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Bob Dylan
『Nashville Skyline』


ディランの数あるアルバムの中で、『ナッシュヴィル・スカイライン』が一番好きだという人は
多分ほとんどいないんじゃないかと思います。
でも僕はこのアルバム、けっこう好きです。
一番好きかどうかと聞かれると、確かに迷うけど、でもかなり好きなアルバムです。
ではなぜ、この作品を推す人が少ないのか?
まず、上にあるジャケット写真を見てください。

何も知らずにこのジャケットを見て、
映っている男の人があのボブ・ディランだと気付く人は、果たして何人いるでしょうか。
僕はこの写真で、初めてディランの笑顔を見ました。
彼も(当たり前ですが)笑うんですね。
このジャケット写真に、『ナッシュヴィル・スカイライン』というアルバムが端的に表れています。
すなわち「意外」ということ。

「ボブ・ディラン」といえばフォーク、あるいはロックのアイコン的存在です。
しかしこの作品は、実はカントリーのアルバムなのです。
ジョニー・キャッシュという、もう亡くなってしまいましたが、カントリー界の大スターがいました。
このアルバムでは、そのジョニー・キャッシュとコラボしたりしています。

ちなみにこのアルバムがリリースされたのは1969年。
69年と言えば、ウッドストックに代表される、ロックの歴史の中で最も華々しい年だったわけですから、
このアルバムの意外さ、異端さがわかります。

それまでにもディランはフォークからロックへ大きく方向を変えたことがありました。
しかし、その変化は、少なくとも今聞いていみると、極めてナチュラルなものです。
そこには目には見えないけれど、しっかりしたロジックのようなものを感じます。
しかし、さすがに「カントリー」という展開は、当時のファンも読めなかったのではないでしょうか。
全てが意外。それがこの『ナッシュヴィル・スカイライン』なのです。

カントリーというのはアメリカの伝統音楽。少し意地の悪い言い方をすれば、“懐メロ”です。
その分、それまでのディランの曲のような毒気や渇いた感じは、このアルバムにはありません。
しかし、逆にそれまでの作品にはなかった彼の人間臭さが感じられます。
非常に特徴的なのはディランの歌声で、
それまでの、あの特徴的なしわがれ声ではなくなり、とても澄み切った声に変わっています。
一瞬「別人?」と思うほど、伸びのいい声で歌うディランは、
なんだかいつになく生き生きとしていて、親近感が湧きます。
「ボブ・ディラン」というのはやはり偉人であり、もっと言ってしまえば雲の上の神様なので、
それゆえいくら音楽を聞いていても「絶対に縮まらない距離」みたいなものを感じるわけですが、
そんな中で唯一、ディランを身近に感じられるのがこのアルバムです。

確かに歴史に残るような名盤ではないし、
作品の凄みみたいなものは『ブロンド・オン・ブロンド』とか『フリー・ホイーリン』に完全に負けますが、
なんとなく、ついつい聞いてしまう一枚です。





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