loveandmercy

美しさと、その代償

ビーチボーイズブライアン・ウィルソンの栄光と混乱に満ちた人生を、
実際のエピソードを基にして映画化した作品。

華々しい成功を得た大小に、精神に異常をきたしていく60年代のブライアンをポール・ダノが、
長い療養生活の果てに現在の妻メリンダとの出会いをきっかけに再生していく
80年代のブライアンをジョン・キューザックが、「二人一役」スタイルで演じています。
タイトルになっている「ラブ&マーシー」とは、
復活した88年のソロ第1作『ブライアン・ウィルソン』の1曲目に収録されている曲タイトル。

実際の出来事を忠実に再現している、ある意味ドキュメンタリーなので、
映画を見て初めて知った(気付いた)ことはいくつもあります。

例えば、アルバム『ペット・サウンズ』の挑戦と『グッド・バイブレーション』の成功、
そして『スマイル』の頓挫という、60年代の出来事は有名ですが、
その後の停滞期と復活までの経緯は、実はそこまで詳しく知りませんでした。
なので、この映画がその空白を埋める、一種の歴史資料になりました。

それと、マイク・ラブ
マイクって『ペット・サウンズ』のサウンドを聴いて「こんなの犬にでも聴かせとけ!」って言い放ったり、
今でも我が物顔でビーチボーイズ名義の使用権を独占してたり(書いていてムカついてきた)、
ビーチボーイズ物語(というかブライアンの物語)では間違いなく「悪役」じゃないですか。

だけど、映画を見て、
まあ、マイクもマイクなりに考えてのことだったのかなあ」なんて思いました。
彼はリスナーがバンドに求めているもの(男女で踊れる軽快な音楽)が分かっていたからこそ、
ブライアンが『ペット・サウンズ』で飛躍していくことが「バンドの危機」に映ったのでしょう。

それまでとは打って変わり、極めて内省的で、
ときにドラッグを連想させるような歌詞を書いてきたヴァン・ダイン・パークスをクビにしたのは、
マイクが単に作詞家の座を奪われて嫉妬しただけではなかったのかもしれません。

#でも、2012年のリユニオンの後、(やっぱり)ブライアンとアルをバンドからクビにしたので、
#僕は相変わらず嫌いですが

あと、ブライアンの「弱さ」
彼は長らく臨床心理医のユージン・ランディのコントロール下にあり、
それは病気に苦しむブライアンをさらに追い詰める原因にもなっていました。

しかし、子どもの頃から暴力的な父マリーに抑圧され、
マリーをマネージャーから解雇した後も「父だから」と必死に歩み寄っていたブライアンは、
誰かに導いてもらわなければダメなタイプ」であり、たとえその人物が自分を抑圧しようとも、
自分を「愛している」と言われてしまえば(方便だとしても)従ってしまう、
生来の甘えん坊だったのかもしれないと思いました。
そして、妻メリンダさえも、ブライアンにとってはユージンに代わる新たなメンターだったのでは、とも。


…と、いろいろ書いてきましたが、
この映画の一番の見どころは、やはり「音楽」です
<神のみぞ知る>をピアノで初めて披露する場面(父にはクソミソに言われますが)や、
その後のスタジオでの、まるで科学実験室のようなレコーディング風景。
そして、<グッド・バイブレーション>の最初のリフが生まれる瞬間

『ペット・サウンズ』から『スマイル』にかけての、あの鬼気迫る名曲群が生まれる瞬間は、
たとえドラマと分かってはいても、鳥肌が立ちまくりでした。
自身もミュージシャンとして活動しているポール・ダノがブライアンを演じているのも奏功しています。

ブライアンって本当に細部から曲を作っていくんですよね。
1つの楽器の、わずか数秒のフレーズを何十テイクも繰り返し録って、
そうやって溜まった無数の曲の断片を、
彼の頭の中だけになっている完成図を頼りに、パズルのようにつなぎ合わせていく。
天才だよなあと改めて感じると同時に、そりゃ消耗するよなあとため息がもれました。
実際、音楽が完成に向かうのに合わせて、ブライアン自身はどんどんおかしくなっていきます
それはまるで、音楽が無上の美しさを手に入れていくのと引き換えに、
その代償を作曲者であるブライアンに払わせているかのように映りました。


この映画、去年の8月で公開はとっくに終わっているのですが、
なんで今さら書いたかというと、実は今年の4月にブライアンは来日し、
最後と言われる『ペット・サウンズ』の完全再現ライブを行うのです。
もちろん、僕はチケット取りました。






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