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2013年の大河ドラマ『八重の桜』がスタートしました。
現在、第3話までが放送されていますが、
僕は早くも、めちゃくちゃ面白いドラマになるのではないかと期待を膨らませています。
理由は大きく3つ。


その1:主人公は「ど」が付くほどマイナーな人物

ドラマが始まる前、果たしてどれだけの人が「新島八重」という人物を知っていたでしょうか。
僕は浅学にして名前すら知りませんでした。
新島襄ですら、決してメジャーとは言えない人物なのに、
その夫人のことなど、相当なマニアを除いて誰も知らなかったのではないでしょうか。
これまでほとんど取り上げられなかったマイナーな人物を主人公に抜擢したことは、
僕は素晴らしい決断だったと思います。

大河ドラマも今年で51作目。
正直、この10年くらいは「ネタ切れ」の感がありました。
『北条時宗』(2001年)あたりで第一級の有名人物は取り上げ尽くし、
後は過去に主人公として取り上げた人物を再登板させるか(ex.『義経』『龍馬伝』)、
「有名人物の脇にいる人物」にスポットを当てるかの(ex.『風林火山』『天地人』)、
大きく二つの方法でなんとかやりくりしていたのが、
ここ10年の流れだったと思います。

しかし、当然こうした対症療法的な作り方には限界があります。
特に後者の作り方は、
いくら「有名人物の脇にいる人物」を主人公に取り上げたところで、
物語そのものは「有名人物」である主人公の主人や伴侶を中心に流れていくわけですから、
結局のところ、戦国期なら戦国期、幕末なら幕末の、
過去の大河ドラマの「二次的派生品」に甘んじざるを得ません。
山本勘助が主人公の『風林火山』(2007年)よりも、
ストレートに武田信玄を取り上げた『武田信玄』(1988年)の方が、
どうやってもドラマとしてダイナミックになるに決まってます。
※『篤姫』(2008年)が面白かったのは、
 西郷や龍馬を描くことを潔く捨てて(幕末という「時代」を描くことを捨てて)、
 あくまで一人の女性の「人生」にフォーカスを当てたからだと僕は思っています。
 過去記事:2008年大河ドラマ『篤姫』

メジャーな人物はもう一巡したんだから、
せっかくなら「どマイナー」「超マニアック」な人物を主人公にすればいいのに、
信長や秀吉といった超有名人物を絡ませなければ視聴率を取れないと考えているのか、
結局選ばれるのはその周辺にいる「ちょっと有名」な人物ばかり(直江兼続とかお江とか)。
そういった「及び腰」の姿勢で面白いドラマが作れるわけないんです。
※その点で、僕は正直来年の『軍師官兵衛』はあまり期待していません。

こうした煮詰まり感と飽和感に対し、
『八重の桜』は風穴を開けられる可能性があります。
新島八重は、これまでのような「ちょっとマイナーな主人公」ではなく、
「ど」がつくほどのマニアックな人物。
今回のドラマが受け入れられれば、
NHKも今までの「有名人物依存」「戦国・幕末(たまに源平)依存」から脱却できるでしょう。
教科書には載らないけど、苛烈な人生を生きた人物や現代に取り上げる価値のある人物は、
歴史の中に山ほどいます。
僕はむしろ、そういう人物にスポットを当てることこそ、
大河ドラマの大きな意義なんじゃないかと思います。


その2:「ドラマ」を宿すディティール

大河ドラマの時代考証や映像美術は毎回素晴らしいのですが、
今回はその中にも、作り手の「志」を感じるような部分が目に留まります。

僕がまず「おっ!」と思ったのは、
第1話で出てきた、鶴ヶ城の内部のセット。
会津藩主・松平容保と家臣たちの場面でした。
江戸期の城、それも城主である容保が家臣と謁見するオフィシャルな部屋ですから、
何らかの装飾や明るい調度品があっても良さそうですが、
ドラマのセットは、まるで町中の剣術道場のように素朴で荒々しい部屋でした。
板敷の床も柱も、人の脂を長年吸い続けてきたように黒光りしています。
いかにも質実剛健、愚直なほど真っ直ぐな「会津」らしい。
リアルかどうかは別として、セットだけでドラマを感じさせるなんて、
これまで決して多くはなかったように思います。
セットという点では、象山先生の塾も素晴らしかったですね。
机(作業台?)の配置や書棚、応接間になっている怪しい地下の部屋など、
とてもオリジナリティを感じました。
八重の家の、鉄砲の練習部屋(?)なども、非常にインパクトがありますね。

ディティールということで言えば、
僕が今回なにより「いいな!」と思っているのが、会津弁です。
あまりに訛っているから、けっこうな頻度で聞き取れない(笑)。
でも、そこがいいんです。
優れた演出方針だと思います。
仮に台詞がなんとなくしか聞き取れなくても、
忠実(だと思うんですけど)な会津弁によってもたらされる空気感は、
それを補って余りあります。
多分、ここまで方言にしっかり取り組んだ大河は、
『翔ぶが如く』(1990年)の薩摩弁以来ではないでしょうか。
もしかしたら、去年の『平清盛』の時みたいに、
どっかのバカが下らないクレームをつけてくるかもしれません。
「何を話してるかわからない」とか「台詞は標準語にしろ」とか。
(あの「画面が汚い」という意見は、一体何だったんでしょうか)
僕は是非、最後まで今の「ネイティブ会津弁」を貫いて、
土臭いドラマのまま突き進んでほしいと思っています。


その3:「ならぬことはならぬ」に表れる具体性と身体性

3つめは、少しフワッとした話になります。

僕は、大河ドラマで一番多い失敗パターンは、
「物語が観念的になること」なんじゃないかと考えています。
「観念的」というのは、物語の軸が抽象的な言葉でしか表現できなくなる状態を指します。

史上最低の視聴率となってしまった昨年の『平清盛』は、
僕はけっこういいなと思っていたのですが、
残念ながら後半で、この「観念的」というパターンに陥ってしまいました。
物語のテーマを背負う概念として、何度も台詞に登場した「武士の世」。
清盛は何度となく、この「武士の世」という言葉を口にしていましたが、
結局最後まで視聴者は、それが具体的にどういうものなのか、
少しもイメージがつきませんでした。
にもかかわらず、ドラマ全体がまるでそこに逃げ込むように、
登場人物の言動の根拠は全てこのファジーな「武士の世」に頼りっきりになっていました。

『平清盛』は、清盛が夢見た「武士の世」という構想を、
敵であるはずの頼朝が引き継ぐという点に、
(その後700年近くに渡る武士主導の日本史の基礎は、実は清盛が築いたという点に)
従来にはない新しさや深さがあったと思うのですが、
肝心の「武士の世」がよくわからないままだから、いまいち伝わってこない。
僕は、『平清盛』が低空飛行を続けてしまった一番の理由は、
物語の要諦が、最後まで観念の域を出なかったからだと思っています。

同じような例が『義経』(2005年)です。
義経は何度も「自分は新しき国を作る」と口にするのですが、
言葉の響きがいいだけで、中身は全くわからない。
義経が平氏と戦うのも頼朝と仲たがいするのも、
全ての根拠は彼が理想とする「新しい国」にあるのですが、
結局それがどういうものなのか理解できないから、
さっぱり感情移入できないまま終わりました。

ここ最近で一番ひどかったのは『天地人』(2009年)です。
あのドラマは、何をするにも「義」という、
もう言葉自体が観念以外の何物でもないフレーズに頼りすぎたせいで、
「兼続も景勝もなんとなくいい人だった」という印象しか残らない、
見てるこちらをなんとも疲れさせたドラマでした。

逆に、観念を排除して、人物の行動とそれに伴う具体的な台詞だけで物語を動かしたのは、
ここ最近では『新選組!』(2004年)と『龍馬伝』(2010年)でした。
特に『龍馬伝』は、過去10年の大河ドラマの中では最も素晴らしい出来だったと思います。

『北条時宗』はかなりいい線をいっていたと思うのですが、
終盤にきて時宗が「(元との)戦争でも服従でもない『第3の道』を探す」という、
またもやフワッとした理想論ばかり口にすることが多くなって、
ラストで失速してしまった惜しいドラマでした。

ちなみに(話がどんどん脱線してますが)、
「新しい国づくり」というキーワードを多用しながらも、
緒形拳(足利貞氏)→片岡鶴太郎(北条高時)
→武田鉄矢(楠正成)→高嶋政伸(足利直義)&大地康雄(一色右馬介)という、
脇役の力演・怪演で継投し、力ずくで視聴者を寄り切ってしまった『太平記』(1991年)のような、
数少ない例外もあります。


さて、この「観念的」という問題に関して『八重の桜』はどうなのか。
もちろん、まだわかりません。
わかりませんが、僕は良い予感を感じています。

その根拠は、第1話のタイトルとなった「ならぬことはならぬ」。
会津の藩校・日新館の教えにある言葉ですね。
いいフレーズだなあと僕は思いました。
上記で紹介した例のように、
観念的という罠に陥るのは多くの場合、
キーワードとなる一つの台詞に頼りすぎることがきっかけになります。
その点では同じように見えますが、
しかし、この「ならぬことはならぬ」という言葉の中には、
その後の会津が殉じた美学が端的に表れており、
なおかつ、八重の人生のテーマ、すなわちドラマの今後を予感させるものがあります。
こういった、重みのあるフレーズに導かれる限りは、
ドラマは具体性と身体性を失わないだろうと思います。



いろいろ書いてきましたが、
まあ、それでも、まだ3回しか放送されてません。
今後、失速してしまう可能性もあります。
僕はそうならないよう応援しながら、最後まで見届けようと思います。




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