『巨人軍の巨人 馬場正平』広尾晃

 ジャイアント馬場はプロレスラーになる前、実は巨人軍のピッチャーだったことは、どのくらい知られているのでしょうか。そんな「“ジャイアント馬場”になる前の馬場」を題材にしたノンフィクション。3月にプロレス関連本を立て続けに読みましたが、そのときはアントニオ猪木&新日系と女子プロレス系の本ばかりだったので、やはり次は全日系、つまりジャイアント馬場を読まずばなるまいと思い手に取ったのですが、いい意味で期待を裏切られました。
 というのは、馬場が巨人に入団したのは長嶋茂雄、王貞治の入団前夜(王貞治の最初の打撃練習で投手を務めたのは馬場だったそうです)。つまり、プロ野球が国民的なスポーツとして爆発的な人気を誇るようになる直前の時代になります。当時の各球団の二軍(馬場は野球選手時代のほとんどを二軍で過ごします)が一軍とは別に興業を組んで全国を廻り、しかもそれなりの人気を誇っていたこと。プロレスという文脈よりも、そうした当時のプロ野球の雰囲気が面白く、戦前のプロ野球の草創期を描いた激熱ノンフィクション『洲崎球場のポール際』を読んだ身としては、その続編のような気分で読みました。





『1964年のジャイアント馬場』柳澤健

 柳澤健のプロレス関連の著書は3月にさんざん読みましたが、なんと彼はジャイアント馬場についても本を書いていました。
 プロレスラーは「アスリートである前にエンターテイナーである」という矛盾を抱えていて、その矛盾の中でもがき続けたのがアントニオ猪木であり、その前提を逆転させてあくまでアスリートであろうとしたレスラーたちの苦闘が日本の総合格闘技の歴史であり、逆にエンターテイナーとして振り切った真の「プロレスラー」であるのが長与千種であり、そしてジャイアント馬場である…というのが僕の解釈。
 んで、僕はなにせ史上最強のキング・オブ・ガチファイトを描いた『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』から格闘技周辺に興味を持ってきた人間なので、心情的には馬場よりは猪木寄り。だからこそ本書で書かれた伝説の「木村政彦VS力道山」戦における木村政彦評(ガチファイトを望んでたくせに、いざ本当にガチファイトを仕掛けられたら日頃の不摂生がたたってボロクソに負けた)を読んで「クソーッ!」という気分になりました。
 でも同時に一連の柳澤本、とりわけ本書中盤に出てくる、1950年代から60年代前半にかけての、アメリカのプロレス界におけるプロモーターやレスラーたちによる激しい興亡記を読んでいると、プロレスラーを「プロフェッショナル」と表現することに納得できるようにもなります。観客の心理を読む洞察力とそれに応える演技力、与えられたキャラクターを演じる冷静さなど、エンターテイナーに徹することは、ある意味ではアスリートであることよりもよっぽど賢明さや忍耐力が必要かもしれません。
 本書は馬場一人の評伝というよりも、馬場の目を通して見る日米プロレスの文化の違いや歴史に主眼が置かれています。これまで読んだ柳澤健の著作もそうだったように、本書もやはり「歴史書」でした。





『歓喜の歌は響くのか』斎藤一九馬

 ジャイアント馬場の余韻のなか、なかなか異なるジャンルの本には移れず、結局次に手に取ったのもスポーツノンフィクションものでした。まったくのゼロから作られた実業団サッカーチームが、創部してからわずか3年で正月の天皇杯決勝戦に進むという、ウソみたいな本当の話。ワンマン社長と熱血コーチの2人がタッグを組んで、強引なまでに上へ上へと上り詰めていく話自体も読み応えがあったのですが、同時に時代の空気のようなものに触れられるという点でも面白い本でした。
 舞台は1970年代。Jリーグが開幕したのは今から四半世紀近くも前のことですが、この本で描かれているのはそこからさらに20年近くも昔の話。Jリーグなんか影も形もない、それこそ実業団の選手レベルなのに練習方法をみんなで本で読んで考えるなんていう時代です。しかし、結局当時の強豪チームがその後のJリーグのチームの母体になったり、主役の永大産業にしても、チーム自体は潰れたものの育った選手たちが地元山口を拠点に子供たちのサッカー指導にあたって後年Jリーガーを輩出したりと、今につながるエピソードの数々には、知られざる歴史を読み解く興奮があります。一方で、社長とコーチの強引なやり方も、今の時代だったら許されないだろうなあという部分がたくさんあって、笑える半面、70年代だからこそ起きた奇跡という風にも思えてちょっと複雑。
 柳澤健のプロレス本にしてもそうでしたが、やはり僕は「それまで知らなかった歴史を知る」ということを読書に対して激しく求めているんだなあと思いました。






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