zooeyArtwork260x260

「当事者の告白」から
「メッセージソング」へ


一昨年、佐野元春のライブ映画『Film No Damage』を見て衝撃を受けて以来、
彼の初期3部作(『Back To The Street』『Heart Beat』『Someday』)+『Visitors』
ばかり聴いていたのですが、
せっかくなら「今の佐野元春」を聴こうと思い、
以降の作品を全てすっ飛ばして、彼の最新のスタジオアルバムを聴いてみました。
それが、2013年にリリースされた『Zooey』(ゾーイー)。
めっちゃくちゃいいアルバムだと思いました。

このアルバムを聞いて僕がまず「いいな」と思ったのは、バンドの音

佐野元春は前作『COYOTE』(07年)の制作にあたり、
若手ミュージシャンを集めて「The Coyote Band」というバックバンドを組織しました。
そのThe Coyote Bandがそのまま本作も続投し、
クレジットも「Motoharu Sano & The Coyote Band」と連名になっています。

かつてのThe HeartlandThe Hobo King Bandのように、
佐野元春はバックバンドをオーガナイズするのがとても上手ですよね。
それも、いずれのバンドも単なる「バックバンド」という枠を超えて、
制作のパートナーとして、あるいは活動のベースとして、
時代時代の佐野元春の音楽を生み出す源泉になっています。

The Coyote Bandは、過去の佐野のバックバンドの中では、最も硬質なバンドだと思います。
ギターの音はとても重たく、リズムは非常にタイト。
メンバーの年齢のせいか、演奏はエネルギッシュで瑞々しく(でもめちゃくちゃ上手い!)、
それを老練な大人(佐野元春)がコントロールしているという、
ある種のアンバランスさが、このアルバムの肝になっています。
ベテランではなく、あえて若手を選んだ佐野の人選眼はさすがだなあと思います。

一方、僕が「おや?」と思ったのは歌詞です。
「おおらかな人生を夢みてる君 虹をつかむまであともう少し」<虹をつかむ人>
「あぁ迷わないで心のままに あぁ夜明け前にこの先で待ってる」<ビートニクス>

このように聴く者の背中を押すような、前向きなフレーズが非常に多いのが印象的。

『Film No Damage』の頃の佐野元春って、
「街で暮らす誰か」を主人公にした、小説や映画のような作風が特徴でした。
そこではリスナーに向けたメッセージではなく、彼/彼女の人生のワンシーンが語られていました。
ですから、初期三部作から『Zooey』への変化は、
三人称だった文体が、いきなり一人称になったかのような違いを感じます。
(もちろん、これは僕がその間の変遷を全て端折っているから感じることです)

ただ、じゃあそれが違和感かというと、そうではありません。
1曲目<世界は慈悲を待っている>の「その窓を開け放ってくれ」なんていうフレーズには、
正直かなりグッときます。
初期三部作では、佐野の語る誰かにリスナーが自分自身を投影するという、
いわば間接的な関わり方しかできなかったのが、
『Zooey』では直接こちらに語りかけてくれている、
直接触れ合えているというような、「生身感」があるのです。
それは、年をとってしわがれた佐野の「今の声」ともマッチします。

ふと思うのですが、メッセージソングというものが沁みるには、
ある程度リスナーが年齢を重ねていないとダメなのかもしれません。
佐野の代表曲<約束の橋>では「今までの君は間違いじゃない」というフレーズが繰り返されますが、
初めて聴いた小学6年生のときには、まったくピンと来てませんでした。
それは(ちょっと理屈っぽいですけど)、「今までの君」というだけの人生を、
当時12歳の僕はまだ送っていなかったからだと思います。
しかし、30代半ばを迎えた今このフレーズを聴くと、なんかもうどうしようもなく泣けてきます。
間違いじゃない」って最高の肯定だと思う。

そして、それと同じようにアーティスト自身も、
メッセージソングを歌うには、「人生の蓄積」が必要なんじゃないかとも思います。
だって、仮に20代の若いアーティストが「虹をつかむまであともう少し」なんて歌ったとしても、
「あと少し」なのはリスナーではなく、むしろアーティスト自身なんじゃないかと思うからです。
つまり、誰かに向けたメッセージではなく、当事者の告白になるわけです。
(それはそれで切実さがあっていいんだけども)
そういうレベルを卒業して、あるフレーズが自分以外の誰かを応援するメッセージとなるためには、
年をとらないと難しいんじゃないかという気がします。

そう考えると、かつて「つまらない大人にはなりたくない」と自分の決意を歌っていた佐野元春が、
『Zooey』では「若きアナキストたちのために」と、自らが大人であることを引き受けた上で、
年下のリスナーにメッセージを送っているのは(しかも年をとってしわがれた声で)、
とても象徴的で、なおかつとても素敵な変化だと感じます。

いよいよ明日、本作『Zooey』以来となるMotoharu Sano & The Coyote Bandの新作アルバム
『Blood Moon』がリリースされます。
ついさっき、フライング気味にCDが手元に届きました。
これからじっくり聴きます。












sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ