
かつて「青春」という時間を生きた
すべての元・少年少女たちへ
バンドの名前は「オールウェイズ」と読みます。
「v」を2つ重ねて「w」にするという、
ちょっとおもしろい名前をしたこのバンドは、カナダ出身の5人組。
7月にリリースされたセルフタイトルのこのアルバムがデビュー盤になります。
バンドの中心は、ボーカルのモリー・ランキン。
モリーの父親は、カナダのグラミー賞と呼ばれるジュノ・アワードを何度も受賞した人気ミュージシャンで、
彼女が12歳のときに父が亡くなると、その跡を継いで彼女自身が父のバンドに加入しました。
さらに、バンドと並行しながらソロアルバムも発表しており、
モリーは既にミュージシャンとしての長いキャリアをもっています。
他のメンバーも、過去に別のバンドでプロとして活動していた人がいるなど、
今年デビューとはいえ、オールウェイズは実質的には「ベテラン」なバンドなのです。
……ということを知ったのは、アルバムをひと通り聴き終えた後のことだったのですが、
正直に言えばかなり驚きました。
なぜなら僕はオールウェイズの、甘酸っぱいまでの初々しいサウンドに惹かれて、
アルバムを手にしたのですから。
<Archie, Marry Me>
モリーの、初めてバンドを組んだ女子高生のような瑞々しい歌声。
古ぼけたラジオから聞こえてくるような遠いサウンド。
そして何よりも、通り雨の後に現れた虹のような、儚くキラキラしたメロディ。
オールウェイズの音楽は、10代の頃の記憶と風景を、つまり「青春」というものを、
否が応にも思い起こさせます。
若い頃に聴いた音楽を聴き返して当時を思い出す、ということはよくありますが、
音楽そのものが青春期の匂いをもっているというのは決して多くはありません。
言葉にしてしまうと、途端に陳腐な響きに変わってしまう「青春」。
しかし人生においてあれほどいろいろな感情が次から次へと溢れた時間は他にないでしょう。
そして、まだ自分の感情を客観的に眺めたりうまく処理したりできるような余裕も経験もなく、
さらには若い時期特有の向こう見ずさが合わさって、
青春期の感情はことごとく、生まれたてのまま外の世界に晒された裸の赤ちゃんのようでした。
しかし、生きていく上で「赤ちゃん」のままではあまりに無防備で危険だから、
いつしか人は自分の感情を客観的に眺めたり、
言語化して他人と共有したりして、うまく処理する術を学んでいきます。
その分だけ「生きやすく」なるし、今さらあんなに「フルヌード」な状態に戻りたくはないけれど、
ただ、外界からのちょっとした刺激にも傷ついてしまうほど感受性がビンビンだった自分の心性が、
ちょっとだけ懐かしくもあります。
だから僕は青春と聞くと、何よりも先に「喪失」という言葉が頭に浮かぶのです。
オールウェイズの音楽に惹かれるのは、
そのような喪失感が、どの曲の中にも空気のように混じっているからです。
だからこそ、あの頃に見た風景や記憶が蘇ってきて、心が揺さぶられる。
そういう意味でオールウェイズの音楽は、青春期真っ只中にいる少年少女よりも、
その時期をはるか昔に乗り越えた「元・少年少女」にこそ沁みる音楽なのかもしれません。
今は夏なので、聴いていると地元の海とか蝉の声とかが浮かんでくるのですが、
秋や冬になったら、また違った風景を見ることができそう。
これから何度も聴き返す、長く付き合っていくアルバムになりそうです。
<Adult Diversion>
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