「優しさによる救済か
 憎しみによる厳罰か」


 現在土曜21時にNHKで放映されているドラマ『リミット 刑事の現場2』が面白い。

 タイトルに刑事と名がついているが、犯人探しやトリック暴きを主とするいわゆる刑事ドラマとは趣を異にする。罪を犯した人間と、それを追跡する人間、そして被害者と遺族のその後の人生を描くことに重きを置いた作品だ。

 人間の良心の存在を信じ、被害者加害者双方に対して救いの道を探そうとする若い刑事(森山未來)と、有能だが暴力的で「刑事とは人を憎む仕事」と言って憚らない老刑事(武田鉄矢)。この2人の主人公の衝突が、「人は人を罰せられるのか」「憎しみは消えるのか」といった根本的かつヘヴィな命題を浮き彫りにする。この世界には、完璧な絶望もない代わりに単純な希望もない。全ては混沌としていて、僕らはその中で悩み続け、何かを選び取っていくしかないのだという厳然たる事実を、このドラマはナイフのような鋭さでもって観ている者に突きつける。

 NHKの土曜21時というのはいつも重厚なドラマを放送する枠で(以前紹介した『ハゲタカ』も確かこの枠だった)、僕はこの枠自体のファンなのだが、多少引いた目で見れば、こんなヘヴィな作品を放送するには確かにこの時間帯以外にないように思える。平日夜に『ハゲタカ』やこの『リミット』のような、体力を要する作品を観てしまったら、翌日仕事に行く気力がなくなるもの。ただ、間違いなく意欲作であり秀作揃いの枠である。

 『リミット』は全5回放送で、先週第2回が終わったところ。これまでに観たところだと、老刑事梅木を演じる武田鉄矢がとにかく良い。人間そのものへの不信と憎悪。まるで悪鬼か修羅のような、超然とした存在感を感じさせる。連続通り魔事件の犯人に対し、「お前みたいな奴は死んでしまえ!」と言い放つシーンなどは胸が締め付けられ、涙が出そうになった。演技というものはここまで行けるものなのか。

 第2回では、梅木には過去に婚約者がいて、その婚約者が殺されてしまったという事実が判明。彼は犯人への憎しみを決して絶やすことなく心のうちに育て続け、その憎悪によって自らを刑事という職業に駆り立ててきたのだった。

 そして、かつて婚約者を殺した犯人が仮釈放されることが決定する。それを聞いた梅木は言う。「絶対にあいつを殺す」。

 まだドラマは折り返し地点にも至っていない。それなのに、すでに物語は身を裂かれるような悲しみと憎しみでいっぱいである。果たしてこの先、どのような物語が紡がれるのだろうか。暗い海の底を知っている者の方が、太陽の明るさと温もりをより深く味わえるように、このヘヴィなドラマがたとえ一瞬でも、豊かな光明を登場人物たちに照らすことを期待して、今週も僕は第3回を観るのである。


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