abe mao pop
「真央ちゃん」は
浅田だけじゃない


 「歌が上手い人」というのは圧倒的に女の人に多いような気がする。吉田美和とか夏川りみとか、最近だと絢香とか、「上手い」と感じるのは大体女性の歌手だ。自分自身の体験を振り返ってみても、例えば学校の音楽の授業などで「コイツ歌うめーな」と感じるのはやっぱり女子に多かった気がする。どうでもいいけど、それが普段教室では地味な女の子だったりすると、そのギャップだけで僕はその子に恋しちゃったりした。

 とにかくまあ主観的であやふやな根拠なのだが、歌の上手さは男性よりも女性の方が勝っているように思うのである。例えば声帯の構造とかにでも男女差があるのだろうか。ちなみに僕が今言っている上手いとは、声量があって、ピッチが合っていて、ビブラートが程よく抜けていて・・・という、いわゆる「上手い」のことである。美空ひばりなんて、大人になった今の耳で聴くとほとんど驚嘆する。

 それに比べて男性歌手には、上手いというよりも「味がある」と表現した方が的確な人が多いように思う。忌野清志郎にしても甲本ヒロトにしても、彼らの魅力は正統的歌唱力では測れない。だから女性歌手はポップスに多く、男性歌手はロックに多いのかもしれない。

 一年ほど前、デビューしたばかりの阿部真央を見たときも、僕は彼女の圧倒的な歌の上手さにテレビの前でのけぞり返った記憶がある。当時19歳という若さにも驚かされた。そういえば、歌唱力の高さが年齢に比例しないのも女性の特徴かもしれない。

 阿部真央は1990年生まれの現在20歳。2008年から夏フェスなどを舞台にライヴ活動を始め、09年1月にファースト・アルバム『ふりぃ』をリリース。僕はこのアルバムのタイトル曲<ふりぃ>を最初に聴いたのだが、歌の上手さもさることながら、骨太でラウドなサウンドにも衝撃を受けた。10代女性アーティストで、しかもメジャーシーンのど真ん中でデビューしたにもかかわらず、トレンドに逆行するかのようなロックっぷりが小気味よかった。ロックファンとして是が非でも応援したい気持ちに駆られた。

 そして今年の1月、わずか1年のインターバルで早くも2枚目のアルバム『ポっぷ』をリリースした。ボーカルのパワフルさにはさらに磨きがかかり、それが速射攻撃のように押し寄せる、貫禄のアルバムである。

 僕は彼女の作品を通して聴くのはこのアルバムが初めてだったので、まず彼女の持つ声音・声色の幅の広さに驚いた。単に音域が広いということではなく、曲のタイプに合わせて声そのものが変わるような印象である。<未だ><伝えたいこと>などで聴けるドスの利いた低音から、<モンロー><15の言葉>のような甘い高音まで、何も知らずに聴いたら同じ人だとは思えないようなキャラクターの多さだ。

 曲が他人の手によるものであれば、彼女のカメレオンぶりは曲によって引き出されたと解釈すべきだろう。だが彼女は自分で曲を書く。つまり彼女の変幻自在な声は誰かに意図的にプロデュースされたものではなく、それどころか「こういう声を出そう」などと歌っているわけでもなく、自作の曲に合わせてごく自然に歌ったら結果として色々なキャラクターが生まれてしまった、ということなのだろう。

 この『ポっぷ』はタイトルが示すように、明るくてソフトな仕上がりになっているが、随所で聴かれる巻き舌やかすれ声といった彼女のボーカルセンスには、やはりロック的なゾクゾク感がある。歌詞は「いかにも10代女子!」という感じで、もうすぐ30歳の男としては少々くすぐったいのだが、それは今後に期待だろう。バンクーバーの真央ちゃんも頑張って欲しいが、こっちの真央ちゃんにも頑張ってもらいたい。

 そういえば今思ったけど、ソロアーティストが多い、というのも女性の特徴かもしれない。男性は圧倒的にバンドマンが多い。一人で世に立てる女性と、仲間と群れてるのが楽しい男性という構図は、巷間言われるいわゆる「肉食系女子と草食系男子」のように見えなくもない、かもしれない。


<伝えたいこと>