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たどり着いたその先は
「ただ生きている」ということ


福岡出身の3ピースバンド、People In The Box。
本ブログで紹介するのはこれが2回目ですが、
前回紹介した『Ghost Apple』(09年)以来、
『Family Record』(2010年)、『Citizen Soul』(2012年)と、彼らのことはずっとフォローしてきました。

変拍子を多用した独特のグルーヴ。
そのグルーヴとは敢えて距離を取りながら独立した美しさを見せるメロディ。
ボーカル波多野裕文の透明感のある歌声。
そして、「死」の匂いが濃厚に漂ってくる、陰の深い歌詞世界。
People In The Boxのロックは、
流行などとはまるで無縁の場所を突き進む、非常にユニークでオリジナルなものです。
独自の世界観を追求し、進化を続けているという点では、
OGRE YOU ASSHOLEと並んで、最も目が離せない邦ロックバンドの一つです。

そんなPeople In The Boxの現時点での最新作であり、
同時に(暫定的に)最高傑作と呼びたい作品が、
2012年11月にリリースしたアルバム『Ave Materia』です。

何がいいって、シンプルに曲がどれも素晴らしい。
元々歌のメロディやリフに関しては優れたセンスを持っているバンドでしたが、
このアルバムではさらに曲の展開がダイナミックになり、
アレンジも多様な楽器を積極的に取り入れていて、
1曲1曲のキャパシティが飛躍的に大きくなりました。
このことが、彼らの代名詞でもある「変拍子」と合わさって、
実に強烈でカオティックなドライヴ感を生んでいます。

一方で、歌詞の世界は相変わらずというか、
波多野らしいヒリヒリ感を失っていません。
彼のソフトな歌声がかなりのクッション材になっているので、
軽く聞き流しただけでは気づかないのですが、
よくよく歌詞を読んでみると、
「荒れはてた庭で ひとり なかよく踊りましょう」<ダンス、ダンス、ダンス>
「ゆうべからだを売ってみたんだ こころを切り離すために」<みんな春を売った>
といった不穏なフレーズが随所に散見されます。

もっとも、時にグロテスクとさえ映る波多野の歌詞が紡ごうとしているのは、
他でもない「生」への憧れです。
ただし本作ではその表現が微妙に変化していて、
『Ghost Apple』で指摘したような、
「『死』への予感から、『生』を逆照射する」という逆転的な手法から、
より直接的かつ明確に「生」そのものを描こうとしているのではないかと感じます。

それを端的に感じるのは9曲目の<さようなら、こんにちは>です。
この曲の中で何度も、アルバムタイトルでもある「Ave Materia」というフレーズが出てきます。
彼らはこの「Ave Materia」というフレーズに対し、「さようなら、<物質>」という訳語を与えています。
「物質」というキーワードや、おそらくそれを投影しているであろう言葉は、
他の収録曲の中にも見られるのですが、
アルバムを通して、「物質=肉体、日常」というような物として、それと決別しようと繰り返し歌われています。
このテーマを最も前面に打ち出しているのが、<さようなら、こんにちは>です。

物理的な制約を超えること。
それはある意味では「死」とも取れるわけですが、
本作が今までのアルバムと異なるのは、
前述の<さようなら、こんにちは>のラストにおいて、
「ただいま、久しぶりだね、原風景」と、
「その先」について(限りなく抽象的ですが)言及している点です。

そして、この「原風景」というものに関する一つのヒントになるのが、
直後に収録された、そして本作のラストとなる<八月>という曲だろうと思います。

この曲の中で描かれているのは、
子供時代にいじめを受けた「きみ」と、それに対して言葉を語りかける「ぼく」の物語です。
他人の存在そのものが痛みとなり、それに耐えきれず自殺の衝動に駆られた「きみ」は、
しかしその寸前で「誰かにあって話をしてみたくなった 傷ついても」と考えます。
そんな「きみ」に対して、「ぼく」は、「世界は壮大なジョーク」であり、
「愛も正しさも一切君(※なぜかここだけ漢字表記)には関係ない」と語るのです。
大事なことは「きみは息をしている」ということだけだと。

愛や正しさなどという「物質」さえも捨て去って、
最後に残ったのは、ただ「息をしている」ということ。
本作で繰り返し歌われてきた「物理的制約を超えること」が行きついた先(=原風景)は、
肉体を捨てる「死」ではなく、真逆の「ただ生きている」ということだったのです。

全ての物質を捨てて天に駆け上るのではなく、
むしろ逆に物質の権化たる肉体の一段奥深いところへと降りていく。
この感覚に僕は(ねじくれているものの)率直な思いを感じるし、
これまでの彼らのアルバムのなかで、最も希望を感じるエンディングになっていると思います。

People In The Boxの最新作『Weather Report』は、
来週、10月16日にリリース予定です。


本作のリードトラック<ダンス、ダンス、ダンス>
映像がとても美しいです


<八月>











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