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無駄なく矛盾なく効率的に
最短距離でビートルズを好きになる方法


今月9日に発売されたビートルズのデジタル・リマスター盤が売れに売れている。
驚いたのは全アルバムを梱包したボックスセットが一番売れているということ。
値段はステレオボックスが35,800円、モノボックスが39,800円とかなりの高額。
にもかかわらず、タワーレコードの洋楽ウィークリーチャートではモノボックスが1位、
ステレオボックスが2位を記録した。
両セットともに、現在ではすでに店頭から姿を消してしまっている。
モノボックスにいたっては初回限定生産なので、ほぼ入手不可能といっていい。

購買層は当初は50代が多かったが、日が経つにつれて20,30代が増えてきたそうだ。
これを機にビートルズを聴いてみようという“後追い世代”が続々と買い求めているようである。
おそらく、まだ買ってはいないけれどいずれ買いたいと考えている“潜在的リスナー”を含めれば、
その数は相当数に上るはずだ。

さて、話は前回の続きである。
「一体どのアルバムから聴けばよいのか」。
ボックスセットを買った(これから買う)人であれば、腰をすえて年代順に聴くこともできるし、
手当たり次第に聴きながら好きな曲を横断的に見つけていくこともできる。
だがバラ売りを一枚ずつ買っていこうと考えている人には、
入口をどこに設定するかは切実かつ難しい問題である。

まず最初に言えることは、どのアルバムから聴いてもいいのである。
アルバム一枚一枚が異なる魅力を持っているのがビートルズだ。
もちろん作品によってキャッチーさ、ポップさに違いはある。
そういった点で、前回書いたように『THE BEATLES(ホワイト・アルバム)』や
『ABBEY ROAD』は“どんなリスナーの耳にも届く聴きやすさ”のある作品ではないように思う。

だが、その一点だけをもって「ビートルズはダメだ」と判断するのは早計だ。
あまりにもったいない。
両作品ともにいずれ出会う作品、時が来ればいずれ“愛する”作品なのである。
大事なのは、出会う前にで投げ出してしまわないことだ。これも前回書いたことだが、
ビートルズを聴く際の最大の障壁は、
「ビートルズだから聴きやすい、ビートルズだからスゴイ」という勝手な期待なのである。

ということを踏まえたうえで、以下の提案を読んでもらいたい。
僕の考える、ビートルズを楽しく聴けるアルバム順である。

 RUBBER SOUL』(6枚目)
◆REVOLVER』(7枚目)、『HELP!』(5枚目)
『SGT. PEPPER’S〜』(8枚目)、『BEATLES FOR SALE』(4枚目)
ぁMAGICAL MYSTERY TOUR』(9枚目)、『A HARD DAYS NIGHT』(3枚目)
ァTHE BEATLES』(10枚目)、『WITH THE BEATLES』(2枚目)
ΑLET IT BE』(13枚目)、『PAST MASTERS』
АABBEY ROAD』(12枚目)、『PLEASE PLEASE ME』(1枚目)


『RUBBER SOUL』を基点にして一方は年代順に、もう一方は遡りながら、
2つの方向でアルバムを追っていくという聴き方である。

なぜ『RUBBER SOUL』なのか。
それは『RUBBER SOUL』がビートルズの最大の分岐点、
その歴史に折り返し点を付けるとしたら間違いなくこのアルバムだからである
(詳しくはこちら)。

つまり、前期ビートルズの総決算であり、
同時に後期ビートルズへの第一歩を刻んだ作品、それが『RUBBER SOUL』なのだ。
このアルバムから始めることで、
5,4枚目と遡れば若くキラキラと輝いた前期ビートルズに新鮮な気持ちで出会うことができ、
そのまま7,8枚目と時間に沿って聴けば、
豊かな音楽性を身に付けながらアート集団へと進化していく後期ビートルズを
矛盾なく追うことができるのである。

転換期の作品という点でいえば、『HELP!』あるいは『REVOLVER』を基点にしてもかまわないのだが、
アルバム1枚に込められた多様性、1曲1曲の洗練度とポップネス、
そういった総合的な観点においてやはり『RUBBER SOUL』がもっとも優れているように思える。
少なくともこのアルバムを最初に聴いて「ダメだ!」と感じる人はいないはずだ。

もっとも、この聴き方にも難点がないわけではない。
前回も書いたようにビートルズの素晴らしさの一つは、
アルバムを追うごとに進化する音楽性である。
その振幅の大きさと豊かさは本当に圧倒的であり
、全作品を通して「THE BEATLES」という名の壮大な物語を体験できる。
だが、『RUBBER SOUL』からスタートすることで、
そういった物語のダイナミズムみたいなものは感じづらくなってしまう。
あくまで僕の提案した聴き方は、もっとも無駄と矛盾を抑えて、
効率的にビートルズを好きになる最短距離なのである。

なお、『YELLOW SUBMARINE』を省略してあるが、
これはビートルズのオリジナル曲が6曲しか収録されていない、
オリジナルアルバムというよりもサントラ的性格のもののためである。
最後に回しても問題はない。
また、『LET IT BE』よりも『ABBEY ROAD』を後にしているのは、
アルバムのリリース順ではなく、ビートルズが録音した順番にこだわっているからである。
ビートルズ・サーガのラストを飾るのは『LET IT BE』ではなく『ABBEY ROAD』であり、逆はありえない。

この順番の中で唯一迷ったのが『MAGICAL MYSTERY TOUR』の置き所だった。
話がどんどんマニアックになっていくのだが、
これはポールが中心となって企画した同名テレビ映画のサントラで、
元々本国イギリスではアルバムとして発売されたものではなく、わずか6曲入りのEPに過ぎなかった。
しかし米国レコード会社キャピトルは6曲だけではボリュームが不十分で売れないと判断し、
同時期に発売されていたシングル5曲を独断で加え、
アルバムという体裁にしてリリースしたのである。
(このアルバムのみ盤面に「Capitol」と書かれているのはそのせい)

そのような海賊盤的経緯で発売された『MAGICAL MYSTERY TOUR』が、
なぜオリジナルアルバムとして数えられるようになったかというと、
わかりやすく言えば加えられた5曲のシングル曲がいずれもキラーチューンだったからである。
なにせ<HELLO GOODBYE>、<Strawberry Fields Forever>、
<PENNY LANE>、<All You Need Is Love>が収録されたのだ。

そのため、このアルバムは一種、中〜後期のベスト盤的な性格を持っている。
仮に後期ビートルズだけをピンポイントで聴き進めたいのであれば、
『RUBBER SOUL』ではなくこの『MAGICAL MYSTERY TOUR』から入るのも一つの手である。

・・・なぜこうも延々とビートルズの話を続けているのかというと、
それはもう偏にビートルズ・リスナーを一人でも多く増やしたいからである。

ビートルズというのは、リスナーと非リスナーとの間が真っ二つに割れているように思う。
少なくとも日本に住む僕ら20代はそうだ。
聴く人は聴くし、聴かない人は見向きもしない。
まるでクラシック音楽のようである。
J-POPに耳が慣れている一般リスナーには敷居が高いように見えるのかもしれない。
それゆえ、これまでビートルズ好きを告白するたびに
「こいつはスノッブで鼻持ちならない奴だ」という風に誤解されてきた(被害妄想だけど)。

僕は密かに期待しているのである。
今回のデジタル・リマスター盤発売を機に身の回りにビートルマニアが増えて、
「やっぱ<Hey Bulldog>だよね」とか、
「<IF I FELL>のコーラスってどうなってるの?」なんていう会話が日常的にできることを。
一刻も早くそういう日が来ないかなと願っているのだ。
だって、ビートルズが大好きなんだもの。

ビートルズの話、次回以降もまだまだ続きます。


『MAGICAL MYSTERY TOUR』に収録されている<The Fool On The Hill>。2003年冬にtheatre project BRIDGEが上演した『眠りの森の、ケモノ』のクライマックスで流しました。深夜のファミリーレストランでそのシーンの台本を書いているときに偶然店内でこの曲がかかり、それがピタリとハマッていて即座に使うことを決めたという、僕にとって小さな運命を感じた一曲。