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現代の「ええじゃないか」は
悲しいほどに不真面目


桑田佳祐が6月にリリースした新曲<ヨシ子さん>
誰も賛同してくれなさそうなので恐る恐る書くんですけど、
僕はこの曲が、ソロ、バンド含めた彼の全キャリアの中で、
ベストな楽曲だと思っています。

最初に聴いたときにまず「おおおっ」と思ったのは、イントロ。
エスニックな響きを奏でる怪しいキーボードの音は、
ロックでもポップスでもなく、強いて言えば日本の「音頭」
音頭で曲を始めちゃうなんて、
いかにも桑田佳祐らしい音楽的アメーバっぷりです。

でも、このイントロの一番の聴きどころは、
音頭のようでありながらも、陽気さや明るさがなく、
むしろ不穏な、暗い緊張感を漂わせているところです。

そもそもこの曲は、「R&Bって何だよ」と嘆く、
中年の悲哀を描いたコミックソングなのでしょうか。
それとも「ニッポンの男達よ Are You Happy?」と投げかける
よくあるメッセージソングの一つなのでしょうか。

僕は違うと思う
コミックソングもメッセージソングも、桑田佳祐の「擬態」にすぎません。
イントロの不気味さに表れているように、
この曲は本当はもっとひねくれているし、
もっとまがまがしいものをはらんでいます。

例えばこの歌詞です。
EDMたぁ何だよ、親友(Dear Friend)?
“いざ”言う時に勃たないやつかい?

この歌詞が、主人公(桑田)が本当にEDMを知らないのか、
本当は知っているのかで、意味合いはまるで違ってきます。

前者ならば、時代についていけずに恥ずかしい間違いを犯してしまった、
悲しいけれどちょっと愛嬌のある中年男性。
ところが後者ならば、分からないフリをしながらわざと間違えることで、
「流行」の虚飾を引きはがし、権威をコキ下ろそうとする策士の顔が見えてきます。
そして、桑田佳祐は間違いなく後者です。

大体、なぜあんなに得体の知れないイントロを、
シングルの、しかもA面曲に持ってくるのか。
彼はちょっと本気を出せば<いとしのエリー>や<Oh!クラウディア>のような名曲を量産できるのです。
それなのに、やらない。
期待に応えられるのに、応えない。

本当は分かってるのに、分からないフリをする。
本当はマジメにできるのに、できないフリをする。
これは、一流の意地悪にしかできない芸当です。
そして、その意地悪の動機になっているのは、怒りです。

では彼は何に対して怒っているのか。
矛先は表面上、現在の音楽業界やJ-POPに向けられているように見えます。
あえて「外した」イントロを持ってくるのもあてつけだし、
「こっち側」の人間としてディランボウイの名前が出てくるのも象徴的です。
でも、彼は決してR&BやEDMをバカにしたいわけじゃない。
本当の獲物、バカにすべき「本丸」は別にあります。

<ヨシ子さん>の意味不明っぷりは、これまでの曲よりもさらに加速しています。
だって「チキドン エロ本」なんていうコーラス、ありますか?
「上鴨そば!」なんていう合の手、ありますか?
例えば「マンピーのGスポット」にも意味はありませんでしたが、
「エロ」「ギャグ」という一種の役割はありました。
でも「上鴨そば!」にはそんな役割すらもない。
お得意の親父ギャグやダンスやらで相当口当たりをマイルドに仕上げていますが、
<ヨシ子さん>のシュールさ、意味不明っぷりは、
まるで聴く人を突き放しているようにすら思えます。

それを考えると、僕はこの曲が作られた背景として、
2014年の紅白と年越しライブでの、例の謝罪事件が頭に浮かびます。
僕はあの程度のことで謝罪する必要なんて少しもなかったと思うし、
日本で一番のロックバンドとして謝罪すべきでないとすら思っていたので、
すごく残念だったし、ああいう思想が一定の圧力を持つようになった現実に心底暗澹としました。

でも、桑田佳祐自身もあの事件で、<ピースとハイライト>のような、
マジメなポップソングでマジメに世相を揶揄することが嫌になったんじゃないかと思います。
無力感や虚無感で、「マジメ」にやることが本当にバカバカしくなったんじゃないかと思います。
ただ、いきなりバンドでその心境を露わにするのはためらわれたから、
ソロのシングルで行動に移した。
それが<ヨシ子さん>だったのです。
つまり、この曲の怒りの矛先は「日本」だったんじゃないかと思うのです。

怒りが沸騰するあまり、ひたすら享楽的で意味不明なものに走る。
僕はこの<ヨシ子さん>は現代の「ええじゃないか」なんじゃないかと思います。
参院選の後にこの曲を聴くと、このヤケクソ感はさらに強くシェアできそうな気がします。
桑田佳祐の曲で、<ヨシ子さん>ほどエモーショナルな曲を、僕は知らない。








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