週刊「歴史とロック」

歴史と音楽、たまに本やランニングのことなど。

V.A.『Gold Collection〜Oldies Best Artist 22』

「愛すべき孤独」を教えてくれた
正体不明の1枚


 先週、コニー・フランシスの話を書きました。彼女がもっとも人気を博したのは1950年代後半から60年代前半。今から60年近くも前になります。

「60年前の音楽を聴く」というと、一般的にはどう受け取られるだろう。やっぱり「マニア」「好事家」と思われちゃうんでしょうか。確かに、ただでさえ音楽を聴く人は(30代も後半になると特に)少ないのに、その中でもあえて昔の音楽にまで手を出すなんて、よほどのきっかけでもない限りはありえないのかもしれません。

 僕が50年代や60年代の音楽を聴き始めたのは20歳のときでした(10代の頃、自覚的に聴いていたのはビートルズサイモン&ガーファンクルくらいでした)。きっかけは、あるコンピ盤でした。『Gold Collection』というありがちすぎなタイトルに、マンハッタンの夕景(国際貿易センタービルがまだある時代です…)という雰囲気だけのジャケット写真。早い話が何の変哲もないコンピだったのですが、この1枚が、大げさに言えばその後の僕の音楽人生を大きく変えたのです。理由は収録曲。以下がその一覧です。

#1 Unchained Melody/The Righteous Brothers
#2 Only You/The Platters
#3 California Dreamin'/The Mamas And Papas
#4 A Whiter Shade Of Pale/Procol Harum
#5 The Sound Of Silence/Simon & Garfunkel
#6 Rhythm Of The Rain/The Cascades
#7 My Girl/The Temptations
#8 I Can't Stop Loving You/Ray Charles
#9 Stop! In The Name Of Love/Diana Ross & The Supremes
#10 Moon River/Andy Williams
#11 Can't Help Falling In Love/Elvis Presley
#12 Save The Last Dance For Me/The Drifters
#13 Stand By Me/Ben E. King
#14 San Francisco/Scott McKenzie
#15 Yesterday/The Beatles
#16 When A Man Loves A Woman/Percy Sledge
#17 The Green Green Glass Of Home/Tom Jones
#18 Una Lacrima Sul Viso/Bobby Solo
#19 Mona Lisa/Nat King Cole
#20 Only The Lonely/Roy Orbison
#21 Mr. Lonely/Bobby Vinton
#22 What A Wonderful World/Louis Armstrong

 伝わるでしょうか、この網羅性。Amazonのミュージックカテゴリで、「オールディーズ」で検索をかけると500件以上がヒットします。そのくらいオールディーズのコンピ盤ってたくさんありますが、複数枚組のものを除けば、1枚でこれほど幅広く有名曲をカバーしているアイテムは、ほとんどないはずです

 具体的に挙げるなら、まず#5、#8、#13、#15、#22。このあたりはビッグネームすぎてコンピには滅多に入りません。#9もかなりレア。シュープリームスがこういうコンピに顔を出すのも珍しいです。

 また、わずか22曲でありながら時代が広いのも特徴です。多くのオールディーズコンピが「50s」「60s」とディケイド区切りなのに、このアルバムには#1(55年)から#3(66年)までと、両方の時代をまたいでいます。その結果、映画音楽(#10)にジャズ(#22)、フォーク(#5)にロック(#4)にソウル(#8)と、ジャンルが異様に幅広くなっています。

 改めて曲目リストを見ると、感慨深いです。プロコル・ハルムドリフターズテンプテーションズ、このブログでも書いたカスケーズなどは全部このコンピで知りました。以前、劇団での選曲のことを書きましたが#6#12はまさにこのアルバムから流しています。ドリフターズはドゥーワップを聴きなおす流れでこの1年くらいで再燃しているし、ナット・キング・コールもちょうど春から聴きなおしているところ。未だに僕はこの身元不明のコンピ盤から影響を受けているのです。数あるオールディーズコンピから最初にこの1枚に出会ったことは、僕のこれまでの音楽人生における最大のラッキーだったかもしれません。



 再び「なぜ古い音楽を聴くようになったのか」という冒頭の話題に戻ってみるのですが、今思い出してみると、古い音楽=今は流行ってない音楽=自分しか聴いてない音楽、という優越感みたいなものはあった気がします。自分だけが知っているという文字通りの優越感だけでなく、流行や同世代性といったものを気にせず、一人でとことんその音楽に没入できるという、自分だけが独り占めできている安心感もありました。もしかしたら、音楽がもたらしてくれる「愛すべき孤独」を最初に教えてくれたのが、オールディーズだったのかもしれません。

 SpotifyやApple Musicで、ネット上に公開されている大量のライブラリから自由にプレイリストを作れるようになったいま、コンピ盤はもはや衰退していく運命でしょう。だから僕の娘とか、これから音楽を聴く世代には、僕がこの『Gold Collection』との出会いを「奇跡だ!」「ラッキーだ!」と言ってることが理解できないのかもしれないなあ。

 実はこのアルバム、長い間データでしか持ってなかったのです。なので先日、ふと思い立ってCDを買い直したところでした。アマゾンでもタワレコでもブックオフでも見つからず(というかタイトルすらうろ覚えだったので、収録曲とかで検索してました)諦めかけてたところ、ヤフオクに出品されてたのを偶然発見しました(ジャケットの写真が決め手でした)。しかも、まさにその日が出品初日。ここでも「奇跡」が起きたのでした。






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Connie Francis 『Rock 'n' Roll Million Sellers/Country & Western Golden Hits』

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比喩ではなく事実として
僕は彼女に「人生を変えられた」


 コニー・フランシスのどこにそんなに惹かれるのかと聞かれたら、やはりあの「声」という答えになると思います。少女の初々しさと大人の女性の色気。その両方を併せ持ち、強く前向きな意志を感じさせると同時に、その裏にある不安や怯えもにじませる。コニーの声には、世俗性と神秘性の両方がなぜだか同居してしまう、不思議な寛容さがあります

 最初に聴いたのは、映画『青春デンデケデケデケ』で流れた<Where The Boys Are(邦題:ボーイハント)>でした。あの切なく狂おしく歌い上げるコーラスを聴いて、中学生だった僕は「演歌みたいだなー」と思いました。でも、演歌はまったくピンとこないけど、この曲は「なんかいいな。なんか懐かしい感じがするな」と思ったのです(日本の演歌よりもアメリカのオールディーズに「懐かしい」と感じるのも不思議ですが)。だいぶ後になって、この曲を録音した当時、彼女はまだ20歳そこそこだったと知って驚きました。

 1938年生まれ。レコードデビューは1955年で17歳のとき。しばらくは鳴かず飛ばずでしたが1958年にシングル<Who’s Sorry Now?>がチャート4位に上るヒットとなって、コニー・フランシスは人気歌手の仲間入りをします。

 ヒットシングルが出たことでレコード会社(MGM)も彼女のアルバムを作り始めるのですが、記録を見るとその制作ペースはすさまじいものがあります。58年からMGMを移籍する69年までの12年間で、彼女が制作したアルバムは50枚を超えます。もっともすごいのは59年で、1年間になんと8枚ものアルバムを作りました。日本の80年代アイドルは「一つの季節に1枚のシングル=1年に4枚」というペースが慣例だったそうですが(これでさえ今の感覚からすると多いなと思いますが)、コニーはその倍のリリース量を、しかもシングルでなくアルバムでこなしてたわけですから、その怒涛っぷり、レコード会社のえげつなさっぷりがわかります。

 彼女が残したアルバムのうち、半分以上はカバーアルバムです(既存の曲を流用したからこそ、驚異的なペースでの制作が可能だったともいえます)。最初に作られたのは59年の『Connie Francis Sings Italian Favorites』で、その名の通り<帰れソレントへ>や<サンタ・ルチア>といったイタリアの伝統歌を歌っています。この「ご当地もの」はシリーズ化して、その後『Spanish & Latin American Favorites』、『Jewish Favorites』、『Irish Favorites』、『German Favorites』などが作られます。

 当時のコニー・フランシスは、あくまで流行歌を歌うポップス歌手でした。今でいうアイドル歌手です。その彼女が各地の伝統歌をレパートリーにもつところに、当時の歌手に求められていた資質がどういうものだったかがうかがえます

 一方で、彼女は同時代のヒット曲をカバーしたアルバムもたくさん作っています。中でも僕が好きなのは59年11月にリリースされた2枚のアルバム(繰り返すようですが、ひと月の間に2枚のアルバムがリリースされるということがすごい)、『Rock 'n' Roll Million Sellers』『Country & Western ? Golden Hits』

『Rock 'n' Roll Million Sellers』はエルヴィスの<Heartbreak Hotel>や<Don’t Be Cruel>、ファッツ・ドミノの<Ain't That a Shame>といったロックンロール最初期のナンバーをカバーしたアルバム。今見ると「オールディーズベスト」みたいな印象になっちゃいますが、当時はどれもリアルタイムのヒット曲です。タイトルに「ロックンロール」とついていますが、多分この言葉が生まれてすぐの頃だったはずです。

 このアルバムで唯一のオリジナル曲が、<Lipstick on Your Collar(邦題:カラーに口紅)>大滝詠一ラッツ&スターに書いた<Tシャツに口紅>のタイトル元ネタですね。僕はコニー・フランシスの中ではこの曲が一番好き。この曲はなんといってもイントロです。あの「Yeah Yeah Yeah・・・」っていう声、今聴くとものすごいパンクだと思いませんか

 作者はエドナ・ルイス(詞)とジョージ・ゴーリング(曲)。ジョージ・ゴーリングはこの曲のほかに<Robot Man>という曲をコニーに提供していますが、エドナ・ルイスは<Lipstick on Your Collar>1曲だけのよう。コニー・フランシスというと<Vacation>や<Stupid Cupid>、前述の<Where The Boys Are>でニール・セダカのイメージが強いですが、もうあと数曲だけでもこの2人のチームを起用してくれてたら印象が変わっていたんじゃないかという気がします。



 さて、もう1枚の『Country & Western Golden Hits』のほうですが、こちらもカバーしているのはハンク・ウィリアムスやエヴァリー・ブラザーズなど、同時代の人気歌手のナンバー。このアルバムと『Rock 'n' Roll Million Sellers』とを並べてみて、収録曲の違いやこの2枚が同時期に発売されることなどをあれこれ考えると、当時のポップス界の雰囲気が想像できるような気がします。

 こっちのアルバムにコニーのオリジナル曲はありません。ですが、なんといってもこっちには<Tennessee Waltz>が入っています。何人ものアーティストがカバーしている名曲中の名曲ですが、もっともヒットしたパティ・ペイジ版(1950年)と比べても、このコニーのバージョンのほうが素晴らしいと思う。夜空に浮かぶ月のように静かな彼女の歌い方には、かつての悲しい出来事を乗り越えてようやく平穏を取り戻せたという過去との距離が表れています。しかし優しさすら感じさせる歌声には、だからこそそこにいたるまでのを苦しみや葛藤も想像させます。ものすごく人生の重みを感じさせる歌声です。この曲を歌ったとき、彼女は若干21歳でした。



 とりとめもなくコニー・フランシスについて書いてきました。なんのかんので、この1年くらいで一番聴いているのは、実は彼女の曲かもしれません。それくらい好き。彼女と、そして同時代のドゥーワップが、とりあえず現時点での僕の「ゴール」っていう感じすらあります。そして彼女に関しては、単に好きというだけでなく、「生活スタイルを変えられる」という極めて物理的現実的な影響も受けています。

 SNSやニュースサイト、個人のブログなどを利用してインターネットに広く網を張り、新しいアーティストの新しい曲をできる限りフォローして、気になればアルバムを買って聴く。そういう生活を10年近く続けてきました。ネットのサービスはどんどん進化しているので情報収集の効率は上がり、ここ数年は1年で買うアルバムが100枚を超えるようになりました。単純計算で1週間に2枚は新作が手元に届いていることになります。

 次から次へと新しい音楽を聴くことをずっと楽しんでいたのですが、実はここ1年ほどは、疲れを感じることのほうが多くなりました。気に入ったアルバムが見つかったら本当は1週間でも1か月でも繰り返しリピートしたいし、たとえ初めは気に入らなくても、じっくり聴きこめば好きになることがあるかもしれない。だけど、新作が続々と届くので1枚のアルバムにかけられる時間は削られていく。音楽を「聴く」というよりも「消化する」と表現したほうがいいような接し方をしていることに、嫌気がさしてきたのです。

 そんなときに手に取ったのがコニー・フランシスでした。なぜ彼女だったのかはよく覚えてません。多分、どこかで彼女の名前を見たか音楽を耳にするかして、久々に(というか腰を据えて聴くのはほぼ初めて)手に取ったのです。新作がどんどん届くから、彼女だけを聴いている時間なんてないのに、なぜか来る日も来る日も彼女の音楽を聴いていました。

 正直、それがめちゃくちゃ楽しかった。「やっぱ音楽は、いかにたくさん聴くかではなく、いかに深く聴くかだよなあ」と思いました。気に入った曲を、骨までしゃぶりつくすように何度も繰り返し聴いていた10代の頃に戻ったようでした。このことをきっかけに、僕はそれまでの「質より量」「ストックよりフロー」な生活を改めて、「好きな曲を好きなだけ聴く」というシンプルなスタイルに戻すことにしたのです。

 これが今年の年明けのこと。なので、もう半年以上が経ちました。実は、その後に読書という僕のもう一つの趣味についても似たようなスタイルの見直しをしたので、今の僕の生活はものすごくスローです。新しい情報には疎くなったけど、今のところそれで困ったことはありません。(現時点では)という但し書きつきではあるものの、一つの作品にかけられる時間が増えたぶん、今のスタイルの方が楽しいです。

 比喩ではなく事実として、僕はコニー・フランシスに人生を変えられたのです








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Alvvays『Antisocialites』

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あなたがあなたであることで
困る人は誰もいない


 カナダのトロント出身のバンド、Alvvaysの2ndアルバム。2017年9月のリリースなので超がつくほど今更なんですけど、いやー、あの衝撃的な1stアルバムと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上の大名盤です。大好き。何度言っても足りないくらい大好き。

 もはやこのバンドのトレードマークになった、夏の陽炎のように輪郭の淡い音像モリー・ランキンのボーカルも変わらず瑞々しく繊細ですが、1stの頃よりも声の伸びが良くなった印象を受けます。

 そしてなんといっても歌メロが相変わらず素晴らしい。確か最初にこのアルバムから公開されたのは、<Dreams Tonite>だったと思うのですが、最初に聴いた瞬間に「あ〜、これこれ!」と思った記憶があります。



 ただ、今回のアルバムで特にいいなあと思ったのは、実はサウンドよりも歌詞の方でした。例えば前述の<Dreams Tonite>のコーラス部分の歌詞。
If I saw you on the street, would I have you in my dreams tonight?
If I saw you on the street, would I have you in my dreams tonight, tonight?

 ある意味ではとてもありふれたフレーズなのに、モリーの声やメロディの効果もあって、とても映像的に響きます。


 この曲と並ぶリード曲<In Undertow>も好き。
"What's left for you and me?"
I ask that question rhetorically
Can't buy into astrology, and won't rely on the moon for anything

No turning
There's no turning
There's no turning back after what's been said
No turning
There's no turning
There's no turning back

 この曲が試聴開始された日は、1日中Spotifyで聴いてた気がする。この「There’s no〜」の繰り返しが本当に切ない。繰り返されることで、心の内で自分に言い聞かせている様子が伝わってくる気がします。

 両方の曲に共通するのは、ある人との間に横たわる深い溝の存在です。その溝は、かつてはまったくなかったのに、いつの間にか生まれてしまったことがうかがえます。本当はその人と近づきたいのに、なぜかすれ違ってしまってばかりで、本心と現実とのギャップに主人公たちは途方に暮れています。

 アルバムタイトルの“Antisocialites”は、実は造語。“socialites”(社交的な人、社交術に長けた人)の“Anti-”(反対)ということで、「引っ込み思案な人」「人づきあいが不器用な人」というような意味になるでしょうか。思い切って声をかけて本心を話せば済みそうなものを、一人心の中で逡巡しているだけだった歌の主人公たちは、まさに「Antisocialites」といえます。

 自分で自分のことを「社交的な人間だ」と思える人は、あまり多くはないはずです。こないだ、会社の同僚で周囲の誰もから「社交的な人」と思われている人が、ポツリと「俺ももっと社交的にならないとダメだな」と呟いているのを聞いて「この人のレベルでもそう感じるのか」とのけぞったことがありました。「社交的でなければならない」という強迫観念と、その「社交的」が要求するレベルには常に届かないというジレンマは、現代人が普遍的に抱えるものなのかもしれません。

 ただ、このアルバムのテーマは決して「Antisocialites」であることを否定したり、克服しようとしたりすることではなく、「Antisocialites」としての悩みや悲しさ、喜びといったものを示しながら、寄り添い共感しようとするところにあります。

 僕が一番いいなと思ったのは、9曲目<Saved by a Waif>のコーラス直前にサラッと歌われるこのフレーズ。
Stay where you are
State what you are
Stay where you are
And no one gets hurt

 最後の「And no one gets hurt」というのがとてもいいですね。これ、日本盤の訳詞だと「誰も傷つけないように」とその前の”stay”と”state”の動機を説明している句になってるんだけど、僕は「あなたがあなたであることで、困る人は誰もいない」という単独の一節だと読みました。「Antisocialites」だけでなく、例えばLGBTQなども含めて、社会に生きるみんなに投げかけてるメッセージのようで、僕は自分の誤読のほうがしっくりくるんだよなあ。

 今年の11月、ついに初の単独来日公演が実現します。絶対に行きます。








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Liam Gallagher『As You Were』

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一周まわって頭をもたげた
太古の「恐竜」


「最初のロック体験」というものが誰にもあるのだとすれば、僕にとってのそれはオアシスの<Morning Glory>だったろうと思います。具体的に言えば、イントロのあの粘つくようなチョーキングであり、リアム・ギャラガーの死んだ魚のような瞳であり、そして彼のしゃがれた声でした。それは「髪の毛を逆立てた人が派手な照明を浴びながら大声で叫ぶもの」としか理解していなかった僕のロック観を根底から覆すのに、十分な衝撃でした。

 あれから四半世紀経っても、未だにリアムの新譜を追い続け、SNSをフォローし、(ゴシップ含めて)関連記事にもひと通り目を通しているのは、ひとえに彼が僕にとってただ一人の「リアルタイムで出会ったロックスター」だからです(ノエルではなくリアムに惹かれ続けるのは、最初の出会いの衝撃が、主にリアムの出で立ちや声によるものだったからでしょう)。

 ただ、それはあくまで僕にとっての話。いい年して(もう彼も40半ばですよ)Twitterでノエルに噛みつきまくるのも、自らを「ロックンロールの救世主」と信じて疑わない言動も、僕には「相変わらずだなあ」と微笑ましいけど、今の10代20代からすれば「だたのイタい中年」に映ってるんじゃないかとヒヤヒヤします

 ある海外のフェスで、リアムのステージは確かにめちゃくちゃ盛り上がってるんだけど、現地にいた人によれば観客の大半は40代のおじさんだった…という話をネットで読んだとき、僕は悲しいというよりも「そりゃそうだよな」と納得してしまいました

 だから、17年秋にリリースされたリアムにとっての初のソロアルバム『As You Were』が、本国チャートで1位を獲得し、特にアナログでは過去最高のセールスをたたき出すなど非常に高い評価を得ているのも、それを支えているのは結局往年のファンなんじゃないかとまだ疑っています(もちろん、そうだとしてもそれ自体は悪いことじゃないし、「往年のファン」といっても彼の場合は数百万人単位ではある)。

 とはいえ、アルバムは確かにいいです。僕はBeady Eyeをかなり応援してたので、解散してソロでアルバム出すっていったときはちょっと複雑だったんですが、実際聴いてみるとBeady Eye時代の2枚のアルバムよりも確かに良いですね。

 どう良いかというと、多くの人が指摘していることではありますが、徹底的に「リアムの魅力を余すところなく表現しきる」という点に焦点を絞っているところ。その最大の仕掛けが、アデルの『Hello』、SIAの一連の作品で知られるグレッグ・カースティンや、ヴァクシーンズやサーカ・ウェーヴスのプロデューサーでもあるダン・グレッグ・マーグエラットなど、多様なソングライター陣の参加。なかでもアンドリュー・ワイアットの作った<Chinatown>は、リアムの枯れた魅力が発揮された、今までなかったタイプの曲だと思います。



 リアムの最大の魅力は、14歳の僕がショックを受けたように、やはりあの強烈なキャラクターを持った声でしょう。そしてその声の強さが発揮されるためには、メロディにも同じだけの強度が必要でした。若手の才能あるソングライターを招集したのは、リアムの声に見合うメロディを作り出すためには必要な作戦でした(今回のアルバムの成功は、ある意味では逆説的にノエル・ギャラガーという人物の存在感をより一層強めたともいえます)。

 ハードロック的な高音シャウト系ではない歌い方で数万人規模のスタジアムを歌わせられるという点で、僕自身の個人的思い入れを抜きにしても、やはりリアムの歴史的インパクトはデカいと思います。それは、彼を凌ぐスタジアムボーカリストが、結局今に至っても現れていないことを見ても明らかです(ジョージ・エズラとかかなり可能性ありそうなんですけど)。

 そう考えると、今の若い子には、リアムの存在はかえって新鮮なのかもしれません。恐竜がロマンを誘うのは、今はもう滅んでしまったという前提があるからこそですが、いつでもどこでもコートを脱がずビッグマウスを叩くリアムのキャラクターも、もしかしたら若い子の目には恐竜のように映っているのかも。

 まあ、これは全て「若い世代がリアムに注目していたら」と仮定した上での想像ですが。ただそのうえで僕がいいなと思うのは、一周まわって過去を参照しようという気分が盛り上がったときに、それに応えられる存在が手に届くメジャーな場所に常に存在しているという、イギリスの文化的豊かさです。

 今年の9月にソロ名義では初の単独来日公演が予定されています。もちろんチケット取りました。








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シャネルズ『ダンス!ダンス!ダンス!』

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「カバーに寄せたオリジナル曲」で
最後にルーツ愛をもう一度


 先週に続いてシャネルズです。

 前回、シャネルズとラッツ&スターの違いを「ルーツへのこだわり」と書きました。そしてルーツであるドゥーワップやR&Bへの愛が爆発した作品として、1981年の『Live At "Wisky A Go Go"』を紹介しました。ただ、もしシンプルに「シャネルズとしての最高傑作は何か」と聞かれたら、僕は82年にリリースされた6th『ダンス!ダンス!ダンス!』と答えます。

 このアルバムは半分がカバー曲です。2nd『Heart & Soul』以降、スタジオアルバムは全曲オリジナルで統一していたので、久しぶりにカバーを取り入れた形です。とはいえ、オリジナルとカバーをA面、B面で区切った1st『Mr.ブラック』や、ほぼ全曲カバーといっていい『Live At "Wisky A Go Go"』とこのアルバムは大きく異なります。

 それは、カバー曲よりもむしろオリジナル曲の方に注目するとわかります。例えば2曲目の<週末ダイナマイト>。アルバムの実質的な幕開けを飾る派手なナンバーですが、この曲を流して聴いていると「あれっ?」と思うはずです。理由は、いつの間にか次の3曲目<Peppermint Twist>に移っているから。曲間が極端に短く、サウンドの感触も似ているのでじっと聴いていないと、曲が切り替わった瞬間がわからないのです。

 もっと顕著なのは、4曲目の表題曲<ダンス!ダンス!ダンス!>。この曲は明らかに5曲目の<Boogie Woogie Teenage>と、「つなげて1曲に聴こえるように」という意図をもって作られています。

<Peppermint Twist>も<Boogie Woogie Teenage>もカバー曲です(前者のオリジナルはJoey Lee & The Starliters、後者はDon Julian & The Meadowlarks)。つなげる2曲のうち片方がカバー曲ということはつまり、オリジナルの方をそのカバー曲に寄せて(合わせて)意識的に作っているということです

 このアルバムではほかにも、<Do You Wanna Dance>(オリジナルはBobby Freeman)に対する<Yeah!Yeah!Yeah!>や、<Lovers Never Say Good-bye>(オリジナルはThe Flamingos)に対する<星くずのダンス・ホール>など、1つ隣のカバー曲に寄せたと思われるオリジナル曲が見受けられます。

 オリジナルすらもカバー曲に合わせて作られている、いわば支配下にあるという点において、このアルバムは実質的には全曲カバーアルバムといえます。単にカバーするだけではなく、そのカバーに合わせて自分たちのオリジナル曲を作って組み合わせることで、カバーとオリジナルの垣根をなくす。この創造性とドラスティックさが、『Mr.ブラック』や『Live At "Wisky A Go Go"』との違いです(繰り返しますが、このような曲作りができる田代まさしと鈴木雅之のソングライティングチームはもっと評価されるべきだと思います)。



 ただ、一方で興味深いのは<ダンス!ダンス!ダンス!>の冒頭にあるコント(?)では、メンバーは明らかに黒人をパロディ化している点です。鈴木雅之らが演じる黒人のモノマネを聴く限り、彼らは決して原理主義的ではなく、盗むのはあくまで音楽だけというような割り切ったスタンスが垣間見えます。

 時系列で見ると、1つ前のアルバム『Soul Shadows』でシャネルズは「ドゥーワップの雰囲気を残しつつポップミュージックの一般性も追求する」という試みに一定の成果を上げました。<憧れのスレンダー・ガール>や<もしかしてI Love You>、<渚のスーベニール>といった楽曲は、ラッツ&スターの音楽スタイルのヒントになったはずです。

 そして、『Soul Shadows』で次のステップに進める自信を得たシャネルズが、その前にもう一度だけ原点である黒人音楽に向き合って、「過去の名曲に合わせてオリジナルを作る」という方法論で自分たちなりのリスペクトを示したのが『ダンス!ダンス!ダンス!』だったのではないか…というのが僕の想像なのです。

 このアルバムでは鈴木雅之だけでなく、田代まさし、佐藤善雄、久保木博之、桑野信義、新保清孝という、グループの全ボーカリストがリードをとる曲が収録されています。6人全員のリード曲が1枚に収録されているのはこのアルバムだけです

 特に素晴らしいのは田代まさし。<Peppermint Twist>の鼻にかかったボーカルを聴かせ、<Boogie Woogie Teenage>で後半から入ってくるところなどは、グループの誰よりも色気があります。もちろん作品全体のポイントを締めるのは鈴木雅之なのですが、他のボーカリストの活躍により、このアルバムでは彼の存在感は相対的に後ろに下がっています。この「全員参加」なところも、グループとしての総決算であることを感じさせます。









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