来月、僕が所属する劇団の3年ぶりとなる公演があります。

詳細はコチラ ※PDFが開きます

今回が14回目の公演になるのですが、
実は僕には第1回の旗揚げ以来ずっと担当している、ある「仕事」があります。

それが、選曲
芝居の本編で流れる音楽はもちろん、開場中や閉幕後の客席に流れる音楽も、
基本的にはずっと僕が一人で選んできました。
作・演出をやるようになったのは2回目の公演からなので、
僕が劇団で最も長く担当している仕事は、実はこの「選曲」だということになります。

そこで、これから計3回にわたり、これまでの公演で使用した選曲リストを公開しつつ、
自分がどういう音楽を選んできたのかを振り返ってみたいと思います。

過去の全ての劇中使用曲をリストアップするというのは、実はほぼ初めて
初期の頃はもう記録がどこかにいってしまったので、
記憶を手繰り寄せながらなんとかリストにしました。

芝居のために選んだ曲とはいえ、
当然ながら僕自身の音楽の好みの変遷を反映しています。
中には「こんなの聴いていたのか!」みたいな発見もあって、我ながら面白い作業でした。

というわけで第1回は、旗揚げ公演『八月のシャハラザード』から第4回公演『PATRICIA』までです。
※公演タイトルをクリックすると劇団HPに飛べます。

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vol.1 『八月のシャハラザード』(2000年12月)

#1 Affirmation(Savage Garden)
#2 Forgiven Not Forgotten(The Corrs)
#3 Ain't Talkin' 'Bout Love(Van Halen)
#4 Because It's There(Michael Hedges)
#5 Two Step(Dave Matthews Band)
#6 Through The Woods(Metamora)
#7 Toss The Feathers(The Corrs)
#8 Self Portrait(坂本龍一)

記念すべき旗揚げ公演。もちろん、選曲なんてことをするのも初めて。
たしか「CDをたくさん持っていそうだから」とかそんな理由で僕が選曲担当になったのですが、
オリジナル台本ではなかったということもあり、とりあえずシーンの雰囲気に合わせて、
「なんとなく悲しい曲」「なんとなく緊張感のある曲」といった具合に、
とりあえず「なんとなく」で音楽を選ぶことしかできませんでした。

ただ、唯一コンセプトらしきものとして、
曲は全て洋楽、もしくはインストに絞る」というのはありました。
台詞が日本語なんだから、そこに日本語詞の曲をかけたら台詞が聞き取れないだろうという理由でした。

しかし(早速ですが)懐かしい…。

#4#6Windham Hillというニューエイジ系のレーベルから出てる曲ですね。
この頃はWindham HillとかNaradaとか、ニューエイジ系の音楽をたくさん聴いてました。
そういえば、以前このブログで紹介したBill Douglasと出会ったのもこの頃。
タワレコ渋谷店の5Fに足しげく通って、片っ端から試聴してました。
もう何年もこのあたりのジャンルはご無沙汰になってます。
#1Savage Gardenなんかも懐かしい。ずい分前に解散しちゃいましたね。

芝居のオープニングで流した#2は、アイルランドのバンド、The Corrsの曲。
ただThe Corrsも、当時はロックとしてではなく、
ワールドミュージック(アイリッシュ)という文脈で聴いてました。

#8はラストシーンに流した曲。
坂本龍一も当時よく聴いてました。
高校の友人の影響で、YMOよりもソロ作品の方を聴くことが多かったです。
ラストシーンは確か、主人公が天国に向かって旅立つという場面だったと思うのですが、
センチメンタルなんだけど軽快な#8は、雰囲気にとても合っていました。







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vol.2 『Goodbye, Christmas Eve』(2001年12月)

#1 Come All Ya Shepherds(Barbara Higbie)
#2 I Want You(Savage Garden)
#3 New Year’s Day(U2)
#4 Hark, The Herald Angels Sing(Eric Tingstad)
#5 Blues Drive Monster(the pillows)
#6 You And Me(The Cranberries)
#7 One Life(the pillows)

これが初めてのオリジナル作品です。
自分でストーリーを書いたんだから音楽も選びやすいだろうと思いきや、
旗揚げのときとあまり変わらなかった気がする。
やっぱりCDを片っ端から聴く「ローラー作戦」でした。

旗揚げではWindham Hillの曲を使いましたが、
今作でも#1#4といった、同じくニューエイジ系レーベルのNARADAの曲を使いました。
クリスマス作品だったので、クリスマスや冬をテーマにしたコンピから選んでます。
U2#3)を選んでいるのが意外。当時聴いていた記憶はないんだけど。

この作品で初めて日本語詞の曲を使いました。
the pillowsです。(#5#7
日本語の台詞とバッティングするんじゃないかという懸念から、
旗揚げ公演の音楽は英語詞&インストのみに絞っていましたが、
いざ日本語詞のthe pillowsを流してみると、日本語なだけに登場人物の心情をうまく補完したり、
場面の空気を盛り上げたりしてくれる効果があって、むしろハマりました

ただ、そういった演出上のメリットもさることながら、
the pillowsというバンドと出会ったことそのものの方が、大きかったかもしれません。
彼らの曲を選んだのは、僕個人が好きだったからという背景はあるものの、
当時の劇団全体の雰囲気や勢いみたいなものに、
不思議なほど彼らの曲がフィットしました。
そういう「自分たちのテーマソング」と出会えたことは、僕らにとって大きな自信になったと思います。
以降、the pillowsはたびたび芝居のテーマを背負った音楽として使われることになりました。







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vol.3 『あの夏のMessenger』(2002年8月)

#1 Rush(the pillows)
#2 Fire Cracker(Yellow Magic Orchestra)
#3 Gravity(Cosmic Village)
#4 Frangenti(George Winston)
#5 Runners High(the pillows)
#6 Woman At The Well(Tim Story)

初めて夏に行った公演です(それまでの2回はどちらも12月)。
前作で、the pillowsという初の日本語詞の曲を使ってみたわけですが、
この第3回公演は、初めから彼らの曲を使うことを前提に台本を書いた、
the pillowsありき」の公演でした。
#1は作品全体のテーマ曲として、#5はダンスシーンの曲として、
どちらも劇中で複数回流しています。
全6曲と曲数がこれまでより少なくなっているのは、上記2曲を何度も使っているからです。

the pillows以外の曲はどれもインスト曲(#3は英語詞のボーカルが少しだけ入ってる)。
やっぱりインスト曲多めという傾向は健在です。
書いていていろいろ思い出してきたのですが、
インスト曲を多く選んでいたのは前述のように「台詞とのバッティング」を避けるためだったのですが、
それ以前に、そもそも当時の僕のライブラリにインスト曲が多かったという根本的な理由があります。

例えばケン・イシイUnderworld電気グルーヴCosmic Villageなどのテクノ/ダンス系、
(そういえばビョークのソロ1stはこの頃にテクノ/ダンス系という文脈で出会ったんだった)
そして坂本龍一(YMO)やワールドミュージック、ニューエイジ系(ENIGMAとかたくさん持ってる!)などなど、
10代の終わりから20歳くらいにかけては普段聞く音楽の中に占めるインスト曲の割合が、
今よりもはるかに大きかったのです。

そういう、学校で流行ってるものからちょっと外れたものを聴くようになったのは、
当時僕の周囲に猛烈な嵐を巻き起こしていたハイスタとミッシェルに対する
反抗(「流行りモノはダサい」という典型的な天邪鬼)的な動機からでした。
(本当はハイスタもミッシェルも隠れて聴いてたけど)
だから、テクノにしてもニューエイジ系にしても、
聴き始めた当初はかなり背伸びしてたんですが、次第に耳に馴染むようになりました。
Underworldの<Push Upstairs>とか、めちゃくちゃ懐かしいなあ。







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vol.4 『PATRICIA』(2002年12月)

#1 すばらしい日々(ユニコーン)
#2 運命船サラバ号出発(ザ・コブラツイスターズ)
#3 The Mirage(Cosmic Village)
#4 To Be(Montreux)
#5 ありがとう(井上陽水奥田民生)
#6 With A Little Help From My Friend(The Beatles)
#7 Come Around(Ephemera)
#8 Khaotic Khaen(ケン・イシイ)
#9 Nowhere Man(The Beatles)
#10 Rhythm Of The Rain(The Cascades)
#11 Save The Last Dance For Me(The Drifters)
#12 Every Breath You Take(The Police)

選曲という点では、この第4回公演は大きな転換点となった作品でした。
日本語ボーカルのthe pillowsの曲をちょいちょい使うようになっていたとはいえ、
全体として見ると前作までは、英語詞もしくはインスト曲が大半を占めていました。

繰り返し書いているように、「台詞とのバッティング」を気にしていたのが理由なのですが、
それは言い換えれば、当時の僕は劇中で使う音楽を、
登場人物の心情を補完するもの、あるいはシーンの意味をかみ砕いて説明するもの、
つまりあくまで物語に従属する「BGM(Back Ground Music)」であると考えていたからでした。
悲しいシーンには悲しい曲を、楽しいシーンには楽しい曲をかけるのが、
当時の僕の「選曲観」であり、the pillowsにしてもそれは例外ではありませんでした。

ところが、この第4回公演からは、
それまで守ってきた物語と音楽の主従関係を意図的に崩し始めました。
悲しいシーンに楽しい曲を、逆に楽しいシーンに悲しい曲を選ぶようになったのです。
例えば#9#11は、一般的には美しくロマンチックなイメージの曲だと思いますが、
前者は登場人物の一人が狂うシーンで、後者にいたっては全員が死ぬシーンで流しました。
(自分で書いてて自分で突っ込みますが、一体どんな芝居だよ)

きっかけは当時熱心に見ていた第三舞台つかこうへいでした。
彼らの芝居では、音楽は物語の従属物ではなく、
物語と真っ向からケンカするような音楽が盛んに流れていました。

悲しいシーンに悲しい曲をかけるよりも、悲しいシーンに楽しい曲を流した方が、
むしろ悲しさが際立つことがある。
「BGM」が生む感情は、しょせん「予想可能な感情」でしかないのに対して、
物語とズレた音楽は、そのズレによって作者でさえ予測できない巨大な感情の渦が生まれることがある。
(もちろん、その分だけ失敗する可能性もある)
そういう選曲手法があるんだということを、彼らの芝居をきっかけに発見し、
自分でもやってみようとしたのが、この第4回公演だったのです。

前作までと比べて使用曲数が格段に増えているのはそういった理由から。
そして「BGM」としての選曲を止めたことで自ずとインスト曲が減り、
逆にそれまで避けていた日本語詞の曲が一気に増えました。

もっとも、初めての試みだったので、
正直今思い出してみると、この公演の選曲は逆に狙いすぎだなとも思うのですが、
選曲という仕事に対する基本的なポリシーみたいなものは、この第4回公演で作られた気がします。





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※次回は第5回公演『500万年ララバイ』から第9回公演『クワイエットライフ』までを取り上げます。

L&W

theatre project BRIDGE vol.14
『ザ・ロング・アンド・ワインディング・労働』
シアターグリーン BOX in BOX THEATER

10/10(土)14:00 / 19:00
10/11(日)14:00 / 19:00
10/12(月祝)14:00
※開場は開演の30分前です

http://www.t-p-b.com/




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