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僕らは「優しさ」で
世界と対峙する


前回に続き今回も80年代の英国を代表するバンド、
ザ・スミスの話です。
※前回はこちら
今回は前回よりもさらに主観的で個人的な思いについて書いてみたいと思います。

昨年の4月に英国の元首相サッチャーが亡くなったとき、
わずか1日後にモリッシーは以下の記事のようなコメントを発表しました。
■モリッシーが寄稿した他界したサッチャー元英首相についてのコメント全文訳(アールオーロック)

なお、上記記事は公開直後に、
実はサッチャーの生前に収録されたモリッシーのインタビューの抜粋だったことが、
彼自身のコメントで明らかにされました。
しかし、その際に添えられた(今度こそリアルタイムの)サッチャーに対するコメントも、
やはり相変わらずの辛辣さに満ちていました。
■モリッシー、新たに故サッチャー元首相へのコメントを発表。その全文訳(アールオーロック)
■モリッシー、再びサッチャー元首相の死をめぐる英国の報道について寄稿(アールオーロック)

※執拗なまでに2回ものコメントを発表しています

英国の伝統産業だった炭鉱の閉鎖や国営企業の民営化など、進歩的な政策を次々と打ち出し、
「強い英国」を再び築き上げたサッチャーはその半面、
社会に弱肉強食を強いた冷徹な政治家でもありました。
サッチャーが振りかざした「強者の論理」の陰で、
排斥されるしかなかった弱者(=若年世代)の一人が、
モリッシーでありジョニー・マーであり、
そして当時のスミスの人気を支えたファンたちでした。

スミスの音楽が過去のルーツから隔絶された「孤立した音楽」であり、
そしてそれらが熱狂的に支持された背景には、
モリッシーやマー、そして彼らのフォロワーたちに共有されていた
「どこにも属さない」「帰るべき場所を持たない(持てない)」という孤独感と、
深く関わりがあるように思います。

自分と世界との間に横たわる深い溝」というのは、
スミス以前にもロックが抱えていた重要なテーマです。
しかし、スミスが特徴的なのは、世界との隔絶を、
パンクのような暴力的な手法や、ニューウェイブのような退廃的な手法ではなく、
美しいメロディと洗練されたビートで表現したところにあります。
僕にはそれが、
「いくら虐げられてもおれたちは(サッチャーのようには)優しさを失わないぜ」という、
健気な心意気に見えるのです。

実は、ちょうど同時期のアメリカに、
スミスと似たようなバンドが登場しています。
R.E.M.です。

当時、レーガノミックスが吹き荒れていたアメリカで、
そのしわ寄せを受け始めていた大学生たちを中心に支持を拡大したR.E.M.もまた、
ロックに怒りではなく「優しさ」を持ち込んだ新しいタイプのバンドでした。
(余談ですが、僕はジョニー・マーのギターを初めて聞いた時、
R.E.M.のピーター・バックに似ていると感じたのを覚えています)
大西洋を挟んで、似たようなメンタリティを感じさせるバンドがほぼ同時期に出現し、
しかもそれが共に多くの支持を集めたというのは、
とても面白い偶然だと思います。

スミスやR.E.M.のように、
怒りの感情をそのまま声高に叫ぶのではなく、
優しさや憂いや悲しさといった感情に形を変えてアウトプットする感性について、
僕はとても世代的なシンパシーを感じます。
「世代的な」というには厳密には僕はずっと後世代なのですが、
しかし、ある音楽を聴いて、
(それが好きか嫌いかという話ではなく)「なんとなくわかる」的な連帯感を覚えるのは、
実はスミスやR.E.M.が僕にとってはちょうど分水嶺になります。

「輝かしい未来が待っている」と信じられるほど楽観的にはなれず、
「社会を自分たちの力で変革しよう」というほど熱狂的にもなれず、
かといって「今さえ楽しければそれで良い」と思えるほど享楽的にもなれない、
そんな、いずれのムーブメントにも乗り遅れた時代に生まれた僕にとって、
優しさをもって世界に対峙する」という感覚は、
すんなりと受け入れられるものがあります。
どんなに強く惹かれても、時代の気分を共有できず永遠に「憧れ」止まりである60年代の音楽とは、
そこに明確な差があるのです。


さて、最後にスミスの具体的な作品について書きたいと思います。
彼らはわずか5年という短い活動期間の中で、
オリジナルアルバム4枚、ライブアルバム1枚と、多くの音源を残しました。
どの楽曲も非常に洗練されていて質が高いだけでなく、
ライブ盤も含めて一つひとつの作品がトータルアルバムとして固有の世界観を持っています。
従って、「これがオススメ」とどれか1枚を捻出するのは難しく、
「全部聴いてみて!」と言わざるをえない、というのが正直なところです。

強いて選ぶとするならば、前回の記事でタイトルに挙げた3枚目のアルバム
Queen Is Dead』が僕は好きです。
彼らのアルバムの中では最もポップで、
なおかつスミス特有の「美しい退廃」が漂っているように感じます。

ただ、いきなりオリジナルアルバムの、それも半端な3枚目から入るのは抵抗があるという場合は、
(ちょっと卑怯ですが)ベスト盤から入るのもいいかもしれません。
スミスのベスト盤はいくつかあるのですが、
The World Won’t Listen』(すげえタイトル!)がいいですね。
シングル全てが網羅されているということもあるんですが、
<Panic>〜<Ask>とつながる冒頭の展開は鳥肌ものです。

Panic


Ask







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