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「ありそうでなかった」という
盲点を突いたビートルズ・アイテム


 ちょっと変わったビートルズ関連アイテム。タイトルは「Rock And Roll Music」、アーティスト名にも「Chuck Berry」とあるので、一見するとビートルズとは何の関係もないアルバムに見えますが、実はこれ、ビートルズが演奏してきた「カバー曲」の、そのオリジナル版だけを集めた企画アルバムなのです。2013年の11月に発売されました。

 まず「オリジナル版を集めた」というコンセプトが素晴らしいです。これまで、「ビートルズ“を”カバーした」という企画アルバムはあっても、「ビートルズ“が”カバーした」という視点で作られたアルバムは(今考えると不思議なほど)ありませんでした。そのため、オリジナルを聞きたいと思ってもYouTubeで検索するか、あるいは、わざわざ目当ての1曲のために異なるアーティストのアルバムを買うという、「回り道」を選択するしか方法はなかったのです。

 そういった意味でこの『Rock And Roll Music』のアイデアは、「ありそうでなかった」という、まさに盲点を突いたもの。実現してくれたユニヴァーサル・ミュージックに感謝です。

 本作に収録されたのは計28曲。タイトル曲になっているチャック・ベリー<Rock And Roll Music>、<u>リトル・リチャード<Long Tall Sally>、バディ・ホリーの<Words Of Love>など、ビートルズがカバーした楽曲のオリジナルがほぼ全て収録されています。さらに、ベン・E・キングの<Stand By Me>やエディ・コクランの<Twenty Flight Rock>といった、ジョンとポールがソロになってからカバーした楽曲にも触れており、かなり網羅的な一枚になっています(<Twenty〜>はポールがジョンと初めて会った時にあいさつ代わりに弾いた曲として知られています)。

 また、ビートルズがカバーしていないにも関わらず、ビル・ヘイリーの<Rock Around The Clock>が本作のラストを締めくくっているのは、ロックンロールの原点の1曲として、リスペクトを込めて収録されているのでしょうか。蛇足という批判もあるかもしれませんが、僕はこの演出はなかなかニクイなあと思いました。

 それにしても、オリジナル楽曲“だけ”を横断的に聴いていくというのは、想像していた以上に新鮮な体験でした。好きなアーティストがどんな楽曲を好み、どんな人たちに影響を受けてきたのかについて歴史を遡っていくことは、隠れた鉱脈を探し当てるような驚きと発見があります(だから、冒頭「回り道」と書きましたが、実はけっこうそれが楽しかったりもする)。

 特にロックは、先人からの影響というものを積み重ねながら発展してきた音楽なので、ルーツを辿ることで頭の中に「物語」を作り上げていくという行為自体が、ロックの楽しみでもあります。もちろんビートルズも例外ではなく、むしろ絶対的な座標であるビートルズだからこそ、カバーしたアーティストを一堂に集め、彼らのルーツを露わにすることで、「歴史の中のビートルズ」という相対的な捉え方ができるようになる気がしました。

 同じ企画をビートルズ以外でもやって欲しいですね。ストーンズなんかカバー超多いからすごいことになりそう。

 今回、この『Rock And Roll Music』を聴いていて思ったんですけど、例えばチャック・ベリーやバディ・ホリーなんかは、ビートルズもストーンズも双方がカバーしてますが、ストーンズはさらにそこから遡ってマディ・ウォーターズやジミー・リードといった、ロック史の最初期に属するアーティストにも傾倒していったのに対し、ビートルズはどちらかといえば比較的新しいアーティストを好んでいたことが読み取れます。リトル・リチャードにしてもラリー・ウィリアムズにしても<Twist And Shout>のアイズリー・ブラザーズにしても、みんな50年代以降のアーティストばかりです。

 分かりやすく分類すれば、「原理主義的」なストーンズと「流行もの好き」なビートルズ、といったところでしょうか。実際の好みは別にしても、少なくともカバーとして残した楽曲の傾向からすれば、彼らが自分たちの音楽的資質をどう捉えていたかが見えてくるような気がして面白いですね。

 んで、最後に(ファンなのでどうしても)ビートルズを褒めて終わってしまうんですけども、やっぱりオリジナルを聴いていて思ってしまうのが、「ビートルズ、歌上手ぇ。」ということです。歌だけでなく、そもそも元の楽曲をアレンジしてしまう「消化能力」が優れていると言えばいいのかもしれませんが、例えば<Please Mr. Postman>なんかは、マーヴェレッツには申し訳ないけど、掛け合いのノリにしても「Wait A Minute〜…」の情感にしても、圧倒的にビートルズ版の方が素晴らしい。同じことを『ON AIR』でも書きましたが、オリジナルを完全に「食ってる」と感じる曲がほとんどです。<Twist And Shout>なんて、もうほとんど「ビートルズの曲」という感すらあります(その点、やはりチャック・ベリーとリトル・リチャードの御大2人のオリジナル感は圧倒的なものがあります)。

 そういう意味でこの『Rock And Roll Music』というアルバムは、先人に影響を受けた歴史の中の存在という相対的なビートルズと、クオリティという点で空前絶後な絶対的なビートルズという、相反する二つのビートルズを同時に感じられる作品と呼べるかもしれません。








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