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なんだかものすごく
「フィジカル」になってきてる


YUKIの3年ぶりのニューアルバム『FLY』がリリースされました。
何気に当ブログでは、前々作『うれしくって抱きあうよ』(2010年)、前作『mgaphonic』(11年)と、
アルバムが出るたびに感想を書いてきてるんですよね。

ただ、オーガニックなサウンドと優しさに溢れた歌詞により、
少女から母への変化を感じさせた前2作とは打って変わって、
プログラミングによる非バンドサウンドで構成された楽曲が半数以上を占めていたり、
ラップグループKAKATOとコラボした<波乗り500マイル>のようなHIP HOPが収録されたりと、
今作『FLY』は非常にエネルギッシュで実験的なアルバムになっています。
そもそも「FLY」というアルバムタイトル、
そして派手な衣装をまとったYUKIが大型バイクに寝転がるという派手なジャケットデザインからして既に、
本作が前2作とは異なる雰囲気を持っていることを物語っています。

正直に言うと、今作の楽曲の大半は僕の耳にはフックが弱く、
そのうえ全部で16曲も収録されているものだから、
逆に個々の楽曲が埋没する「金太郎飴」状態に陥っていると感じました。
プログラミング主体の楽曲も面白いといえばいえなくもないのですが、
僕にはなんとなく物足りない。
YUKIの、あの微妙にピッチがずれて聞こえるボーカル(と感じるのは僕だけでしょうか)には、
やっぱりバンドの音の方が似合うんじゃないかなと思います。
シングルだった<STARMANN>やラスト2曲目の<カ・リ・ス・マ in the dark>は素晴らしい楽曲ですが、
どちらも今作の中では数少ないバンドの曲なんですよね(後者はスカパラメンバーが参加)。

と、アルバムそのものの出来にはちょっと不満なのですが、
それとは別に、今回僕はYUKIのある興味深い変化を感じました。

きっかけは本作のリードトラック<誰でもロンリー>のMVでした。
ビデオの中でYUKIはダンサーと一緒にダンスを踊ってるんですね。
それもちゃんと振付の入った、ガチのダンスです。
僕はこのことにかなり驚きました。



YUKIが踊るのは、別に今に始まったことではありません。
例えば前作のシングルカット<Hello!>でも、
Perfumeのダンスで有名なMIKIKOの振付によるダンスがありましたし、
さらに遡れば、<JOY>でもダンスが曲の世界観を表す重要な役割を果たしていました。

しかしそれらは、いわゆる「ダンス」というよりも、
YUKIのキャラクターを端的に表すちょっとした仕掛けであり、
一種の「お遊び」の範疇に含まれるものだったはずです。
いずれのダンスも振付が高度なものには見えないこと、
なによりYUKI自身がダンサーではないことが、
ダンスではなくお遊びの一種なのだと思わせる根拠でした。

ところが<誰でもロンリー>のMVは、さすがにお遊びの範疇を超えています。
あれだけ身体が柔らかく、しっかりと踊れるということは、
日常的にトレーニングを繰り返し、身体をメンテナンスしているに違いありません。
さらに、前述の<STARMANN>のMVにおいても、
彼女の動き、身体表現がフィーチャーされています。
こちらはダンスというものとは少し趣が違いますが、
彼女が、自分の表現手段の一つとして、
肉体」というものを重視していることがうかがえる、という点では同様です。

YUKIが、なんだかものすごく「フィジカル」になってきている。
この変化が、僕はとても面白いなあと思いました。
そういえば、太ももを露わにしたセクシーな今作のジャケット写真も、
フィジカルへの変化の一つと考えられるかもしれません。

前述のように、YUKIの「フィジカル」への変化は、今始まったわけではありません。
たまたま僕が気付いたのが今作だった、というだけのことでしょう。
しかし、それにしても「なぜ??」という疑問はあります。
だって、彼女はもう42歳ですよ?
年齢的にもこれまでのキャリア的にも「なぜ今フィジカルを追求するのだ?」という意外さがあります。

と、驚く一方で、実は僕は彼女のこうした変化にすごく共感を覚えているところもあるのです。
というのは、僕自身も、3年前にランニングを始めたことで「肉体」というものを見直すことが多くなり、
にわかに「フィジカル」というものが僕の中での重要なキーワードになったからです。

村上春樹が以前、雑誌『Number Do』のインタビューで、近年のランニングブームについて、
「先行きが見えない時代で、多くの人が最後に頼れるのは自分の肉体だけだと考えるようになったんじゃないか」
というようなことを語っていました。
走るようになってつくづく実感したのですが、肉体って「究極のリアル」なんですよね。
だから、会社でも政府でもなく、肉体を自分の最終的な拠りどころに選ぶという村上春樹の言葉は、
非常に納得できるものがあります。
こうした僕自身の変化とYUKIの変化とが、深く呼応したところがありました。

まあ、YUKIの意図するところはまるで違うのかもしれませんが、
僕がこれから彼女の音楽を聴く上で、一つの新たな文脈が生まれたことは間違いないです。








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