『真剣師 小池重明』団鬼六

金銭を賭けた将棋で生計を立てる非プロ=アマの棋士「真剣師」。その中でも最強と言われた小池重明の評伝。先月読んだ『赦す人』から、団鬼六つながりで手に取ったんだけど、これはねー、めちゃくちゃ面白かったです。
2年連続アマ名人位を獲得したばかりか、当時将棋連盟の会長を務めていたプロの名人にも完勝してしまうという、無類の将棋の強さ。しかし、棋力とは裏腹に私生活は破滅的。金を盗んで女と逃げること5回(うち3回は人妻)。けれどすぐに生来の酒好きとギャンブル好きが祟って愛想を尽かされる。困り果てた小池を見かねた友人知人が援助の手(金)を差し伸べると、その時は涙を流して「今度こそ生まれ変わる!」というものの、舌の根も乾かないうちに借りた金で再び酒とギャンブルに溺れる…という、読んでて気持ちいいくらいのクズっぷり
将棋の才能がなければ本当にただのダメ人間ですが、しかし小池の破滅っぷりは将棋の才能の代償のようにも見えてきます。すさまじい光はその分深く濃い影を生むように。間違いなく後世にも語り継がれる不世出の天才ですが、本人にとってはあれほどの将棋の才能を持ったことが果たして幸せだったのかはわかりません。一種の寓話のような読後感を味わった一冊でした。




『ヒットの崩壊』柴那典

90年代と違い、今はミリオンセラーの曲といってもほとんどの人がタイトルすら知らない。売上と「流行ってること」がイコールではなくなり、その結果ヒット曲が見えなくなった。じゃあ「今流行ってる音楽」はどこにあるの?というのが本書のあらすじ。今起きている変化を整理して一つひとつ言語化してくれているので「なるほどー」という感じ。いい意味でサラッと読めます。
でも、なんとなく思ったんだけど、みんなが同じ曲を聴いて盛り上がったり、後でその曲を聴いて一緒に懐かしんだりという価値観そのものが今後は消えていくんじゃないかという気がします。個人的にもみんなバラバラの音楽を聴いてる状況の方が好き
本書では、人々の興味が細分化された現代においてもなお「共通体験」になりうるものもの(つまりヒット曲が生まれる基盤)として卒業式や結婚式というイベントを挙げているんだけど、僕は卒業式や結婚式のような極めて個人的なイベントだからこそ、「ヒット曲」なんかに蹂躙されたくないと思う。結婚式に<Butterfly>なんか流されたら、「私だけの大切なイベント」がたちまち他の人と交換可能なありふれたものになっちゃう気がしません?
とりあえず、ヒット曲でもなんでもないのに「これがヒット曲です」というツラをしたり、それが通用しないとなったら過去の(本物の)ヒット曲を引っ張り出して「音楽って素晴らしいですね」と臆面もなく語り始める音楽番組(大晦日のあの番組とかね)とか本当に滅びて欲しいですね




『日本人はどこから来たのか?』海部陽介

タイトルにもなっているこの謎は古典的といってもいいくらいお馴染みのもので、僕もこれまで何冊か同じテーマの本を読んだことがあります。が、その中では本書が最も面白かったです。理由は、とにかくロジカルなこと。国立博物館の博士を務める著者はこの本を書くにあたり「信頼に足る証拠(遺跡や化石)以外は参考にしない」という態度を徹底しています。数ある既存の学説や可能性を、証拠を基に一つひとつ排除していき、最後に残ったのが真実(だろう)という本書の進め方は、推理小説的な興奮があります。なかでも対馬ルートと沖縄ルートがぶつかる奄美大島の石器の話や、井出丸山遺跡(静岡県)から出土した3万7000年前の石器の中から、伊豆七島である神津島産の黒曜石が見つかった話なんかは「おおおう!」と唸りました。人類史や古代史って、一つの発見で簡単に定説が覆るから、歴史時代の研究よりもむしろ日進月歩な分野なんだなあ。
ただ、ひとつ言えるのは、渡来ルートについてはさまざまな説があるにせよ、日本人という民族の大半が大陸から渡ってきたことは明らかです。最近は在日外国人のことを悪く言う人が目立ちますが、日本列島に来たのが早いか遅いかというタイミングの違いがあるだけで、所詮は我々みんな「在日」なわけです。この極めて単純な事実にすら気づかずに聞くに堪えないヘイトをまき散らすああいうアホな輩には心底うんざりします。







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