bad





最高の、そしておそらく最後の
「スーパースター」


マイケル・ジャクソンが亡くなってしまった。
本当にショックだ。
今年から世界ツアーを始めるというアナウンスが本人から発せられたばかりだっただけに、
余計に悲しい(最初のロンドン公演が急遽延期になるというお騒がせも相変わらずだった)。
兄思いの妹ジャネットは今何を思っているのだろうと考えると胸が痛い。

多分、僕が人生で最初に出会った洋楽アーティストは彼だ。
「多分」と書いたのは、本当に幼い頃なので記憶が曖昧なのだ。
小学校に上がったくらいだろうか、とにかくまだ10歳にもなってなかった頃のことだ。

僕は<BAD>が好きだった。
しかし歌詞の意味が理解できていたはずはない。
「“BAD”ってナアニ?」と親に聞いていたくらいだ。

じゃあ何が好きだったかと言えば、ダンスである。
僕はレコードではなくPVが好きだった。
廃ビルみたいな地下鉄の駅構内みたいな、
とにかく薄汚れた場所でマイケルとダンサーたちが踊りまくるアレである。
やたらと細かくて素早い動き、独創的な振付。とにかくあのダンスに夢中になった。
僕にとってマイケルは「聴く」ものではなく「観る」ものだったのだ。

なんだか僕が異様にマセていたように見えるが、
現在20代後半から30代前半くらいの人にとっては決して珍しいことじゃないはずだ。
当時の小学生は小学生なりに、マイケルに洗礼を受けたのである。



YouTubeでPVを見て改めて思う。
マイケルのダンスはやっぱりすごい。
何年か前に、あるセレモニーのステージでマイケルとN’SYNCが共演したのを観たことがあるけれど、
当時ボーイズ・グループのなかでは飛び抜けてダンスが上手かったN‘SYNCも、
マイケルの存在感には叶わなかった。

彼のダンスは他人にはコピーできない。
ただ、それは単純な肉体の修練度の差だけではないと思う。
彼のダンスはいわゆる「ダンス」というよりも、ビートと肉体が密接に絡みついた、
ある意味洗練されていない原初的な身体表現なのではないか。
マイケルのダンスは彼の感性の塊であり、
他人の声や顔を真似ることができないのと同じように
彼以外にあのダンスは生み出せないのである。


個人的な思い出をもう一つ。
僕は小学2年生の時にアメリカに引っ越して、現地の学校に転入した。
アメリカ社会というのは、とにかく自分から発言し、自分の意思を明確に相手に伝えることを要求される。
小学生であってもそれは同じで、
黙っていても近くの席同士でなんとなく友達になれる日本とはクラス事情が決定的に異なるのである。
だから“shy”である人間はアメリカでは疎まれる。
日本で「あいつはシャイだ」というと、ちょっとした愛嬌と親しみのこもった表現になるが、
アメリカでは相手をバカにした表現なのだ。

僕は明らかに“shy”な生徒だった。
日本語でさえ上手く話すことが苦手なのに、
言葉が通じない人間たちに囲まれればどうしたって“shy”になってしまう。
英語が徐々に話せるようになるまで、僕は“shy”であることにじっと耐えなければならなかった。
う〜ん、よく登校拒否にならなかったものだ。

で、ちょうどその頃のことなのだが、ある時テレビでマイケルのインタビューを観た。
マイケルの喋っている姿を見たことがある人はわかると思うんだけど、
彼はいつも恥ずかしそうにはにかみながら、ポツポツと小さな声で喋る。
そんな彼に対し、インタビュアーが「君はshyだね」と言ったのである。
それはバカにした言い方ではなく、とても好意的な一言だった。
ステージ上の姿とのギャップに親しみを覚えたのかもしれない。

ある人間が同性愛であることをカミングアウトして、
それが他の同性愛者に勇気を与えるように、と言ったら大げさなのはわかっている。
だが、僕はあのマイケル(とそのコメント)に、ちょっとだけ救われたような気持ちになったのだ。
「そうか、マイケルもshyなのか。マイケル・ジャクソンがshyなら、僕もshyでいいんじゃないか」と。
同じ「shy村」出身だと知って以来、僕はマイケルに対してなんとなく親近感を感じてきたのだった。


最後に作品について。
僕がマイケルの作品で好きなのは『オフ・ザ・ウォール』(‘79)からこの『BAD』(’87)までの3作だ。
すなわちクインシー・ジョーンズが関わった作品である。
マイケルとクインシーは二人三脚で、
ポップなディスコチューンでありながらもブラックな棘をさりげなくちりばめた、
素人にも玄人にも波及性のある楽曲を量産し、
スーパースター「マイケル・ジャクソン」の黄金期を作り上げた。
あえて3作の特徴を分ければ『オフ・ザ・ウォール』はスイート、『スリラー』はポップ、
そして『BAD』はワイルド、という感じだろうか。
個人的な思い入れから今回は『BAD』を挙げているけれど、この3枚全てが必聴盤である。








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