『未来国家ブータン』高野秀行

昨年末に『謎の独立国家ソマリランド』を読んで衝撃を受けて、高野秀行による同じ「異国冒険ルポ」というつながりで手に取ったのが本書。ブータンというと経済ではなく国民の「幸福度」で豊かさを測るGNH(国民総幸福)を提唱していることで有名でだけど、ブータンの幸福というのは仏教によって生活も人生の目的も規定され、「あれこれ迷わない安心感」という側面が強く、決して「自由」という意味ではない。また、GNHというアイデアが生まれた背景には、インドと中国という大国に挟まれて、いつ併合されるかわからないから「なんとかブータンのオリジナリティをひねり出さないと」という危機感もあった。…なんて地政学的歴史的なリアルを本書で知って、GNHにロマンを感じてた僕としてはしょっぱい気持ちになっちゃったんだけど、それでもなお、本書で描かれるブータンは魅力的な国に映ります。仏教にせよ、民族の伝統にせよ、その社会の中で合理性をもち、その合理性を住民も信じていて、社会が自己完結してる姿こそ「幸福」なんじゃないか。軽い読み口とは裏腹に「幸せって何なんだろう」という命題について考えさせられる、重い読後感が残る本でした。




『脱北、逃避行』野口孝行

Kindleで積ん読になってた本。著者は脱北者支援のNPOで活動をしている男性。本書の前半は、著者が中国まで赴いて脱北女性を保護し、中国公安の目を逃れながら日本への脱出を目指す、さながらサスペンス小説のような緊迫感のある逃避行劇が書かれる。…が、個人的には本書で面白かったのは前半よりも、中国の公安に捕まった著者が、看守所で拘束されていた1年間の生活が記録された後半。意気軒昂だった著者が、単調で自由のない生活の中で徐々に精神的にしんどくなっていく様子は、吉村昭的なドライな筆致もあって、読んでて辛くなります。でも、同房の中国人犯罪者達と花を育てたり、旧正月はみんなでTVで歌番組を見たり、不思議なユーモアもある。読みながら僕は、(本書のテーマとは外れるけど)中国の田舎ってこんななんだなーと想像しました。




『赦す人 −団鬼六伝−』大崎善生

団鬼六といえば言わずもがな、『花と蛇』に代表されるSM小説のパイオニア。本人もさぞかし背徳的で変態的な「陰」な人物なんじゃないかと思い込んでいたら、本書を読んで驚きました。確かに鬼六はギャンブルもお酒もすごいし女性関係だって派手なんだけど、でも決してジメジメと暗いわけではなく、むしろサービス精神が過剰で周囲に人が絶えない、徹頭徹尾「陽」の人でした。そして、SM小説というジャンルを確立したのも、崇高な何かがあったとかではなくて、「とにかく読者が楽しめればいい」という、これも一種のサービス精神によるものだった。鬼六の生き様を見てると「ああ、俺は人生をまだまだ楽しんでないんだな」なんて気持ちになります。
大崎善生は20歳の頃、夢中になって読んでいた作家でした。でも当時は小説家として。『聖の青春』を機に、まさか10年以上の時を経て、今度はノンフィクション作家として再び付き合うことになるとは。






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