ttl1009

同じストーリー・同じ台詞なのに
作品が「変化する」ということ


先日見に行ってきた芝居のレビューを書きます。
が、おそらくこの作品のことを知っている人はいないでしょう。
なぜなら客席には僕を含め8人しかいなかったからです。
したがってレビューというものも、これが世界唯一だと思います。

その作品とは、演劇企画フジサワパンチの『シーン&シーン 〜2015・春 10周年大感謝祭〜』。
「演劇企画フジサワパンチ」という、この風変わりな名前の劇団(?)は、
その名も「フジサワパンチ」というステージネームで活動する俳優の、1人ユニットです。
サブタイトルにもある通り、今年の春で活動開始からちょうど10年を迎えました。
10年間、高円寺のライブハウス「ALONE」を拠点としながら、
延々とひたすら一人芝居を続けてきたのです。

実は、彼と僕とは劇団仲間で、15年以上一緒に芝居をやってきました。
ですので、形としてはまず劇団があって、
その後に彼が個人的にフジサワパンチというユニットを始めたということになります。
しかし、気付けば劇団よりもフジサワパンチの方が圧倒的に公演回数を回数を重ねていて、
「本体とサイドプロジェクト」のような関係は、今ではすっかり逆転してしまいました。

最近のフジサワパンチは、「シーン&シーン」と銘打って、
毎回7〜8人の異なるキャラクターを演じるというオムニバス形式をとっています。
今回は10周年ということで、これまで彼が演じてきたキャラクターのベスト版のような構成でした。
なので、感想も今回上演された8つのシーンについてそれぞれ書いてみます。

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■ コンタクトのアイランド
「コンタクトのチラシ配り」という生産性ゼロなアルバイトに、
異常な勤勉さと向上意欲を発揮する不器用な青年の物語。
フジサワパンチの定番ネタの一つで、僕が見に行くときはほぼ毎回見てる気がします。

最初にこのネタを見たのは僕がまだ20代の頃だったと思うのですが、
不思議なもので、当時は主人公の青年に対して、
「不器用だけど頑張れ!頑張ってればいつか正社員になれる!」みたいな、
のほほんとした牧歌的な空気を感じていたのですが、
30代半ばになった今見ると、
一体彼はいくつまでコンタクトのチラシ配りを続けるのか?」という、
こっちがハラハラするような悲壮感じみたものを感じるようになりました。
50歳くらいになっても彼がまだコンタクトのチラシ配りをしていたらどうしよう。

台本は変わらないのに、演じる側・見る側の年齢の変化でキャラクターが違って見える。
このことは、10年続けてきたからこその到達点かもしれません。


■ プロのトラ
初見でした。
「トラ」というのはドラマのエキストラのこと。
何十回とエキストラを経験して、
現場で出る弁当のメニューから助監督さんの性格にまで精通し、
いつの間にか業界人のようになってしまった「プロのエキストラ」のお話。

ただのエキストラのくせに俳優よりも俳優っぽくふるまう「プロのトラ」は、
ひとことで言えば「イタい」んだけど、前述『コンタクトのアイランド』と同様に、
考えようによってはものすごい悲哀を感じるお話でもあります。


■ 全力工事現場
建設会社で長年経理をしてきた中年社員が、
たまには現場の雰囲気を感じようと工事現場の歩道で誘導員をやってみたら、
トラックが出る時も歩行者が通る時も、
全身全霊の猛烈なハイテンションで誘導役をしてしまう、というお話。

台詞中心の芝居が多いフジサワパンチの中では、珍しく肉体系の芝居です。
アクションはキレキレでそれ自体は面白いんだけど、
30代のフジサワパンチが普通に全力でやってしまうから、
「経理畑の中年社員」という肝心のキャラ設定さえも吹っ飛んでしまうのが惜しい。


■ ノー・キャント・ロッカー
これも初見。
今回、実は一番笑ったのはこれでした。
自称シンガーソングライターの「りゅうぞう」がステージで喋って歌うという、
会場が実際のライブハウスであることを生かした芝居。

りゅうぞうはギターの弾き語りスタイルなんだけど、
小道具は使わずに、ギターを構えた状態(マイム)で芝居をしてるから、
僕はてっきり「ギターを持っているという設定」なんだと思ってたら、
後半、りゅうぞうは実際にギターを「持ってない(弾けないのでエアギター)」ということが分かります。

特にオチもないし、途中本当に自作曲(けっこう長め、しかもちょっといい歌風)を歌ったり、
つかみどころがなくてかなりシュールなんだけど、
りゅうぞうのキャラクターが本当に高円寺界隈にいそうな雰囲気があって、僕は好きでした。


■ バーバー市橋
墨田区の下町で昔から営業している床屋の親父が、
お店で彼の友人と延々くだらない話を喋っている、というお話。
ベースのネタは何回か見たことがあるんだけど、会話の内容が毎回変わります。
今回は「花見したいけどまだ桜が咲いてないから、
友人の頭を桜に見立てて店で花見をする」というもの。

これまではいつも肝心の会話の内容がイマイチで、
強引に親父のキャラクターで持っていくようなところがあったんだけど、
今回は親父たちの話の内容が練られていて面白くて、初めて笑いました。


■ マー君
『コンタクトのアイランド』と並ぶフジサワパンチの定番ネタ。
久々に実家に帰ってきたヤンキーが母親と一緒にカレーの材料を買いに行く、というお話。

ストーリーの流れはわりとよくあるもので、
これもまた、以前はキャラクターで強引にもってくようなところがあったけど、
数年ぶりに見たら、台詞の間とか視線のちょっとした動きとか、
技術的な面が大きく改善されていて、オチが分かってるのにクスリとしてしまいました。


■ 富岩くんのお花見大作戦
基本的にフジサワパンチという俳優は、
何かを付け足す、加えるという「足し算」で役作りをする傾向があります。
『コンタクトのアイランド』や『マー君』、『バーバー市橋』といった古いネタが、
「キャラクターありき」で作られているのはそのせいだと僕は見ています。

ところがこの「富岩くん」というネタは、珍しく「引き算」で作られています。
台詞は少なく、ほとんど独り言で、しかもものすごく小声なんだけど、
その「主張しないこと」によって観客の注意を引き込ませています。
もうちょっと長い尺でもできるかどうか、見てみたい。


■ 近所の中畑さん
これもだいぶ前からやっているネタで、
OPが『コンタクトのアイランド』、ラストが『近所の中畑さん』というのが定番の流れ。
(つまりラモーンズでいうところの<Durango 95><Pinhead>だ)
フジサワパンチ演じる中畑さんという初老の職人が、
近所に住む若者に向かって他愛もない世間話や軽い人生訓を垂れるという会話劇です。

何回も見ているのですが、実はこれまでは毎回「良くないなあ」と思ってました。
理由は単純で、年齢が明らかにミスマッチだから。
20代で還暦の人を演じるのはさすがに相当難しい。
しかもこのネタ、かなりしっとりとした会話劇なのでごまかしも利きません。
なので、僕はずっと「なぜこのネタをやるのか」と思ってました。

ところが、演じるフジサワパンチが30代半ばになった今、
彼が中畑さんを演じる違和感は、だいぶ小さくなりました
もちろんまだ無理があるのですが、おそらくこれからさらに溝は縮むでしょう。
前述『マー君』が、年齢をとるごとに演じるのがキツくなっていくであろうこととは反対に、
この『近所の中畑さん』はこれからしっくりくるネタなんだろうなあと思いました。

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同じ劇団の仲間ということで、
「身内のひいき目」が無いと言ったらウソになるでしょう。
それに、身内の芝居のレビューをぬけぬけと書いてしまう、
僕の良識もどうなんだという突っ込みもあるかもしれません。
それでも何かしら感想を書きたいと思ったのは、
ひいき目を差し引い(たつもり)ても、今回の舞台が面白かったからです。

それは、『コンタクトのアイランド』や『バーバー市橋』、『近所の中畑さん』のように、
演じる側・見る側の年齢の変化によって、
芝居の印象が如実に変化することを実感できたからでした。
同じ物語、同じ台詞であっても、環境の変化によって絶えず作品がアップデートされるのは、
生の舞台にのみ与えられた特権です。
まさに、10年続けてきたことの成果といっていいでしょう。

ただ、同時に、そうした変化を共有できるのは、
フジサワパンチが何年も同じキャラクターを演じ続けているからでもあります。
それは、比較的フットワークの軽い一人芝居というスタイルだからこそできることです。
僕らの劇団のように、数年に一回しか公演を打てない状況では、
やはりまずは「新作をやろう」ということになるので、なかなか実現は難しい。
そういう意味で、彼のスタイルがうらやましいとも感じます。

そしてホームページもSNSのアカウントももたず、告知はごく限られた知人のみという、
時代に逆行するかのようにクローズドな活動を続けるフジサワパンチなので、
(だからこそ客席が8人なのです)
僕も次の公演予定とかまったく知らないのですが、
分かったらお知らせします。




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