9784309268064

彼らが「狂ってる」のならば
僕も一緒に狂いたい


 アナログレコードはポリ塩化ビニールでできていることから、「ビニール盤」などと呼ばれることがあります。ビニールのジャンキーとはつまり、レコードマニアのこと。この本は世界中のレコードマニアたちを著者が訪ねて取材したルポ。どの本だったか忘れちゃったけど、村上春樹のエッセイでもこの本が出てきました。

 マニアといっても、この本に出てくるのはハンパなマニアじゃありません。1枚のレコードに100万円以上ポンッと支払った猛者とかレコードを集めやすいからという理由だけでナッシュヴィルの大学に入学した人とか。ソニック・ユースのサーストン・ムーアや、R.E.M.ピーター・バックら、ミュージシャン界のヘビージャンキーたちも登場します。そして、世界中のジャンキーを訪ね歩く合間に、「9分間ウサギの悲鳴だけが録音されたレコード」や、「スーパーの棚に口内洗浄剤を並べる喜びを歌ったアルバム」なんていう、素晴らしくイッちゃってるレコードの話が挿入されます。

 中でも印象的だったのは、本書の後半に出てくる、オリビア・ニュートン・ジョンの強烈なマニアだったゾーイ。最初は単なるオリビアのファンだったのが、次第にエスカレートしていって、オリビアの名の付くものなら片っ端から手に入れなければ気が済まなくなり、「オリビア本人よりもオリビアに詳しい」と言われるほどに。やがて、ふとしたことから彼女はオリビアを追いかけることをやめるんだけど、そのときの「熱が冷めたとき、自分がおとなになったと気づいた」という言葉がやけに印象的です。

 似たような本に、北尾トロの『ニッポン超越マニア大全』があります。こっちは『ビニール・ジャンキーズ』よりもさらにニッチで、世界各国の軍隊用携帯食(戦闘糧食)だけを集める人とか、バスの降車ボタンだけを収集する人とか、なぜそれにハマるのか常人には理解できない圧倒的マニアたちが大勢登場します。


 趣味というものは、一般的には「余暇を活用して行うもの」と思われてます。つまり、仕事や本業があって初めて成り立つものであり、人生に華を添えるスパイスにはなったとしても、人生そのものにはなりえないと考えられがちです。ところが、これら2冊の本に登場する人たちは違います。趣味こそが生きがいであり、趣味こそが人生そのものなのです。

 彼らは皆、控え目に言っても「やりすぎ」です。自宅を潰してまで、家族に逃げられてまでレコードを集めてしまう(それも、残りの人生全てを使っても聴ききれない量を)なんて、到底理解できません。

 ですが、彼らはそもそも「他人に理解してもらおう」などとは露ほども考えていません。誰かに評価されることや、誰かと共有することを、まったく念頭に置いていないのです。確かに、中には仲間のレコードマニアと語り合う人や、収集したニッチなコレクションを整備して公開しようとする人もいます。でも、それは彼らが追究した結果であり、最初からそれが目的だったわけではありません。他人から白い目で見られようが非常識と思われようが、それが彼らの暴走を止めるブレーキにはなりえないのです。

 彼らのことを狂ってると思うでしょうか。それとも、彼らのことがうらやましいと思うでしょうか。

 僕は後者だなあ。もし彼らを狂ってるとするなら、僕は喜んで一緒に狂いたい。

 彼らのようなレベルとは到底比べ物にならないけれど、僕もこれまでの人生で「マニア」「オタク」と、あまりポジティブでない評価を、まあ平たく言えばバカにされたことがありました。でも、当時僕をバカにしてた連中が、30過ぎて趣味の一つも持てなくて、必死にカルチャースクールみたいの通ってたり、やることないから子供の写真と飲み会の写真ばっかりFacebookにアップしてたりするの、本当にざまあみろって思います








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