ビートルズの故郷、英国リバプールの旅行記を長らく書いてきましたが、今回がついにラストです。
最終回は、ビートルズに関する博物館であり資料館であり体験型アトラクションという究極的施設、
「ビートルズ・ストーリー」について書きます。
---------------------------------------------------
#第1回「マシュー・ストリート」
#第2回「ジョンとスチュと学生街」
#第3回「マジカルミステリーツアー」
#第4回「キャヴァーン・クラブ」
#第5回「ハードデイズナイト・ホテル」
---------------------------------------------------
■港の跡地に建つビートルズ・ストーリー
メンバーの生家とか聖地キャヴァーンとかをさんざん回ってきて、
「いまさら“博物館”はないだろう」と思うかもしれませんが(僕も正直期待はしていなかったのですが)、
いざ行ってみたら予想外に面白かったです、「ビートルズ・ストーリー」。

まず場所について。
リバプールの港「アルバート・ドック」の一角にあります。

より大きな地図で The Beatles Story を表示
黄色:ハードデイズナイト・ホテル
:ビートルズ・ストーリー

第3回で書いた「マジカルミステリーツアー」の出発点もここ、アルバート・ドックでした。
元は一大港湾施設でしたが、
今はレストランやお店が並ぶおしゃれな商業施設に生まれ変わっています。
どことなく横浜の赤レンガ倉庫のような雰囲気です。
P1030563

なんと、イエロー・サブマリンが停泊していました。
P1030527

ありました。これが「ビートルズ・ストーリー」の入り口。
P1030347

地下に潜っていくという造りはどこかキャヴァーン・クラブを彷彿とさせます。



■博物館というより「アトラクション」
『地球の歩き方』はビートルズ・ストーリーについて、
「ビートルズファンもそうでない人もここは訪れておきたい」と書いています。
誰でも楽しめるという敷居の低さのせいか、
この施設のことは他の一般向けのガイドブックにも情報が掲載されています。
ただ、「博物館」といったり、「資料館」、「常設展示場」といったり、
紹介の仕方はものによってバラバラです。
一体、ビートルズ・ストーリーとはどんなところなのか。
中に入ってみます。
P1030538

↑上の写真は、ビートルズが1面を飾った地元の音楽誌『MERSEY BEAT』(マージービート)のオリジナル。
まだレコードデビューを果たす前、ピート・ベストが在籍していた時代の貴重な写真です。


IMG_1010

P1030545

IMG_1017

このように、バンドの結成から解散、ソロ時代まで、
当時の写真や資料が時系列に沿って展示されています。
順路に沿って進めば、ビートルズの歴史を詳しく知ることができる、というつくり。
希望すれば音声ガイド(日本語にも対応)をレンタルすることもできます。
このあたりは一般的な博物館や美術館と同じスタイルですね。
特に、レコードデビュー前の時代の史料が豊富に展示されているところは、地元の強みを感じます。

しかし、実は写真や資料よりも目立ち、なおかつ楽しめるものがあるのです。
それが、「再現ジオラマ」。
P1030534

↑上の写真は『MERSEY BEAT』の編集部のジオラマ。
電話をかけているのはおそらく編集長のビル・ハリーでしょう。
ビル・ハリーは当時まだ地元のバンドの一組に過ぎなかったビートルズに目をつけ、
創刊2号にジョンが書いた、恐ろしく風刺と毒の利いた「ビートルズの伝記」を掲載しました。

こちらは、アビィ・ロードスタジオで行われた、
デビューアルバム『PLEASE PLEASE ME』の録音風景。
10曲をたった1日で録りきったという伝説のレコーディングの様子です。
P1030546

ジオラマというと、滅多に客が来ない地方の郷土資料館にポツンと展示された、
「冬の間に草鞋を編むおじいさんの人形」とか、
「畑で採れたわずかな野菜をぬかに漬けるおばあさんの人形」とか、
なんかこう全体的に切ない代物を思い浮かべてしまいますが、
ビートルズ・ストーリーのジオラマはまるで正反対で、非常に楽しめます。
というのも、ゲストがジオラマに直接手を触れられたり、
実際にその中を歩いてみたりできるから。

例えばこちらは、忠実に再現されたキャヴァーン・クラブ
客席の椅子に座って、キャヴァーンの映像を見ながら疑似ライブ体験ができます。
P1030541

こちらは、1964年の初のアメリカ進出をテーマにした部屋。
P1030548

左に椅子が見えるでしょうか。
部屋の一角が、ビートルズが乗った飛行機の座席になっていて、
ゲストはそこに座りながら写真を眺めたり音声ガイドを聴くことができます。

他にも『Sgt. Pepper〜』の実寸大(?)ジャケット写真や、
P1030551

エリナー・リグビーの墓」なんてのもあります。
※右奥にはストロベリー・フィールズの門が見えます
P1030549

中でも面白かったのがこちら。
実際に中を歩くことができるイエロー・サブマリン
P1030553

P1030556

別に中に何があるってわけじゃないので、「だからなんだ」と聞かれると困るのですが、
僕はこれ一番楽しかったな。

ビートルズ・ストーリーの面白さは、
普段は「見る」か「聴く」かしかビートルズへの接し方がないところに、
「遊ぶ」あるいは「追体験する」という楽しみ方を与えてくれるところでしょう。
だからとても新鮮。
ガイドブックに載っていたように、
確かに博物館や資料館、常設展示場という呼び方は間違いではありません。
しかし僕は「アトラクション」という呼び方こそ、ビートルズ・ストーリーには相応しいと思いました。

なお、ビートルズ・ストーリーについてガイドブックでは「所要時間1時間程度」と書いてありますが、
全ての展示物をしっかり見て、なおかつ音声ガイド(←これは本当に良かったです)をちゃんと聞こうとすると、
おそらく最低でも2時間はかかると思います。

順路のラストは、ダコタハウスのジョンの部屋。
美しいけど悲しさも感じさせる部屋ですね。
P1030561




■世界でたった一つの「ビートルズのスタバ」
ビートルズ・ストーリーにはギフトショップ「Fab 4 Store」が併設されています。
P1030345

マシュー・ストリート界隈にもいくつかギフトショップはあるのですが、
品揃えという点ではこのお店が一番充実していました。

そしてショップの地下には、BGMも内装も全てビートルズという、
(おそらく)世界にたった1店舗しかない「ビートルズをテーマにしたスターバックス」があります。
IMG_0959

ちなみに、「Fab 4 Store」もビートルズのスタバも、
ビートルズ・ストーリーを利用していなくても入店することができます。



■さらばカモメの鳴く街
というわけで、全6回にわたって書いてきた『ビートルズ探訪記』も今回で終わりです。
帰国して1カ月以上が経ちますが、こうして文章を書いたり写真を選んだりしていると、
まるで今でもリバプールの旅が続いているような気がして、とても幸せでした。

ブログを書きながら、僕の耳の中でいつも鳴っていた、ある音があります。
ここでキャヴァーンの音楽、などと言うと美しく締まるのですが、残念ながらそうではなく、
実は、「カモメの鳴き声」なんです。
海が近いリバプールは、街のどこにいても絶えずカモメの鳴き声が聞こえました。
リバプールのどの風景を頭に浮かべても、そこには必ずセットになって、
けたたましいカモメの鳴き声が耳に蘇るのです。

第2回で書いたように、リバプールは「斜陽の街」です。
19世紀から20世紀初頭にかけてはイギリス有数の港湾都市として栄えましたが、
海運業が廃れるとともに街の景気は急速に悪化し、
ビートルズがいた頃は、既に政府から支援を受けなければならないほどの「不良都市」と化していました。
その状況は根本的には今も変わってはおらず、街の建物にも行き交う人にも、疲れた空気が漂っていました。

灰色の街とカモメの鳴き声は、とても対照的でした。
それは、カモメが生き生きとしていたとかそういうことではなく、
カモメの鳴き声が、強烈な旅情を誘うからです。
街に漂う閉塞感と、カモメの鳴き声に感じる「ここではないどこか」への予感が、対照的だったのです。

ジョンは、ポールは、ジョージは、リンゴは、
スチュアート・サトクリフは、ピート・ベストは、ブライアン・エプスタインは、
リバプールという街の中で、どんな思いでカモメの鳴き声を聞いていたのだろうと思います。
もし、彼らが「何者かになりたい」という欲求を人一倍強く抱えていたとしたら、
あるいは、先行きのない街の中で自分の将来に早々と見切りをつけていたとしたら、
旅情誘うカモメの声は、強烈なフラストレーションを植え付けたのではないかと思います。

もっとも、こうした想像をめぐらせるようになったのは、日本に帰ってきた後のことです。
実際にリバプールの街を歩いている最中は、想像よりも感激が勝っていました。
ただ、今にして思うのは、今回の旅で得た一番の収穫は、
単にキャヴァーンへ行った、ペニー・レインを歩いたという体験ではなく、
それらの場所をめぐったことで「生身の人間としてのビートルズ」を初めて意識できたことでした。

だから、月並みですが、やはりもう一度僕はリバプールに行きたい。
そして次は、バスや地下鉄に乗って買い物に行き、
何でもない地元の店で食事をするような、「生活」を送ってみたい。
そんな風に、今度はもう少し静かに過ごしながら、
ビートルズはあの街でどんな風に過ごしていたのかを、
僕が愛する人たちはあの街でどんなことを考えていたのかを、もっと想像してみたいと思います。
P1030520





※本記事に掲載された内容は2014年1月現在の情報です。
また、できる限り調べて執筆していますが、個人で調べた範囲のものですので、
詳細な場所等には誤りがある可能性があります。ご了承ください。






sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ