seldom seen kid
このメロディーの美しさは
ベテランの意地とプライド


 エルボーという、ちょっと変わった名前のこのバンドは、1990年に英マンチェスターで結成された。キャリアは20年にも及ぶベテランだが、最初の10年間はなかなかメジャー・レーベルとの契約が決まらず、インディーで細々と活動していたそうで、かなりの苦労人ならぬ苦労バンドである。2001年にメジャーデビュー。08年リリースのこの『THE SELDOM SEEN KID』は彼らの4枚目のアルバムにあたる。

 以上のプロフィールは後から知ったことで、このアルバムに出会うまで、僕は彼らのことを知らなかった。先日立ち寄ったレコードショップで、有名音楽紙が選出した09年度のベストアルバムを、各雑誌のランキングごとに試聴できるコーナーが設けられていたのだが、そこで軒並み上位に食い込んでいたのがこの『THE SELDOM SEEN KID』だったのだ(リリースと選出の間になぜ1年のタイムラグがあるのかはよくわからない)。

 軽い気持ちで試聴したのだが、冒頭3曲を聴いただけで購入を即決した。こんな良いバンドを知らずにいた自分はなんてモグリだったのだろうと恥じ入ってしまった。とういわけで、これは本当に文句なしの名盤。おすすめです。

 エルボーは5人組のバンドで、楽器編成はボーカル・ギター・ベース・キーボード・ドラム、となる。だが各楽器が実にさまざまな音色を出すので、実際に聴こえる音はクレジットの表記以上に多彩な印象を受ける。さらには曲によって担当楽器が複数になったり、ゲストミュージシャンを入れたりしていて、まずその音のぶ厚さ、交響楽のような壮大さに圧倒される。

 曲の構成も、ポップ・ミュージックというよりもクラシックに近いというか、瞬間的な快感ではなく展開の美しさに重きを置いていて、とてもダイナミックである。「聴かせる」というよりも、「物語る」というような作りだ。抒情詩のような歌詞と相まって、幻想的な音の世界を築いている。

 このようなダイナミズムに溢れた構成や、時にはフルオーケストラまで導入する貪欲な食欲が、プログレ的な大仰さや単なる安っぽさに陥ることなく、むしろ圧倒的な透明感へと収束していくのは、曲の背骨となるメロディーがひたすらシンプルで美しいからである。波間に漂う小船のごとく旋律が揺れては戻りを繰り返す<THE BONES OF YOU>や、ボーカルとストリングスとのかけ合いが祝祭のような昂奮を生む<ONE DAY LIKE THIS>など、このバンドの作り出すメロディーには恍惚感すら覚える。

 ポスト・ロック的文法を用いながらも、エルボーの音楽が紛れもなくポピュラー・ミュージックであるという確信を抱かせるのは、このずば抜けた作曲センスによるものであり、それは、メロディーの弱さを実験的な音作りで応急処置をして済まそうとする多くのポスト・ロック勢に対する痛烈な返答でもある。ソフィスティケイトされながらもメロディー志向、すなわち「ポップ」であろうとする彼らの姿勢は、キャリア20年のベテランとしての頑固さのように見えて好感を抱く。

 それにしても、こういう予期せぬ出会いがあるから“試聴”というのはやめられません。


文中で触れた2曲を紹介。両方ともアビー・ロード・スタジオでの演奏風景です。
<THE BONES OF YOU>


<ONE DAY LIKE THIS>