ランニング・マラソンを題材にした小説、計37作品を、
内容ごとに分類してまとめて紹介する「ランニング小説」まとめ。
最後となる3回目は、「変わりダネ編」です。
#第1回:ストイック・アスリート編
#第2回:マラソンは人生編

これは、確かに人が走るシーンは出てくるものの、ランニング自体がテーマではなく、
殺人事件を解く推理小説だったり、SFだったり、
ランニング小説だと思って読み始めると面食らう作品群です。
今回読んだ小説の中で、一番当たり外れが激しく、同時に一番読み応えがあったのが、
このカテゴリに属す作品群でした。

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『沈黙の走者』 比嘉正樹
元箱根駅伝のランナーという経歴を持つ諜報員が、国際的な陰謀を防ぐために活躍するというサスペンスアクション小説。あらすじ書くだけでもトンデモ臭がしますが、中身はもっとぶっ飛んでます。電話が鳴る場面を、「電話が鳴った」と地の文で説明するんじゃなくて、この作者の場合「トゥルゥルゥルゥ・・・」と鍵カッコつきで台詞みたいに表現します。斬新!



『強奪 箱根駅伝』 安藤能明
箱根駅伝の直前に神奈川大学駅伝チームの女子マネージャーが誘拐されるという、箱根駅伝を舞台にしたサスペンス小説。警察・テレビ局と誘拐犯との知能戦という物語の主軸よりも、総走行距離200km超という巨大駅伝を中継するテレビ局の舞台裏劇が面白いです。箱根駅伝のマニアックなサブテキストとして読めるかも。犯人の動機が弱すぎるのが玉にキズ。



『激走福岡国際マラソン』 鳥飼否宇
福岡国際マラソンを舞台に、出場するさまざまなランナーが互いの思惑や過去の因縁をぶつけあいながら戦う姿を描いた、サスペンス群像劇。マラソンは、選手が終始無言であるという、いわば沈黙のスポーツですが、本書の、短く区切られた章ごとに異なる選手に視点を移しながら進行するという構成は、選手たちがその沈黙の下でいかにいかに内面に葛藤を抱え、互いの肚を探りあい、し烈な駆け引きをしているかをあぶり出します。話のオチよりも、そうした高い臨場感が魅力の小説です。



『ラン』 森絵都
主人公・環はある日、知り合いにもらった自転車に乗って「あの世」に迷いこんで、事故で亡くなった家族と再会します。しかし、あの世へ行く唯一の交通手段だった自転車はある事情で手放さなくてはいけなくなり、環はあの世への道のり(40km)を自らの足で走るため、地元のランニングクラブに加入してランナーになるという、なかなかぶっとんだ小説です。物語は正直退屈。ランニングという観点でいうと、環がクラブの仲間と一緒に行う練習がけっこう細かく描写されているので、初心者ランナーの成長ストーリーとしてならそれなりに感情移入できるかも。



『彼女の知らない彼女』 里見蘭
多分、今回読んだ全作品のなかでこの小説が一番の変わりダネ。主人公は東京で平凡な暮らしを送る夏子。ある日彼女の元に、村上と名乗る男が現れる。彼は夏子に「君はもう一つの世界ではオリンピックを目指すマラソンランナーなんだ」と告げられ、混乱のままに夏子はデロリアン的マシンに乗ってもう一つの世界へやってくる。そして、ケガをして走れない「もう一人の自分」の影武者として、パラレルワールドでマラソンランナーになる…という、まさかの「SFマラソン小説」です。ランニングのディティールは細かくないので、ランナーとして読むべきところはほとんどありませんが、日本ファンタジーノベル大賞を受賞しただけあって、作品そのものはサラサラッと読むことができます。



『ジェシカが駆け抜けた七年間について』 歌野晶午
「変わりダネ」の中でも最も多かったのが、マラソンを舞台にしたミステリー・推理小説ですが、その中では本書が一番面白かったです。ある出来事をきっかけに命を絶ったはずの女性ランナーが、なぜか死後もあちこちに現れ、事件を巡る人たちを翻弄するという、ドッペルゲンガーをキーにしたミステリー。走るシーンそのものよりも、競技に賭ける選手たちの泥臭い執念が執拗に描かれており、事件のオチに至るまでの展開もスリリングで読みごたえがありました。



『沈黙のアスリート』 吉田直樹
ある若手の実業団女子マラソン選手の不審死をめぐるミステリー。心に傷を抱えた元実業団のエースや、彼の恩師でいわくありげなベテランコーチ、飄々とした実業団の親会社社長に、陰のある美人トレーナー…。いかにも胡散臭い登場人物が次から次へと登場しながら、物語は五輪招致をめぐる日本スポーツ界の水面下での争いにまで発展していくという、まさに王道的なエンターテインメントです。惜しむらくは、王道すぎて逆に読後に印象が残らないこと。なお、実業団が舞台とはいえ選手や試合が主題ではないので、ランナー視点で楽しめる部分は少ないです。



『42.195』 倉阪鬼一郎
無名の男子マラソン選手の息子が誘拐され、「息子を帰してほしかったら次の大会で2時間12分を切れ」という奇妙な脅迫状が届く、というところから始まる推理小説。作中、計2回のマラソンが描かれますが、ランナーやレースの描写に特段目新しいものはなく、また肝心の事件解決のオチも面白くありません。ただ、相当「変わりダネ」であることは確かです。



『ニューヨークシティマラソン』 村上龍
村上龍が1カ月のニューヨーク滞在を機に書いた短編集。ランニングに関係があるのは冒頭に収録された表題作のみになります。人種のるつぼであるマンハッタンの、最底辺に近い場所で暮らす若者が、ニューヨークシティマラソンに挑戦します。それは判で押したように同じ(それも鈍い絶望感に満ちた)毎日の中で、シャツの染み程度ながらも、鮮やかなアクセントになります。景色の描写は多くありませんが、枯葉の舞う秋を感じさせる小説です。ただ、ランニングという観点で言えば、練習の苦しみやレースの駆け引きみたいな描写は皆無なので、「ランニング小説」として括るべき作品ではないかもしれません。



『マラソン・マン』 ウィリアム・ゴールドマン
コロンビア大学で歴史学を学びながらマラソン選手を目指して厳しいトレーニングに明け暮れるリーヴィ。そんなリーヴィの平穏な日常が、ある事件をきっかけに崩れ、得体の知れない組織と関わりを持つことになる、というサスペンス小説です。走るシーンはごくわずかしか出てきませんが、終盤、非常に重要な場面でリーヴィの走る姿が描かれます。



『走る男になりなさい 』 本田直之
小さな出版社を舞台に、ワケあり社員たちが新刊雑誌の創刊に奮闘する、というストーリー。ランニングがどう絡むかというと、例えばチーム全員でランニングを始めたらコミュニケーションが円滑になったとか、運動で脳が活性化するとか、本書におけるランニングはあくまでビジネスにフィードバックするための一つの道具にすぎません。要はランニングをダシにした自己啓発本。著者はコンサルタントで、しかも版元もサンマーク出版だから推して知るべし、ではあります。こういう「ランニングは○○にいい」など、何らかの目的を達成するための手段としてランニングを捉えることは、僕のランニング観とは相容れないのでまったく楽しめなかったです。



『ららのいた夏』 川上健一
一介の女子高生がマラソンの日本記録を破ったり世界記録に迫ったり、しかも美人だからお茶の間の人気者になっちゃって、おまけに恋人だった同級生はドラフトでプロ野球選手になったりして、順風満帆かと思いきや、最後に女の子が不治の病にかかって死んじゃうという、全てが雑で、突っ込みどころ満載の小説。ランニング小説としても、青春小説としても何一つ面白いと感じるところがなく、退屈を通り越して苦痛でした。おすすめできなさすぎて、逆におすすめしたい。みんなでこの本の圧倒的な虚しさについて語ろう。


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これで3つのカテゴリは全て紹介し終えました。
しかし、ここまで紹介したのは36作品。今回僕が呼んだのは全部で37作品。
実は1作品だけ、どのカテゴリにも当てはめられなかったランニング小説があるんです。
次回は最終回としてその作品を紹介します。




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