好きなものについて熱く語る
マニアにしか伝わらない興奮の書


ロックという音楽は基本的に“噂好き”なので、
真偽定かではない情報も人から人へと伝わる間に色彩を帯びて、
真実として公然と語られるようになる。
殊にそれが史上最大のバンドであれば、そういう伝説には事欠かない。

本書はビートルズにまつわる噂や伝説が本当かどうかを、
資料や関係者の発言、写真鑑定などまで用いて、
さながらサスペンスドラマの謎解きのように一つひとつ検証するという本。

第1章は「レイモンド・ジョーンズは実在したか」。
1961年、後にビートルズのマネージャーになるブライアン・エプスタインが経営していたレコード店に、
レイモンド・ジョーンズという名の青年がやってくる。
彼はブライアンに「ビートルズっていうグループのレコード、ありますか?」とたずねる。
これをきっかけにブライアンはキャバーン・クラブに出かけてビートルズと出会い、歴史が始まる
・・・というのがビートルズ・ヒストリー初期を飾る代表的な“伝説”なのだが、
果たして本当にこの「レイモンド・ジョーンズ」なる人物は実在したのかどうか。

マニアであれば誰もが知っているこの青年。
しかし本人を見たことがあるという人間は皆無なのである。
熱狂的なファンや記者でさえ、レイモンド・ジョーンズ本人に出会ったという人間はいない。
また、バンドの世界的な人気を思えば、自ら名乗り出てもよさそうなものである。
だが、誰も彼を知る者はいない。・・・一人の人間を除いて。

それは前述の、ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインである。
そもそも「レイモンド・ジョーンズ」が最初に登場したのは、
ブライアンが60年代半ばに著した自伝なのである。
前記したレコード店のエピソードはこの自伝でブライアンの口から語られたものだった。
しかし、ふと冷静に考えてみれば、
果たしてレコード店という場所は常連でもない客のフルネームをいちいち店主が記録しておくものだろうか。
つまり、本当は、「レイモンド・ジョーンズ」はブライアンが、
ビートルズの歴史に色を添えるためにでっち上げた、架空の人物なのではないか・・・。

本書にはこの他に「シタールはどこからやってきたのか」とか
「『ホワイトアルバム』のシリアルナンバーは本当に“限定番号”なのか」、
「『エリナー・リグビー』は実在したのか」といった「謎」が収録されている。

興味ない人からすれば「どっちだっていいじゃないか」である。
うん、まさにその通り。
しかし、そういうディープでニッチな話題について、
わかる人だけでとことん熱く語るのってどうしてこんなに楽しいのだろう。
そんな『アメトーーク!』的熱さを持つ、美しいくらいに完璧な「マニア本」である。

著者の中山康樹はジャズ専門誌『スイングジャーナル』の元編集長なのだが、
ジャズだけではなくロック関連の著書も数多く執筆しているマルチな音楽評論家。
この人の文章はすごいテンションが高くて面白い。
ロックやジャズなんて言ってみればただの嗜好品、趣味なのに、
彼の手にかかればなんだか壮大な歴史書を読んでいるような気分になる。
「ああこの人もオタクなのだなあ」と読んでいて妙に親近感が湧く。
中山康樹の著書で他にビートルズ関連のものとしては、
同じ講談社現代新書から出ている『これがビートルズだ』がおすすめ。
ビートルズが公式に残した全213曲を1曲ずつ解説するというマニアにしかできない、
そしてマニアにしか伝わらない偉業を達成している。








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