋と村田経芳が登場します。鳥羽伏見の戦いで、幕府軍の銃弾が降り注ぐまっただ中で村田が桐野にウェストリー・リチャーズ銃の撃ち方を教えるというシーンで、この場面は前述の2作品にもそれぞれの視点で描かれています。別々の3作品を読んだはずなのに、結果的には桐野利秋と村田経芳という、薩摩人でありながら明治以降対照的な人生を歩んだ2人のトリロジーを読んだような気分になりました。



 ということで、2年ぶりくらいに歴史小説を読みまくった7月でした。





sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

Charly Bliss 『Guppy』

charly-bliss-cover

目新しくはないけど
「こういうの」が聴きたかった


 最初に聴いた1曲が2016年のシングル<Turd>と<Ruby>のどちらだったのか、実は思い出せないのですが、1コーラス目だけを聴いただけで「これはヤバい。大好きになる」と確信したことははっきりと覚えています。

 NYブルックリン出身の4ピース、Charly Bliss。14年に自主制作EP『Soft Serve』を発表して以来、2枚のシングルに1枚のライブEPと、コンスタントに音源をリリースし、じわじわと認知度を上げていった彼らですが、今年4月、初のフルアルバムとなる『Guppy』をリリースしました。

 既発曲と新曲とを織り交ぜた、現時点での彼らのベストアルバム的構成で、シングル<Ruby>だけでなく、ライブ音源しかなかった<Percolator>や、<Bad Boy>からタイトルを変え新録された<Black Hole>なども収録されました。新曲の中では、なんといっても4曲目の<Glitter>でしょう。助走(Aメロ)、踏切(Bメロ)、飛翔(サビ)のような、躍動感のある展開をするこの曲は、1stEPの<Love Me>を超える、このバンドの新たな代表曲になったと思います。



 パワーポップと分類されることの多いCharly Blissですが、確かにFountains Of Wayneばりにメロディは泣きまくっているものの、決してそれだけではありません。

 たとえば、Sonic YouthやNirvanaを思い起こさせる、(今やちょっと懐かしくなってしまった)90年代オルタナのゴツゴツした手触りもあります。また、「バブルガムガレージ」などという造語で分類されることもあるように、紅一点のボーカル、エヴァ・ヘンドリックスの甲高いシャウトには、ティーンポップ的な可愛らしさや甘酸っぱさもあります。そういえば、エヴァの声を最初に聴いたときは、The Muffsのキム・シャタックっぽいなあと思ったのでした。

 メロディの良さとオルタナ的アイデアとエヴァの声。Charly Blissが僕の耳にフィットしたのは、この組み合わせがどこか、『Runners High』や『Little Busters』あたりのthe pillows(もう20年近く前なのか…)を彷彿とさせたからかもしれません。

 逆に言えば、Charly Blissの音楽は決して目新しいものではありません。むしろ、過去の音楽の再生成であり、「王道」とさえといえるでしょう。そういう意味では、このバンドがブルックリンという、「風変わり」の代名詞のような土地から出てきたことが意外です。エヴァは今でもブルックリンのコーヒーハウスでバイトをしているそうですが、このように「ザ・王道」のようなバンドが、デビューから3年経っても、NYの片隅のインディーシーンにいることについて、個人的には一抹のさみしさも覚えます。

 ただ、本人たちはそんなことはまるで気にしていないでしょう。もちろんビッグにはなりたいだろうけど、かといってインディーであることを恥じてもいない。そう思うのは、The Muffsやthe pillowsと比べると、Charly Blissははるかにドライで陽気だからです。

 エヴァの声にはキム・シャタックの毒気も山中さわおの陰鬱さもありません。90年代のオルタナって、ネガティブな感情をモチベーションにしているところがありますが、Charly Blissはそういう匂いがまったくといっていいほどない。音はとてもパワフルだけど、伝わってくるパーソナリティーは驚くほど自然体です。

 ここまで書いてきてふと思ったのですが、僕がCharli Blissの音楽に惹かれた本当の理由は、「ツルン」というか「フワッ」というか、余計な力が入ってない気軽で明るいところが、30代になった今の僕の感性にフィットしたからかもしれません。つまり、the pillowsに似ていたからというよりも、むしろthe pillowsとは正反対の部分に惹かれたんじゃないか、ということです。

 う〜ん。なんだか急に年を取った気がしてしまいました。








sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

『Sgt. Pepper's』の新旧ミックスを全曲聴き比べてみた 〜B面編〜

news_xlarge_thebeatles_jkt_sgt_2CD_UICY-15600_1

残りの全アルバムも
リミックスしてくれたらいいのに


 前回から引き続き、ビートルズ『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の50周年記念盤のステレオリミックスとオリジナルのモノラルミックスの聴き比べ。
※前回の記事:『Sgt. Pepper’s』の新旧ミックスを全曲聴き比べてみた 〜A面〜

 今回はアナログ盤でいうとB面にあたる後半の6曲を取り上げます。前回同様、09年のモノラルリマスターと、今回のステレオリミックスを聴き比べます。文中ではモノラルを【オリジナル】、ステレオを【リミックス】と呼びます。
-----------
#8 Within You Without You

 この曲は意外にも勝敗つけるのが難しかったです(【リミックス】の圧勝だろうと思ってた)。
 イントロのタンブーラやシタールの響きがフワーッと広がっていくところは、確かに【リミックス】で聴くと「おおお〜」と声を上げそうになります。けれど、空間の広がりを意識したミックスという点では、前曲の#7<Being For The Benefit Of Mr. Kite!>も同じ。2曲連続で空間系ミックスを聴くと、少々うるさく感じてしまいます
 アナログ盤であれば前曲との間に「盤をひっくり返す」というワンクッションが入るので、問題ないかもしれません。でも「次世代が聴くビートルズ」というこの企画の基準を考えると、アナログは前提にはできないので勝ちは【オリジナル】ということになります。
 ここで終わると、なんだか<Mr. Kite!>のとばっちりで【リミックス】が負けたってだけになるので少しだけフォローすると、【モノラル】の方が音が少しくたびれたような風合いになり、オリエンタルなこの曲にはそもそもこっちの方が合っていると思います。


#9 When I'm Sixty-Four

 この曲の「味の決め手」になっているのは古いジャズ風のクラリネットとピアノ。「古い」ということで【オリジナル】に軍配が上がりそうですが、僕はこの曲のクラリネットとピアノの本質をレトロではなく「ユーモア」だと捉えています。
 「僕が64歳になっても君は僕を必要としてくれるかな」という、他愛もないっちゃないラブソングですが、この曲がなんでこうも楽しく聴こえるかというと、「64歳」という絶妙な年齢と、そしてこのとぼけたようなクラリネット&ピアノの効果でしょう。両楽器の音がボーカルなどとひと塊になって聴こえるよりも、ボーカルと分かれて配置された方がバックグラウンド化されて、その効果をより発揮する気がします。ということで【リミックス】の勝ち


#10 Lovely Rita

 この曲について僕は#4<Getting Better>の姉妹編のようなイメージを持ってるんですけど、みなさんいかがですか?どちらの曲も、ポールのボーカルとジョン、ジョージのコーラス、そして楽器とが互いに追いかけっこをしてるように聴こえるところが面白いし、いかにもビートルズだなあと感じます。
 そうした三者の動きや距離感がつかみやすいのは【リミックス】の方です。<Getting Better>はリミックスの方針が空回りしてうるさくなってしまったので【オリジナル】の勝ちだったのですが、あの曲も本来はステレオミックスで聴きたい曲です。


#11 Good Morning Good Morning

 概していうなら、モノラルは音がごちゃっとくっつき合っているため、個々の音の境界線は曖昧で聴き取りやすさは落ちますが、ひとかたまりになっているぶん、疾走感やグルーヴ感は強く出ます。
 反対にステレオは、一つひとつの音を手に取って眺められそうなほどはっきり分かれていますが、聴き取りやすいぶん、目の前で手品の種明かしをされたような興醒め感があります。
 単なる印象なのですが、ジョンの作る曲はモノラル向きな気がします。ついでにいえば、ジョンの声もモノラルがいい
 この曲の場合も、シュールでわけのわからない正体不明な感じが、【リミックス】だと消えてしまってつまらないように感じます。ジョンの声も【リミックス】は迫力が足りない。【オリジナル】を聴いていると、「グッモーニン!」という叫びをスピーカーから垂れ流す得体の知れないトラックが目の前を駆け抜けていくような感じがします。


#12 Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)

 難しいです。#1と同じように、やはり#12もこの曲をどう捉えるかによって変わります。
 ただ、捉えるポイントは異なります。#1は、アルバムの幕開けということで、コンセプトである「ライブショー」に聴き比べるポイントがありました。一方、この#12はタイトルにもある「Reprise(=くり返し、もう一回)」をどう解釈するかが鍵になります。
 僕の解釈では、この曲はいわばカーテンコールで、作品の最後に置かれた「おまけ」のような位置付けです。ドリフの全員集合でいうところの<いい湯だな>ですね。
 そう考えると、【リミックス】よりも【オリジナル】の方が、遠くから響いてくる感じがあり、「これでおしまいですよ〜」という雰囲気をより醸し出してる気がします。
 ただ、そういう文脈を無視して1つの独立した曲として考えるなら、【リミックス】の方がよいです。迫力が違うし、ジョンとポールの声のバランスもよいです。先日のポールの来日ツアーでもこの曲やりましたが、【リミックス】のイメージの方が近かったですね。ジョンの曲はモノラル向きなのとは反対に、ポールの曲はステレオの方が良く感じるのは面白い対比です。


#13 A Day In The Life

 この曲はオーケストラのスケール感や深遠な物語世界を思わせるサウンドで神格化されがちですが、実態はジョン、ポール、再びジョンという、このバンドの必勝パターンである2人の歌のバトン交換です。
 1:30過ぎからの、ジョンからポールへのボーカルの受け渡しに生じる微妙な揺らぎは、【オリジナル】の圧勝です。
 また、オーケストラやピアノがメインを張っていますが、ピアノのリフはあくまでロック的だし、そもそもこの曲を前々へと運んでいるのは、他ならぬリンゴのドラムです。このような点を考えても、カタマリ感、疾走感のある【オリジナル】に軍配が上がります
 聴き比べる前はなんとなく【リミックス】の圧勝かなと思っていたのですが、曲の「核」にあたる部分がはっきりと【オリジナル】で聴かれることを求めていました。

-----------
 全13曲の聴き比べが終わりました。結果は、7勝6敗で【オリジナル】の勝ち。10曲目の<Lovely Rita>が終わった段階では6勝4敗で【リミックス】が押してたのですが、ラスト3曲で【オリジナル】が一気に逆転しました。

 んで、やった本人が書くのもナンなんですが、意外な結果です。なぜなら【リミックス】の圧勝だと思ってたから。そのくらい、今回の50周年盤はインパクトありました。正直「今まで何を聴いてたんだ?!」って愕然としたくらいです。ジャイルズのバランス感覚は素晴らしく、ものすごい集中力で自分の個性を押さえながら、「ビートルズがもしステレオを前提にリミックスしてたら」という仮定に対して説得力のある音源を作りだしています。

 このアルバムに関して、僕は今後旧ステレオミックスを聴くことはもうないでしょう。なので、「21世紀に残すに相応しいビートルズ音源」という当初ジャイルズが立てた目標は、十分に達成できていると僕は思います。

 一方で、今回のようにモノラルとステレオという軸で聴き比べると、まだまだ議論の余地はありそうです。また、個々の楽曲で聴き比べた結果とアルバム全体で比べた結果が、必ずしも一致しないというのも興味深いです。こうなってくると、『Let It Be』『Abbey Road』のモノラルミックスというのも聴いてみたい。

 ジャイルズには、マジでこのまま全作品のリミックスをやってほしいです。『ホワイトアルバム』については既に計画があるという噂ですが、いやいや、そのまま全オリジナルと『Past Masters』の2作品までやっちゃってください








sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ

『Sgt. Pepper's』の新旧ミックスを全曲聴き比べてみた 〜A面編〜

news_xlarge_thebeatles_jkt_sgt_2CD_UICY-15600_1

音がクリアで聴き取りやすい
VS 聴き取りやすけりゃいいってもんじゃない


 ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』のリリースから、今年でちょうど50年ということで、アニバーサリー・エディションが発売されました。

 同時期にレコーディングされていた<Penny Lane>などを含む、多数の未公開テイクの収録も話題になりましたが、目玉はなんといってもステレオ音源のリミックスです。過去に『Let It Be Naked…』のような例はありましたが、オリジナルのスタジオアルバムで、当時と同じカタログ、同じタイトルでビートルズの音源がリミックスされるのはこれが初めてではないでしょうか。

 リミックスを担当したのは、オリジナルのプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子であり、『Live At The Hollywood Bowl』のリマスターも担当した、ジャイルズ・マーティン

 『Mono Masters』のときにも書きましたが、ビートルズの4人は当時、ステレオ音源よりもモノラル音源の方を重視していました。ステレオのリミックスは、いわば「おまけ」のようなもの。しかし、CD時代になりステレオが主流になると、その「おまけ」で作られたステレオミックスの方が「ビートルズの音」として、長らく世界中に流通することになりました。

 今回ジャイルズが目指したのは、「当時の4人がステレオを前提にミックスしたら」という想像のもとでリミックスを施し、「次世代へ引き継ぐにふさわしいビートルズの音源」を作り直すことにありました。

 そこで今回は、かつて4人とジョージ・マーティンが、「これぞビートルズの音だ!」とこだわりぬいたモノラルミックスと、ジャイルズが「これぞ新しいビートルズだ!」と気合いを入れて作り直したステレオリミックスとを聴き比べ「どっちのビートルズが次世代に聴いてもらうに相応しいか」という観点で、全ての曲について勝敗をつけてみたいと思います

 当初はモノラルミックスではなく旧ステレオミックスと聴き比べをしようかと考えてました。同じステレオ同士で聴き比べた方が、より客観的で読みやすい比較ができると思ったからです。しかし、「何分何秒に鳴るギターの音が左から右に変わった」といった重箱の隅をつつくような話に終始しそうな予感もしました。

 であれば、50年前と現在とでそれぞれに「これぞビートルズ!」と自負している音源があるのなら、モノラルとステレオの違いなんて無視してその2つを聴き比べて「どっちが『本当のビートルズ』か?」という、思い切り主観的な観点から語った方が(僕が)楽しそうです。また、両方の音源についての物理的な違いを挙げることよりも、「どちらが好きか?」という態度を示すことの方が、「次世代のためのビートルズ音源」を目指したジャイルズと、将来、たまたまこの記事を見かけた「次世代」の誰かに対する誠意だとも思います。

 というわけで、前置きが長くなりましたが、聴き比べたのは、09年のモノラルリマスターと、今回のステレオリミックス。これを、「次世代」が音源を聴く環境に近いだろうという根拠で、スピーカーではなく、iPhoneに取り込んだものをイヤホン経由で聴きました。文中ではモノラルの方を【オリジナル】、今回の音源を【リミックス】と書きます。

 今回は、アナログ盤でいうとA面にあたる前半の7曲について書きます。
-----------
#1 Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

 いきなり逃げ口上を打つようでアレなんですが、この曲をどう捉えるかによって勝敗は変わります。
 【オリジナル】と【リミックス】の違いは、ごく簡単に言えば前者は全ての音がギュッと塊になったような凝縮感が強く、後者は左右に広がる分、空間的立体的な聴こえ方になります。
 んで、この曲を(というかこのアルバムを)ポールが立てたコンセプトの通り「架空のバンドによるライブショー」と捉えるのであれば、どちらがより「ライブ感」「臨場感」が強いかという点で【リミックス】の勝ち。逆に、一つの独立した曲として聴くのであれば、塊になっている【オリジナル】の方が力強く迫力があります。
 んでんで、幕開けでタイトル曲でもあるこの曲をアルバムと切り離して聴くわけにはいかないし、そもそも今回のリミックス自体が『サージェント』という「企画」に紐づいたものなので、あくまでアルバムの一部=アルバムのコンセプトを重視することにします。ということで【リミックス】の勝ち。センターにいるポールと、ポールと距離をとってワイドに配置されたジョンとジョージのコーラス、そして時に後ろから聞こえてくるようにも感じる観客の歓声という、全方位に広がった声の距離感が「ライブショー」の臨場感を生んでいます。


#2 With A Little Help From My Friends

 #1からつながって始まるこの曲も引き続き設定はライブショー。ということは当然この曲も【リミックス】の勝ち…と思いきや、迷ってしまいます。確かにリンゴと3人との掛け合いだけに焦点を当てれば【リミックス】の方が格段に良いです。しかし、メインボーカルであるリンゴの味のある声には、【オリジナル】のごちゃっと重なった音の方が合ってる気がするのです
 モノラルからステレオ、そしてステレオのリミックスという流れは、基本的には音と音の境界線を明確にしていくことと同義でした。難しいのは、一つひとつの音を区別できるようになると、新たな発見がある一方で、なんというか、身もふたもない感じにもなるということです(おまけにそのさじ加減は曲によって異なる)。この曲は、はまさにそのパターン。
 #1と#2で早くも顕著になったように、【オリジナル】と【リミックス】の戦いは、「音と音の分離が良くて聴き取りやすい」(リミックス)ということと「なんでもかんでも音を分ければいいってもんじゃない」(オリジナル)ということとの戦いという様相を呈してきました。


#3 Lucy In The Sky With Diamonds

 これはもう即断です。【リミックス】の勝ち
 イントロのハモンドオルガン(ハープシコードに聞こえるけどこれハモンドオルガンらしいよ)が、一音ずつ左右にバラされてるのを聴いた時「うわーやられた!」と思いました。リミックスとはどういうことかを、このアルバムでもっともわかりやすく示しているのは、この部分かもしれません。1枚、また1枚と、何層にも音が重なっていく様子が目に見えるようで、「<Lucy〜>ってこういう曲だったんだなあ」と今更ながら発見したような気がしました。


#4 Getting Better

 これは【オリジナル】の方がいい。というよりも【リミックス】が“やりすぎ”てしまった感じ。イントロの「チャッ、チャッ…」というギターの音からして角が立ちすぎだし、全体的にハイハットの音も耳障り。ジョンとジョージのコーラスもあそこまで生々しくない方がいいと思います。
 コーラスについて言えば、ビートルズの3人の場合、声質はバラバラなのに、合わさるとひとりの人の声に(というのは言い過ぎなんですが、印象としては)聴こえるという不思議な特徴があります。しかしこれも、#2で書いたように、3人の声をバラバラに離して置いてしまうと、妙によそよそしい感じに聴こえてしまうのです(といいつつ#1のように離した方が臨場感が出る場合もあるので厄介)。


#5 Fixing A Hole

 この曲は【リミックス】の勝ちですね。
 【オリジナル】との大きな違いの一つが、ハープシコードとエレキギターとがきっちりと区別されたこと。2つの音が交互に顔を出す喜劇的な動きが見えるようになり、それが「雨漏りしてる穴を塞ごう」というユーモラスなこの曲の世界観と合っています。ポールのボーカルに対するエコーのかかり方が強い点も良い。
 ここまで聴いてきてようやく自分でも気づいたのですが、どうやら僕が聴き比べで重視しているのは「どちらの音がその曲の世界観に近いか」というポイントにあるようです。もちろん「その曲の世界観」というのは、あくまで「僕が考える」という注釈つきですが。


#6 She's Leaving Home

 これは間違いなく【オリジナル】です
 理由はポールのボーカル。【オリジナル】の方が、声が遠いのです。森の向こうからややくぐもって聴こえるような声の雰囲気が、この曲には合ってるように思います。それに比べると【リミックス】はポールの声が前面に出てきすぎてしまって、Too Muchです。
 レナード・バーンスタインをして「シューベルトやヘンデルよりも上」と言わしめたとかなんだとかいわれるほど美しいメロディをもったこの曲も、耳元で生のまま歌われると、美しいがゆえにかえって身もふたもなくなってしまう感じがします。


#7 Being For The Benefit Of Mr. Kite!

 【リミックス】の勝ち
 この曲の魅力は、夜の公園に突然現れた移動遊園地の中に迷い込んでしまったような、ユーモラスなんだけど、同時に妖しくてちょっと怖い予感を感じさせるところです。『チャーリーとチョコレート工場』のようなイメージでしょうか。ポールが毎回ライブで披露するこの曲の演出も、ちょうどそんな雰囲気でした。つまり全方位から音が鳴っているような、空間的な広がりが肝になります。空間を表現するなら、ステレオに軍配が上がるのは自明でしょう。

-----------
次回はB面の6曲を取り上げます。








sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ
記事検索
プロフィール
twitter
読書メーター
ReiKINOSHITAの最近読んだ本
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

  • ライブドアブログ