abbey road
長い夢から
醒めたように


 ビートルズの実質的ラストアルバムがこの『ABBEY ROAD』。リリース順では『LET IT BE』が最後になるが、4人がレコーディングしたのは『ABBEY ROAD』の方が後。レコーディング順とリリース順が入れ替わってしまったのは、『LET IT BE』とその前身にあたる「GET BACKセッション」にまつわる複雑な事情のせいだ。

 『ホワイト・アルバム』の時点で4人がグループとしての機能を失っていることは露呈していたが、それが「GET BACKセッション」の頓挫で決定的になってしまった(その時にレコーディングされたまま放置されていたテープが、後に手を加えられて『LET IT BE』になる)。しかし、もう一度だけ4人で集まり、ビートルズが「ビートルズ」であることを見せつけてやろうということで『ABBEY ROAD』のレコーディングが始められるのである。

 呼びかけたのはポール。ポール自身が実際に「最後」という言葉を口にしたかどうかはわからないが、メンバーの中にはおそらく似たような認識があったに違いない(と思う)。そう言い切れるほどに『ABBEY ROAD』はテンションが高く、本当に完璧なアルバム。「有終の美」という言葉がこれほど相応しいものは他にない。

 アルバムは前半後半と大きく2部に分かれている。前半は4人それぞれの作った単体の曲で占められ、後半はメドレーである。

 まず前半だが、ジョンの<Come Together>にポールの<OH!DARLING>、さらにリンゴの<OCTOPUS’S GARDEN>といった、ギュッと筋肉の締まったビートルズならではの完成度の高い曲が目白押しだ。前半でもっとも存在感を放つのはジョージで、<SOMETHING><HERE COMES THE SUN>という超絶名曲を披露している。

 すでに前半だけで相当“お腹一杯”なのだが、『ABBEY ROAD』の聴きどころはやはり後半のメドレー。ジョンとポール、2人のメイン・ソングライターそれぞれが曲の断片を持ち寄り、それを一つにつなげた。曲が足りなくて困った挙句に、単に未完成の曲を寄せ集めたわけではもちろんない。初めからビートルズはこのメドレーを自分たちのキャリアのラストのラストに持ってこようと意識して作っていた。

 そして、何と言っても曲を書いているのはジョンとポールなのだ。こんな豪華な「断片」はない。コーラスの曲、ライヴ感覚な曲、アレンジに意匠を凝らした曲に“泣き”の曲。いくつもの「ビートルズ」なフレーズがそこかしこに待ち構えている。

 曲の断片、短いフレーズをひとつなぎにする。このたたみかけるような構成は、やがて来る“終わりの瞬間”への期待と緊張感を否が応にも高める。ハイペースで押し寄せる波が、感情を上下左右へと激しく揉む。メドレーのラストはその名も<THE END>。そしておまけの<HER MAJESTY>が入って、本当に全てが終わる。巨大ななにかが胸の中を通過していったような余韻と、夢から醒めた時のような寂寞を残して。

 先月発売されたデジタル・リマスター盤のボックスセットでは『LET IT BE』をラストに置いていたが、ビートルズの歴史を締め括るのはこの『ABBEY ROAD』以外にはない。彼らの音楽を聴けば聴くほど、好きになればなるほど、それに比例して『ABBEY ROAD』というアルバムはより重く、より深くなる。間違いなくビートルズの最高傑作だ。


 ・・・というわけで、結局この1ヶ月ビートルズの話しかしていません。書いても書いても、話しても話しても、飽きるどころかむしろどんどん楽しくなっています。

 話は変わるのですが、8月以降、本ブログの更新ペースが従来の半分に落ちていたのには理由があります。theatre project BRIDGEの最新公演『七人のロッカー』、夏前から始まったこの芝居の準備がとても大変だったのです。「だったのです」と過去形ですが、本番は来月。現在も稽古や打ち合わせ、細かい準備に追われています。

 ただし、忙しさのピークはそろそろ越えそうです。劇団というのは本番が近づくにつれて加速度的に忙しくなると思われがちですが、実はそうでもありません。衣装や小道具、あるいはチラシやパンフレット、あらゆるものの準備と制作が大変なのはむしろ本番1ヵ月前のちょうど今くらいの時期で、少なくとも演出家である僕自身は逆に本番が近づくにしたがって時間が空く傾向があります。もっとも時間が空いた分だけ、それまで感じずに済んできた緊張や焦りが一気に押し寄せるので、気持ちの方はクタクタになりますが・・・。

 さて、その『七人のロッカー』。11月21日(土)から始まります。すでにみなさんのお手元にはチラシが届いている頃だと思います。ご覧になりましたか?(まだ見ていないという方はホームページをご覧ください)

 そうなんです。このチラシ写真の元ネタは言うまでもなく、ビートルズの『ABBEY ROAD』。実はこのプランは前回公演『アイラビュー』の稽古段階、まだストーリーも何も決まっていない段階からすでに考えていて、一年間早く撮りたくて仕方ありませんでした。

 撮影したのは8月の上旬。ちょうど全国的に雨ばかり降っていた時期で、天気予報を頻繁にチェックしながら雨間のチャンスを狙っての撮影になりました。

 7人の役者が横断歩道の真ん中でポーズを取り、カメラマンがシャッターを切る。OKカットが出るまで延々とそれを繰り返します(蚊に悩まされながら)。その光景を見ながら、僕はずっとニヤニヤしていました。自分たちは今ビートルズと同じことをしている。人数を4人から7人に変えて、僕なりのオマージュをビートルズに捧げている。それがなんだかとても嬉しく、誇らしかったのです。ビートルズに限りなく近づけたような、そんな充実した時間でした。

 『七人のロッカー』、楽しみにしていてください。


変り種の動画を2つ
ジョージとポール・サイモンの2人による<HERE COMES THE SUN>。この顔合わせを見たときは興奮して叫びました。他にもサイモン&ガーファンクル<Homeward Bound>を2人で歌っています。


サザンオールスターズの1999年大晦日カウントダウンライヴ(ちなみにこれが6人による最後の大晦日ライヴ)より<THE END>。この日のライヴで自身のヒット曲をメドレーにして演奏したサザンは、その中盤で<THE END>を演奏。「粋だなあ」と思いました。他にも<IN MY LIFE>のピアノソロを原由子が弾いて、それをきっかけに<Ya-Ya>に入っていくところとかもあって、桑田佳祐のビートルズ愛が伝わるライヴでした。そういえば以前『音楽寅さん』で桑田佳祐は『ABBEY ROAD』の“全曲空耳バージョン”というのをやっていました。