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「小さな歴史」を
見つけに行こう


今年最初の記事は、本の紹介です。
タイトルは『オオカミの護符』。

つい1か月ほど前に読みました。
ですが、今もまだ豊かな余韻が胸の中に残っています。
「2012年に読んだ本の中で最も面白かった1冊は何か」と問われたら、
迷わず本書を挙げるでしょう。
そのくらいに圧倒された1冊です。
 
川崎市宮前区土橋を故郷に持つ著者が、実家で目にした1枚の護符。
そこには、古くから地元に住む住民たちが「オイヌさま」と呼ぶ、
犬のような姿をした不思議な生き物が描かれていました。

この「オイヌさま」は、一体何なのか?
疑問に感じた著者は取材を始めます。
すると、川崎から東京青梅の御嶽山神社へ、さらに秩父山系の奥地へ、
そして遂には関東一円に広がる「オオカミ信仰」へと、
話は思いもかけぬ方向へと話は広がっていきます。

ページをめくるたびに次から次へと現れる、未知の歴史の数々。
川崎という、ごくありふれたベッドタウンの中で、
こんなにも豊かな文化が受け継がれてきたという事実に、
僕はひたすら驚き、感動しました。

著者の小倉さんは冒頭で、
「かつての私は故郷のことを『恥ずかしい』と感じていた」と語っています。
小倉さんは昭和38年生まれ。
当時は50戸ほどの農村だった土橋は、
小倉さんが小学生に上がる頃からマンションや建売住宅が目立つようになり、
同級生にも「都会の子」が増えていきました。
きれいな服を着て都会の言葉を口にする同級生たちを見て、小学生だった小倉さんは、
茅葺屋根の家や野良仕事に精を出す家族が、急に恥ずかしいものに思えたそうです。

しかし小倉さんは、大人になるにつれて、
「故郷のことを何も知らないままではいけないんじゃないか」と考えるようになりました。
かつての土橋の暮らしについて語れる人はもう少ない。
その人たちがいなくなる前に、その人たちの話に触れて、
土橋という土地が元々持っていた歴史や文化を記録しなければいけない。
そして、それをやるのは他でもない、土橋に生まれた自分の役目なんじゃないか……。
そんな思いが、小倉さんを「オイヌさま」の謎へと駆り立てました。
本書の取材を通じて、小倉さんは「故郷の再発見」をしたのだと思います。

本書に書かれているのは、
土橋という、ごく一部の地域の人だけに受け継がれてきた歴史です。
教科書に載るような過去の事件や出来事を「大きな歴史」とするならば、
本書に書かれているのは「小さな歴史」と呼べるでしょう。
こうした「小さな歴史」は本来は、
地域の祭礼で上げられる祝詞を通じて、
あるいは農作業の合間に村のおじいさんやおばあさんが語る物語によって、
受け継がれてきました。

しかし戦後、日本全国で宅地化が進み、
長年受け継がれてきた田や畑は「不動産」という名で売買され、
それまでの地域のつながりや催事は急速になくなっていきました。
都市近郊には大量に人が流入したことで「地縁」が薄まり、
逆に地方は歴史を受け継ぐべき若年層がいなくなりました。
千年単位で蓄積されてきた各土地の「小さな歴史」は、
たった5〜60年の間で、急速に失われているのです。
※ちょうど1年前に話を聞いた、ある建設会社の社長さんの話を思い出しました。


ここで話はいきなり僕の個人的な体験になるのですが、
一昨年からランニングを始めたことで、
今まで見過ごしていた近所の「小さな歴史」を目にする機会が増えました。
いつも歩いている通りを1本奥に入ったところに、怪しい祠があった。
どうもこのあたりは坂が多いなと思ったら、実は昔ここに川が流れていた。などなど。

至って小規模な「発見」ですが、
こういうことに気付いたり、それを後から調べたりするのはけっこう楽しいものです。
些細なことですが、見慣れた風景が違って見えるというか、
自分の住んでいる街が急に身近に感じられます。

「大きな歴史」に比べれば、「小さな歴史」ははっきり言って地味です。
「歴女ブーム」なんてものがありますが、
戦国武将が建てた城や有名な史跡を訪ねる人はいても、
わざわざ地元の図書館に行って地域の歴史を調べようなんていう人(特に若い世代)は、
ほとんどいないと言っていいでしょう。

でも、それはものすごくもったいないことなんじゃないかと僕は思います。
変な例えかもしれませんが、
これは、有名シェフが作ったカレーと、母親が作ったカレーの違いに似ています。
一流洋食店のカレーは確かに美味しい。
母親が市販のルウで作るカレーなどでは、絶対に出せない味です。
でも、母親の作るカレーには、味という範疇では語れない「愛着」がある。
それは、自分だけにしか感じられない、オリジナルな気持ちです。

「大きな歴史」は、ある意味では「他人事」の世界です。
それに対して、「小さな歴史」を知ることは、
小倉さんがそのことで「故郷の再発見」を果たしたように、
「アイデンティティの獲得」につながるのです。
教養でもいい。単なる趣味でもかまわない。
でも、歴史を知ることって本当は、
もっともっと自分自身に関わることとして受け入れられるものなんじゃないか。
そんなことを示唆してくれた一冊でした。


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さて、『オオカミの護符』を読んだから、というわけでもないのですが、
これからは僕も「小さな歴史」を楽しもうと思います。

まずは足元の東京から。

東京に住んでもうすぐ10年も経つのに、
改めて地図を眺めてみると、
訪ねたことのない神社やお寺、史跡がたくさんあることに愕然とします。

僕は、まだ10歳になるかならないかの頃に、
小学館から出てた『漫画日本の歴史』を読んで以来、
ずっと歴史が好きでした。
実家が鎌倉に近かったので、しょっちゅう江ノ電に乗って行っては、
「若宮幕府跡」とか「大江広元の墓」なんていう、
観光客は見向きもしないようなマニアックな史跡を写真に撮って喜んでました。
当時通ってた塾の先生にもらった縄文土器の欠片は、未だに持ってます。

当時の情熱にもう一度火をつけて、
ちょっと今年から本腰入れて東京のいろんな史跡を回ろうかなと思います。
実際に行ったらブログでも紹介しますね。
なので、ブログのタイトルも変えました。
幸いしばらく劇団もお休みだし、
僕は「歴史散歩」を新たなライフワークにします!






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