JakeBugg

「ディランの再来」という
評価を蹴散らせ


英国ノッティンガム出身のシンガー・ソングライター、
ジェイク・バグ。

2012年にデビューした新人アーティストの中で、
最も多くの話題をさらった1人と言っていいでしょう。

若干18歳。
まだ少年の面影すら残したこの若きミュージシャンはしかし、
ストーン・ローゼズやノエル・ギャラガーら、
濃いベテラン勢から直々にツアーサポートの指名を受けたり、
いきなりNMEの表紙を飾ったりと、
ロック界のど真ん中をすごい勢いで突き進んでいます。

マスコミは騒ぎすぎなんじゃないか。
評論家は買いかぶりすぎなんじゃないか。
彼の音楽を耳にする前は、
あまりの世間の注目ぶりに僕はかなり懐疑的な思いを抱いていました。

ところが、実際に彼のデビューアルバムを聴いてみると、
1曲目の、それも冒頭1分くらいでものの見事にノックアウトされました。
これはかっこいい。
めちゃくちゃかっこいいです。

とりわけ惹きつけられるのが、彼の「声」です。
ガラガラっとしわがれていていかにも不健康そうでぶっきらぼうで、
けれどこちらに何ものかを訴えかけてくる、
そんな、非常に存在感のある声をしています。

その声が最も引き立てられるのが、
アルバム1曲目に収録された<Lightning Bolt>。
激しくかき鳴らされるアコースティックギターに乗せて、
彼のつぶやくような声が、
早口でたたみかけるように言葉を刻んでいきます。
おそらくこの曲を聞いた人のほとんどが同じことを思ったのではないでしょうか。
「まるでボブ・ディランだ」と。

実際、彼の声は60年代のディランと似ている気がします。
シンプルだけど力強いバンドサウンドも、
『Bringing It All Back Home』や『HighWay 61 Revisited』など、
若い頃のディランの作品群と重なります。
そのくらい彼の音楽にはオーセンティックなものがあります。
CDなんかじゃなくて、アナログレコードで聞いてみたい。そんな気にもさせます。
ノエルやローゼズら「ロック原理主義者」たちに気に入られるのも、
彼の音楽に、ロック草創期の匂いが濃厚に漂っているからでしょう。
しかもそれを、わずか18歳の青年(少年?)が作っているところが余計に面白い。

ロックが生まれておよそ半世紀。
それだけの時間を経てもなお、
ジェイク・バグのようなアーティストが生まれ、
しかもそれがワールドワイドで受け入れられているというのは、
「すごい」というか「しみじみする」というか、
とにかく大変なことだと思います。

意地悪な見方をすれば、
「だからロックという音楽は60年代で既に“終わった”んだ」
と解釈することも可能かもしれません。
だけど、僕はもっと単純に、こう考えています。

たとえジェイク・バグが50年前のディランに似ているとしても、
彼の音楽を聴いてるときに感じる、
この沸々と血が熱く燃えてくるような感覚は、
紛れもなく「今この瞬間」の興奮であり、
ディランではなく「ジェイク・バグ」という音楽がもたらした興奮です。
仮にロックという音楽が、
もはやバリエーションの順列組合せにしか進化の方向を見いだせなくなっているとしても、
それでもジェイク・バグに興奮を感じるとすれば、
やっぱりそれは「今のロック」として肯定すべきなんだと思います。

ドアーズの名曲に<Light My Fire(ハートに火をつけて)>という曲がありますが、
ロックの定義とは、シンプルにこの一言に集約できる気がします。

頭で考えるよりもまず、歌詞が口をついて出てしまう。
知らず知らずつま先でリズムを刻んでしまう。
キース・リチャーズが<Jumpin’ Jack Flash>のリフを弾いたら、
分かってたくせに思わず「うおおっ!」と叫んでしまう。
心の奥底に眠る感情に一度火がつけられれば、
いくら理屈を並べても、それを抑えることはできません。
ロックは、何よりもフィジカルに訴えかけてくる音楽です。
肉体という、自分固有のモジュールを目覚めさせるからこそ、
僕らはロックを聴いて、自分自身を肯定する力を得られるんだと思います。

だからジェイク・バグの登場は、
「ロックが進化していない」ことの証左などではなく、
「ディラン的な熱さをもった若いミュージシャンがついに出てきた!」というシンプルな喜びとして、
受け取るべきなんじゃないかなと僕は思います。

なお、「≒ボブ・ディラン」という見方だけでジェイク・バグを紹介しましたが、
アルバムの他の収録曲では、また違った表情を見せています。
たとえば<Simple As This>ではポール・サイモンのような透明性を、
<Ballad Of Mr. Jones>ではニール・ヤングのような哀切さを感じさせます。
改めてアルバムを聴いていますが、
彼は本当に素敵なメロディを作るなあと思います。
思わずグッとくると同時に、末恐ろしい才能だなあと唸ります。


<Lightning Bolt>


<Simple As This>







sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ