alanis





傷を舐めあって群れる男
それを横目に自立する女


現在NHK-FMで毎週火曜の23時から放送されている『元春レイディオ・ショー』がとっても良い。
番組のナビゲーターは佐野元春
彼自身がON AIRする曲をセレクトしていて、特定のジャンルに偏らない、
ちょっと知的でマニアックな音楽ばかりをかけてくれる。

ちなみにこの番組は80年代に放送されていた『ミュージック・ストリート』という番組が元になっていて、
当時は佐野元春の他に、坂本龍一や山下達郎が日替わりでナビゲーターをやっていたらしい。
なんという豪華な顔ぶれ!

僕にとって、未知の音楽への架橋をつないでくれたのは、ラジオではなくMTVだった。
最近じゃiTunesなどのネットメディアに押されてすっかり人気は下火になってしまったらしいけれど、
少なくとも僕が高校生だった頃、
ゴールデンタイムの歌番組なんかじゃ物足りなかった音楽への好奇心を受け止めてくれたのはMTVだった。

今回紹介するのは、アラニス・モリセットがMTVの名物番組『アンプラグド』に出演した際のライヴ盤。
この番組は小さなスタジオに観客を招き、
毎回違うアーティストがそこでアコースティック・ライヴを行うというもの。
過去出演したアーティストは数えたらキリがないのだけれど、
シンプルなアレンジと生楽器による演奏は、毎回CD音源とは一味違う魅力を発見させてくれる。
なかにはニルヴァーナやレニー・クラヴィッツといった、
アコースティックなイメージとは正反対にあるようなアーティストも出演していて、
そういった意外性もこの番組の見所だった。

アラニス・モリセットも、本来は重く歪んだギターをバックにシャウトしまくるヘヴィゲージなアーティストである。
しかしこの『アンプラグド』における一連のアレンジは、
元々こういう曲だったのかと思うくらいに完成度が高い。
エレキギターが削ぎ落とされ、代わりにモダンジャズのように引き締まったピアノが高いウェイトを占めていて、
それが彼女の歌声を際立たせている。
正直このアルバムを聴くまでは、彼女がこんなに歌が上手いとは思っていなかった。

女性シンガーが音楽を通して女性の強さや自立を歌うケースは、
それこそエディット・ピアフやビリー・ホリデイの時代からたくさんあるけれど、
その多くは「男性に対しての女性」という文脈のなかでしか歌われてこなかった。
男性社会のなかでの女性の生き方の模索であったり、男性よりも優れた女性の特質であったり、
当時の社会と文化のなかでは、男性という存在を前提にしなければ、
多くの女性は自らを定位できなかったのである。
そして時代性が徐々に変容し
、女性アーティストが男性という重力圏を離れ、女性固有の価値観を表現してきたのが、
60年代のジャニス・ジョプリン、70年代のジョニ・ミッチェル、
80年代のマドンナとシンディ・ローパーという流れだったのである。

そして90年代後半あたりから、男性性と切り離して女性性を歌える女性シンガーが登場する。
アラニス・モリセットはその代表格であり、パイオニアの一人。
彼女の歌詞には自分を捨てた元カレが登場したりしてけっこう暴露的なのだが、
それをサラッと、すがすがしいほどの笑顔で歌ってしまう。
そこには男性に対する遠慮も気負いもコンプレックスもないどころか、
男性のことを歌っていても男性を感じないという不思議な透明性がある。
「女性として」「男性として」という従来型の発想を超えた、一人の人間としての自然な佇まいを見るようだ。

ここ10年くらい、邦楽も洋楽も、女性はソロアーティストが増えて、
逆に男性はソロが減ってバンドマンが増えている気がする。
なんだかこれは女性が強く逞しくなり、
その一方で、男性の軟弱体質化が進んでいることの表れのように思えてしまうのだが、
同じ男として我が身を顧みると思い当たる節もあって、正直笑えない。







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