ランニング・マラソンを題材にした小説、計36作品を、
内容ごとに分類してまとめて紹介する「ランニング小説」まとめ。
2回目は、「マラソンは人生編」です。
#第1回:ストイック・アスリート編

前回は、スポーツとしてのランニング(マラソン)を描いた作品群でしたが、
今回は、ランニングを人生のメタファーとして描いている小説をまとめました。
マラソンは人生に似ている」とはよく言われる言葉ですが、
今回紹介する小説の中では、主人公が走ることを通して成長したり、苦難を乗り越えたりします。
中高生の青春小説ばかりかと思いきや、
中には中年の男性が、走ることで人生を再生していくような物語もあります。

--------------------------------------------------

『遥かなるセントラルパーク』 トマス・マグナブ(全2巻)
今回読んだ全作品のなかでは最も長い距離のレースを描いた小説であり、そして、一番面白かった作品です。舞台は1931年のアメリカ。ロサンゼルスからNYに至る計5000キロ、期間3カ月にも及ぶ途方もない規模の大陸横断マラソンレースに、人生の一発逆転を狙って出場するランナー達と興行主の戦いと友情を描いた群像劇です。一人ひとりのキャラクターがとても魅力的でドラマとして十分に楽しめるだけでなく、肉体の限界に挑むランナー達の孤独と葛藤がしっかりと描かれていて、ランナーの視点からもリアリティたっぷりに読めました。過酷なスポーツを描いたエンターテイメント小説であり、前人未到の旅を描いた冒険小説であり、そして人生の意味を考えさせる哲学小説でもあり、さまざまな魅力にあふれた小説です。著者は元三段跳びの選手で、五輪チームのコーチまで務めたことがあるそう。この作品が処女作で、アメリカではベストセラーになったそうです。



『長距離走者の孤独』 アラン・シリトー
マラソンをテーマにした小説といえば筆頭に挙げられるのはコレでしょう。初めて読んだのは確か10代の頃。自分もランナーになったいま改めて読むと、当時よりも主人公スミスの年齢とは離れてしまったにもかかわらず、心に響くものがありました。「大人への反抗」「システムへの反抗」というような言葉が、この本を語る時に必ず出てくるキーワードだけど、本当はその前に、スミスがそもそも走ることに魅入られていったということが大事だと思う。スミスは走っている間だけは、何物にも束縛されない解放感を感じていた。自分が、他の誰かが用意したわけではない、自分自身の時間を持つことができた。彼は走ることで、「自由」を手に入れてたんじゃないかと思います。だから、感化院なんかのために走ることに彼は我慢ならなかった。走ることは自由であり、同時に孤独でもある。これは、僕自身の実感とも合致します。本書が名作と呼ばれる理由がわかった気がしました。



『フロント・ランナー』 パトリシア・ネル・ウォーレン
これはなかなか読みごたえがありました。生徒を誘惑したという疑惑をかけられた不遇の教師ハーランと、ゲイであることが理由で元いた学校にいられなくなった長距離選手のビリー。2人の男性の恋物語です。この本が最初に出版されたのは1974年。当時の社会のゲイに対する理解度は今よりもずっと低く、2人の恋は決してオープンにはできないものでした。そして、ランニングという競技がもつ禁欲性ともあいまって、2人の恋は実にもどかしく、切なく描写されます。物語はハーランの1人称で語られるのですが、彼のビリーに恋する目線を通して、なんだか僕自身がどんどんビリーに惹かれていくような錯覚を覚えます。アメリカにはLGBTのためのランニング団体があり、本書のタイトルを採って「フロントランナーズ」と名前を付けられているそうです。なお、本書の続編として『ハーランズ・レース』という作品がありますが、そちらは未読。



『チームII』 堂場瞬一
今回読んだ作品の中でも最も新しい作品。2015年の10月に発売された『チーム』シリーズの最新作。ここまで完全無欠のランナーだった山城悟が、「怪我」という初めての危機に見舞われます。その山城の窮地を、現在は母校・城南大学の駅伝部監督となった浦をはじめ、かつての学連選抜チームのメンバーが助ける、という話。これまでで最も山城の感情が濃く描かれていて、過去の登場人物が総登場する展開といいい、シリーズの総決算的な作品です。「友情と絆が孤独な男を救った」というような陽気な話ではなく、むしろそういった定番モノなドラマをもってしても、ジリジリとしか変化しない山城の頑なさがこれまで以上に強くて、やはり「読ませるなあ」という気がします。アスリート・山城ではなく、人間・山城を描いたという印象だったので、前2作は「ストイック・アスリート編」に入れましたが、この作品は「マラソンは人生編」にカウントしました。



『ランナー』 あさのあつこ
長距離ランナーとして将来を嘱望されつつも、家庭の問題で陸上部を退部した少年・碧李(あおい)が、再度ランナーに復帰するまでを描いた小説。碧李は走ることで自分を支え、そしてまた走る中でさまざまな決断を下していきます。10代の少年少女を主人公にしたランニング小説は多いですが、その中でも本書はかなり重たい内容の作品です。しかし、「走るということは何なのか」という根源的な問いの一端に触れる快作だとも思います。劇中で語られる「(走ることは)肉体だけが生み出せる快感だ」という言葉が印象的。



『スパイクス ランナー2』 あさのあつこ
『ランナー』の続編。陸上部に復帰したものの思うように記録が出せないでいる主人公・碧李の、ある試合の一日を描いた作品で、初めて彼のライバル的ランナーが登場します。前作に比べて、より「競技者」シフトの物語になっていますが、かといってストイックさには欠けるし、新しいキャラクターはあまり魅力的とはいえないし、読み応えでは第1作に遥かに及びません。



『レーン ランナー3』 あさのあつこ
『ランナー』『スパイクス』に続くシリーズ第3弾。さらにシリーズは続きそうな予感はあるけど、もういい加減辞めといた方が良さそう。第1弾にあった瑞々しさはもうどこにもありません。



『シティ・マラソンズ』 三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵
ニューヨーク、東京、パリ。世界3都市のシティマラソンを舞台にした3人の作家による短編集。三浦しをんとあさのあつこは既にランニング小説を書いているけど、近藤史恵は未確認。でも、3作の中では近藤による『金色の風』が一番良かったです。「走ることでその街のことを深く知ることができる」というのは僕自身がまさに今身をもって体験しているところ。ランニングが人の精神に与える作用を、簡潔かつ端的に表してるなあと感じました。



『そして、僕らは風になる』 田中渉
春でも夏でも年中サンタクロースの格好をして街を徘徊している元陸上選手が、母校の陸上部に所属する先天性の難病を患った男子生徒のコーチをするというお話。語り口は軽いのですが、2人のキャラクターの設定がユニークなのでけっこう面白かったです。特にサンタは、過去に彼の身に起きた悲しい出来事が理由で年中サンタの格好をしているのだけど、悲劇とサンタの格好というミスマッチが悲しくて印象的です。金栗四三高橋尚子といった歴代の名ランナーたちの名言が随所に散りばめられているのも面白い。



『もういちど走り出そう』 川島誠
かつて400mハードルでインターハイ3位という成績を収めたことのある歯科医師が主人公。高級住宅街で富裕層を相手にした歯科医院を開き、順風満帆だった彼だったが、妻が小説を書いて新人賞を受賞したことから、人生の歯車が狂い始める、というストーリー。不協和音にまみれていく生活の中で、彼は久しぶりにランニングに取り組み始めます。医院でバイトしている女子大生と浮気しまっくたり、彼の背徳っぷりはどうも必要以上に過剰で鼻白むものがありますが、ランニングが生活に一種の規律をもたらしている、という描写は納得できます。



『RUN!RUN!RUN!』 桂望実
天賦の才能を持つものの、チームメイトとの協調性ゼロの独立自尊の学生ランナー岡崎優が、突然の兄の死によって変調をきたし、さらに、自分が「遺伝子操作で生まれた人間かもしれない(=足が速いのは努力のせいではなくそのように「作られた」からだ)」という疑いを持つようになり、競技を続ける意欲を失ってしまう。そのどん底からの再生を描いたストーリー。物語の要素としてはどれも「おっ!」と惹かれるものがありますが、実際に読んでみると、例えば「孤高のランナー」というキャラクターの点では堂場瞬一の『チーム』シリーズの山城に遥かに及ばず、また、走ることで自分自身を再生させるというストーリーの点でも、あさのあつこ『ランナー』の方が優れています。



『マラソン』 笹山薫
マラソンに挑戦する自閉症の少年を描いた物語。韓国の同名映画のノベライズ版で、実話に基づいているそうです。少年の病気に翻弄される家族の話なので、ランニングという観点では読むべきところはほとんどありません。



『17歳のランナー』 草薙渉
これは短距離もの。テニス部に所属し、平凡な高校生活を送っていた主人公ツトムが、体育の授業で100m走を走ってみたら、いきなり9秒台を叩きだして・・・という、かなりぶっ飛んだ設定で幕を開けます(でもまあ桐生祥秀選手みたいな例もあるからありえない話ではないんだよなあ)。仲間との友情や恋など、いわゆる青春小説の定番ネタがたくさん盛り込まれてるんだけど、どのドラマもいまいち盛り上がりに欠けるし、肝心のランナーとしての描写も少ないし、読み終わっても何も残りません。

--------------------------------------------------

次回は、ランニング小説の仮面をかぶったサスペンス、ファンタジー、さらにはSFという、
知らずに読み始めたら度胆を抜く作品群「変わりダネ編」をお送りします。




sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ