一体世の中にはランニング(マラソン)を題材にした小説はどのくらいあるんだろうか
そんなことをふと考えたのは2年ほど前のこと。
以来、細々とランニング・マラソン小説を探し、見つけては買い、計37作品を読破しました。
いずれも今回読むのが初めての作品ばかりです。

驚いたのは、ひと口に「ランニング小説」といっても、内容は多岐にわたることでした。
ストイックな競技者を描いたもの。
ランニングを通して主人公の成長(再生)を描いたもの、
ランニングはあくまでモチーフで、スポーツとは全く異なるジャンルのもの。

そこで、読了した37作品のランニング小説(一部、短距離が題材の作品も含まれています)を、
内容別に3つのカテゴリに分けて感想をまとめてみたいと思います。
3つのカテゴリは、「ストイック・アスリート編」、「マラソンは人生編」、「変わりダネ編」。

なお、自力で探せる限りは読んだつもりですが、
おそらく漏れている作品もあると思いますのでご了承ください(でもかなり読んだぞ!)。
また、「Aの要素もあるけどBの要素もある」というように、本当は複数のカテゴリにまたがるものの、
無理矢理3つのカテゴリのどれかに押し込んだ作品もあります
以上のような点を踏まえたうえで、あくまで「私家版」「暫定版」として読んでいただけると幸いです。

第1回目の今回は「ストイック・アスリート編」です。
文字通り、競技者である主人公を通して、
スポーツとしてのランニング・マラソンを描いた小説群です。

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『チーム』 堂場瞬一
箱根駅伝の学連選抜チームを描いた小説。走れなかったチームメイトの期待を背負って走る選手、競技者としてのプライドや記録挑戦だけを動機に参加する一匹狼な選手。寄り合い所帯ゆえの葛藤や、自校出場の夢が叶わなかった「敗者」としてのコンプレックスを抱えた選手たちのドラマは、とても読み応えがあります。また、本書は走っている最中の選手たちの心理描写が非常に細かく(自分の肉体や他の選手の動きに対する過敏な反応、沿道の景色に見入ったり子供の頃の記憶が不意に浮かんできたりする脈絡のない精神状態etc)、読みながらまるで自分自身が走っているような苦しさを味わえます。今回読んだ本の中では最も迫力がありました。



『ヒート』 堂場瞬一
小説『チーム』に登場した一匹狼の天才ランナー・山城と、目立った記録を残せないまま選手としてのピークを終えようとしていたベテランランナー・甲本の2人を軸に、架空の国際大会「東海道マラソン」の創設を描いた物語。『チーム』の続編といわれていますが、前作よりもさらにハードで男臭く、かなり面白いです。本書では「ペースメーカー」が大きなテーマの一つになっています。「透明の存在」であるペースメーカーが実質的にレースの主導権を握る現代のマラソン。確かに選手の負担は軽減され、結果的に好記録が生まれやすいものの、2013年の東京マラソンやびわ湖マラソンでは、ペースメーカーが設定ペースを保てなかったせいで選手は翻弄され、結果的に記録も見ごたえもない、つまらないレースになりました。ペースメーカーという制度は、マラソンの「競技としての純粋性」を損ねているのではないか。本書はその疑問に鋭く迫ります。



『風が強く吹いている』 三浦しをん
映画化もされた有名作品。陸上初心者だけで結成された大学駅伝チームが、箱根駅伝の出場を目指す、というストーリー。荒唐無稽だけど、とても面白いです。駅伝という競技が持つ独特の湿っぽさ(「仲間のために走る!」みたいなノリ)がなくて、むしろ、初心者のくせに本気で勝ちにいっているあたりに痛快さを感じます。走っている最中の描写(息遣い、筋肉の様子、周囲の風景、地面の感触etc)は、堂場瞬一と並んで一段飛びぬけています。



『一瞬の風になれ』 佐藤多佳子(全3巻)
青春陸上小説No.1」という帯の文句から、なんとなく色眼鏡で見ていたんだけど、めちゃくちゃ面白かった。主人公は、高校に入って陸上を始めた男の子、新二。軽い気持ちで走り始めたものの、部活の仲間や先生と関係を深めるうちに、あるいはライバルとの試合を経験するうちに、徐々に短距離にのめりこんでいく様子が、新二自身の朴訥とした語りで描かれます。舞台は高校の部活ですが、0.1秒を削り出そうとする様は紛れもないアスリートであり、またそこに至るまでのトレーニングやメンタルの描写も細かく、十分「アスリートもの」として読むに耐えます。ちなみに著者の佐藤多佳子はこの本の他に、北京五輪で銅メダルを獲得した男子100m×4リレーの4選手を取材した『夏から夏へ』というインタビュー集も書いてます。そちらも面白かった。



『カゼヲキル』 増田明美(全3巻)
非凡な才能を秘めた田舎の女子中学生が、マラソンの五輪代表になるまでの10年間を描いた小説。作者は、元選手で現在は解説者として知られる増田明美。あとがきに曰く「五輪や世界陸上では選手の『今』しか見えないが、彼らはスタートラインに立つまでに少なくとも10年以上の歳月を準備・練習に費やしてきたことを伝えたかった」。物語はよくあるシンデレラストーリーのようですが、決してご都合主義には映らないのは、まさに著者のいう10年間の準備とステップが必要だったことを読んで納得できるからでしょう。元トップ選手だからこそ書ける小説という感じ。「一流マラソン選手ができるまで」を垣間見れる作品。



『標なき道』 堂場瞬一
才能もある。練習もしている。経験も十分に培った。けれど勝てない。そんな「二流選手」を抜け出せない実業団ランナー・青山の元に、見知らぬ男から「絶対に検出されない薬がある」という電話がかかってくる。「ドーピング」を切り口に、どんな手を使ってでも勝ちたいと望む、競技者の“業”を描いた小説。物語全体がむしむしと暑苦しい湿気に包まれているような、ずっしりとした読み応えのある本です。元々は『キング』というタイトルで、後に改題されたそうです。



『冬の喝采』 黒木亮(全2巻)
元中長距離走者で、早稲田大学時代は瀬古利彦と共に箱根駅伝を走ったこともある著者の自伝小説。ものすごく面白かったです。主人公(著者)は、ランナーとしての才能を発揮し始めた矢先にケガに見舞われ、そこから約4年間にも渡ってケガに悩まされる不遇の時代を過ごし、本書の前半はほとんどがこのケガの時代について紙面を割いています。考えてみれば、「ケガをしたランナー」をここまで延々と描いた作品は珍しい。「成績に残るのは氏名とタイムと順位だけ。どれだけ血のにじむような努力をしても、競技者の人生というものはたった1行に集約される」という、ミもフタもない世界にアスリートたちは生きているのだなあとハッとさせられます。



『神の領域―検事・城戸南』 堂場瞬一
主人公の検事・城戸は、大学時代に箱根駅伝を途中棄権した元ランナー。彼が、大学陸上部の選手の殺人事件の捜査をきっかけに、かつて同期だったある天才ランナーと、陸上競技界を覆う闇を追及する、というストーリー。堂場瞬一は今回何冊も読みましたが、どれも良かったです。本書は『標なき道』と同様に「ドーピング」がテーマになっています。ただ、どちらもそれを単に犯罪としてではなく、競技者や指導者が抱える、勝利への飽くなき欲求という「業」として描いているところに、クライム小説やサスペンスではなく、あくまで「スポーツ小説」であることを感じます。



『19分25秒』 引間徹
陸上競技を題材にした小説の中でもかなり珍しい(と思う)、「競歩」を描いた作品。義足というハンディを持っているにもかかわらず、世界記録を超えるスピードを誇る謎のランナーと出会った主人公の大学生が、自身も競歩を始めて徐々にのめり込んでいく、というストーリー。物語自体は特別印象に残るものではないけど、運動と無縁だった主人公がだんだんと「アスリート」に変貌していく過程がけっこうみっちり描かれているので、ランナーとしてはけっこうリアリティをもって読めると思います。



『メダルと墓標』 外岡立人
3つの作品からなる短編集で、マラソンに関連するのは1つ目の『メダル』という小説。独自のトレーニング理論を研究する大学助教授が、大学の新入生の中に才能のある選手を見出し、自らの理論に基づいたトレーニングを課しながら日本選手権を目指す。だが、その選手は白血病を抱えていて…というお話。著者が現役の医療関係者なので、「遅筋繊維」「大体四頭筋」「グリコーゲン」など、トレーニングに関する場面の描写がやたらと専門的



『800』 川島誠
短距離としては長すぎ、長距離としては短すぎる「800m」という競技に打ち込む高校生男子2人を主人公にした小説。主人公の一人・広瀬の、クールなランニング哲学と理性的な練習方法は、ランナーとして参考になる部分がないわけではないのですが、広瀬も、もう一人の主人公・中沢も、やたらと女の子といちゃいちゃしてばかりいるので、僕は「こんなリア充な高校生は大嫌いだ」とずっと思ってました。


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次回は、マラソンと人生とを重ね合せて、
走ることで苦難を乗り越える姿を描いた作品群、「マラソンは人生編」をお送りします。




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