前回の続き。
祖父の葬式で自分のルーツの一つが岡山県高梁にあることを知った僕は、
昨年、大叔父の案内で同地を訪れました。
一度も行ったことのない街なのに、そこが自分の「故郷」だった。
その衝撃は、僕に「もっと家族の歴史を知りたい」と興味を抱かせました。

そして今年、そんなファミリーヒストリーをさらに明らかにできる、絶好の機会がやってきました。
大学で歴史を研究しているいとこ叔父(親のいとこ)が、
先祖の記録が書かれた昔の書物を見に行かないか」と誘ってくれたのです。
なんですか、その激しく心惹かれるお誘いは。

訪れたのはここ。
立川にある国文学研究資料館
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ここに、僕の先祖のことが載っている史料、
備中松山藩の『松山御家中由緒書』が眠っているらしいのです。

江戸時代、各藩は定期的に、家臣全員の家の歴史(由緒)をまとめて、文書に残していました。
そこには当代の家臣一人ひとりについて、
親は誰で祖父は誰で、代々どんな仕事をしていて…というような情報が、恐ろしく細かく書かれています。
当時、武士の給料(禄)は、本人の能力だけでなく、
それまでの祖先の功績に対して、つまり「」に対して支払われていました。
先祖の経歴がこと細かに書かれた「由緒書」は、いわば家臣たちの給与明細なのです。
(給与明細が200年以上も保管されて、しかも閲覧自由状態というのもすごい話です)

国文学研究資料館は、江戸時代初期に刊行された『太平記』や、
16世紀初頭に冷泉家が書写した『古今和歌集』など、大量の史料が所蔵されている、
歴史好きにとってのディズニーランドのような場所です。
#所蔵資料一覧はコチラ
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※館内は閲覧目的以外の撮影は禁止なので、写真はここまで

館内には、図書館のように書架に並べられている史料もあるのですが、
今回僕らが調べる大名家文書のように古いものについては、
事前に申請して、当日係の人が奥から運んできてくれるというVIP待遇システム。
おれ、研究職でも何でもないただのサラリーマンなんだけどいいんだろうか。

箱と包装で何重にも守られた『松山御家中由緒書』は、全部で2種類ありました。
一つが安永8年(1779年)に、もう一つが文政9年(1826年)に編纂されたもの。
それぞれが10冊前後で構成されていて、1巻からイロハ順に、
当代の家臣の名前に家系、家の出自、代々の当主の経歴なんかがズラッと書かれています。
まるで辞典のように機能性重視で編集されているところが、いかにも行政書類っぽくて生々しいです。

載っている情報がやけに多い人もいれば、ほんの数行で終わっちゃう短い人もいて、
「この人はめちゃくちゃ功績があるんだろうか」とか、「この人は登用されてまだ日が浅いんだろうか」とか、
書き込みの量を眺めているだけでも想像が膨らみます。

そして、本当に載ってました、僕のご先祖様の名前。
記述によるとウチの家祖(!)は、板倉家が高梁に移封される前、
まだ伊勢亀山藩の藩主だった時代に登用されたそうです。
寛永19年(1642年)生まれと書いてあるので、おお、400年も前なのか。

家祖様(と言えばいいんだろうか)は仕舞(略式の能)が得意だったらしく、
当時の板倉家の殿さまの前で踊りを披露したことがきっかけで登用されたと書いてあります。
一介の浪人身分だった家祖様が、小藩とはいえ譜代大名の板倉家当主にお目見えできたのは、
どうも亀山藩に縁のある旧知の知人数人を巻き込んで、彼らに仲立ちを頼み込んだからのようです。
コネやツテをフルに使って這い上がろうとする、かなりガッツのある人だったのでしょうか。
でも、この人がこの時チャンスをモノにしたおかげで今の僕があるわけですから、
そのアグレッシブさに感謝しなくちゃいけません。



…にしても不思議な感じです。
400年近くも前の家族のことを知るというのは、脇腹をゆっくりくすぐられるような、妙な気分です。
普通に暮らしているだけでは、家の歴史なんて、せいぜい曽祖父母の代くらいまでしか遡れません。
でも、今回それをさらに遡って知れたことで、
自分に流れている血が延々と受け継がれてきたものだということを、ものすごくリアルに感じました。
そして、自分もまた次の代へ継いでいく一人になることも。

とはいえ、こうして知ることができたのは、板倉家が史料を残し、それを国文学研究資料館が保管し、
そして偶然にも大叔父といとこ叔父が僕を導いてくれたからです。
僕のご先祖様が、公式に記録を残される武士という身分だったという幸運もあります。
家の歴史を知ることが自分のアイデンティティを豊かにしてくれる。
そのことを痛感する一方で、僕は「自分のルーツ」を辿る道が、いかにか細いものかも感じました。

高梁にある「ご本家」は(縁が遠いので詳細は分からないものの)、現在は当主不在のようです。
そして今年、祖父の後を追うように亡くなった祖母の実家も、
(そちらもわりと大きな武家の出なのですが)今は誰が家を継いでいるのか不明だそうです。

家(苗字)が戸籍から無くなること自体は、歴史が生み出す一種の自然淘汰なので、
過剰に嘆く必要はないと思うのですが(嘆いたところで僕にはどうしようもないし)、
その家が抱えていた歴史」が散逸してしまうのは、もったいないなあと思います。
とりあえず僕は、今回偶然知ったファミリーヒストリーを記録に残し、整理して、
次代の誰かにそれを伝えることにします。

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2015年の記事は今回で最後です。
今年は秋に劇団の公演があったので途中更新が空いたりしてしまったので、
来年はリカバリするぞ!…と思っていた矢先、
11月に亡くなった祖母と入れ替わるように、娘が生まれました。
来年は子育ての合間を縫って(なるべく)更新します。
2016年もよろしくお願いします。




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