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音がクリアで聴き取りやすい
VS 聴き取りやすけりゃいいってもんじゃない


 ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』のリリースから、今年でちょうど50年ということで、アニバーサリー・エディションが発売されました。

 同時期にレコーディングされていた<Penny Lane>などを含む、多数の未公開テイクの収録も話題になりましたが、目玉はなんといってもステレオ音源のリミックスです。過去に『Let It Be Naked…』のような例はありましたが、オリジナルのスタジオアルバムで、当時と同じカタログ、同じタイトルでビートルズの音源がリミックスされるのはこれが初めてではないでしょうか。

 リミックスを担当したのは、オリジナルのプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子であり、『Live At The Hollywood Bowl』のリマスターも担当した、ジャイルズ・マーティン

 『Mono Masters』のときにも書きましたが、ビートルズの4人は当時、ステレオ音源よりもモノラル音源の方を重視していました。ステレオのリミックスは、いわば「おまけ」のようなもの。しかし、CD時代になりステレオが主流になると、その「おまけ」で作られたステレオミックスの方が「ビートルズの音」として、長らく世界中に流通することになりました。

 今回ジャイルズが目指したのは、「当時の4人がステレオを前提にミックスしたら」という想像のもとでリミックスを施し、「次世代へ引き継ぐにふさわしいビートルズの音源」を作り直すことにありました。

 そこで今回は、かつて4人とジョージ・マーティンが、「これぞビートルズの音だ!」とこだわりぬいたモノラルミックスと、ジャイルズが「これぞ新しいビートルズだ!」と気合いを入れて作り直したステレオリミックスとを聴き比べ「どっちのビートルズが次世代に聴いてもらうに相応しいか」という観点で、全ての曲について勝敗をつけてみたいと思います

 当初はモノラルミックスではなく旧ステレオミックスと聴き比べをしようかと考えてました。同じステレオ同士で聴き比べた方が、より客観的で読みやすい比較ができると思ったからです。しかし、「何分何秒に鳴るギターの音が左から右に変わった」といった重箱の隅をつつくような話に終始しそうな予感もしました。

 であれば、50年前と現在とでそれぞれに「これぞビートルズ!」と自負している音源があるのなら、モノラルとステレオの違いなんて無視してその2つを聴き比べて「どっちが『本当のビートルズ』か?」という、思い切り主観的な観点から語った方が(僕が)楽しそうです。また、両方の音源についての物理的な違いを挙げることよりも、「どちらが好きか?」という態度を示すことの方が、「次世代のためのビートルズ音源」を目指したジャイルズと、将来、たまたまこの記事を見かけた「次世代」の誰かに対する誠意だとも思います。

 というわけで、前置きが長くなりましたが、聴き比べたのは、09年のモノラルリマスターと、今回のステレオリミックス。これを、「次世代」が音源を聴く環境に近いだろうという根拠で、スピーカーではなく、iPhoneに取り込んだものをイヤホン経由で聴きました。文中ではモノラルの方を【オリジナル】、今回の音源を【リミックス】と書きます。

 今回は、アナログ盤でいうとA面にあたる前半の7曲について書きます。
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#1 Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

 いきなり逃げ口上を打つようでアレなんですが、この曲をどう捉えるかによって勝敗は変わります。
 【オリジナル】と【リミックス】の違いは、ごく簡単に言えば前者は全ての音がギュッと塊になったような凝縮感が強く、後者は左右に広がる分、空間的立体的な聴こえ方になります。
 んで、この曲を(というかこのアルバムを)ポールが立てたコンセプトの通り「架空のバンドによるライブショー」と捉えるのであれば、どちらがより「ライブ感」「臨場感」が強いかという点で【リミックス】の勝ち。逆に、一つの独立した曲として聴くのであれば、塊になっている【オリジナル】の方が力強く迫力があります。
 んでんで、幕開けでタイトル曲でもあるこの曲をアルバムと切り離して聴くわけにはいかないし、そもそも今回のリミックス自体が『サージェント』という「企画」に紐づいたものなので、あくまでアルバムの一部=アルバムのコンセプトを重視することにします。ということで【リミックス】の勝ち。センターにいるポールと、ポールと距離をとってワイドに配置されたジョンとジョージのコーラス、そして時に後ろから聞こえてくるようにも感じる観客の歓声という、全方位に広がった声の距離感が「ライブショー」の臨場感を生んでいます。


#2 With A Little Help From My Friends

 #1からつながって始まるこの曲も引き続き設定はライブショー。ということは当然この曲も【リミックス】の勝ち…と思いきや、迷ってしまいます。確かにリンゴと3人との掛け合いだけに焦点を当てれば【リミックス】の方が格段に良いです。しかし、メインボーカルであるリンゴの味のある声には、【オリジナル】のごちゃっと重なった音の方が合ってる気がするのです
 モノラルからステレオ、そしてステレオのリミックスという流れは、基本的には音と音の境界線を明確にしていくことと同義でした。難しいのは、一つひとつの音を区別できるようになると、新たな発見がある一方で、なんというか、身もふたもない感じにもなるということです(おまけにそのさじ加減は曲によって異なる)。この曲は、はまさにそのパターン。
 #1と#2で早くも顕著になったように、【オリジナル】と【リミックス】の戦いは、「音と音の分離が良くて聴き取りやすい」(リミックス)ということと「なんでもかんでも音を分ければいいってもんじゃない」(オリジナル)ということとの戦いという様相を呈してきました。


#3 Lucy In The Sky With Diamonds

 これはもう即断です。【リミックス】の勝ち
 イントロのハモンドオルガン(ハープシコードに聞こえるけどこれハモンドオルガンらしいよ)が、一音ずつ左右にバラされてるのを聴いた時「うわーやられた!」と思いました。リミックスとはどういうことかを、このアルバムでもっともわかりやすく示しているのは、この部分かもしれません。1枚、また1枚と、何層にも音が重なっていく様子が目に見えるようで、「<Lucy〜>ってこういう曲だったんだなあ」と今更ながら発見したような気がしました。


#4 Getting Better

 これは【オリジナル】の方がいい。というよりも【リミックス】が“やりすぎ”てしまった感じ。イントロの「チャッ、チャッ…」というギターの音からして角が立ちすぎだし、全体的にハイハットの音も耳障り。ジョンとジョージのコーラスもあそこまで生々しくない方がいいと思います。
 コーラスについて言えば、ビートルズの3人の場合、声質はバラバラなのに、合わさるとひとりの人の声に(というのは言い過ぎなんですが、印象としては)聴こえるという不思議な特徴があります。しかしこれも、#2で書いたように、3人の声をバラバラに離して置いてしまうと、妙によそよそしい感じに聴こえてしまうのです(といいつつ#1のように離した方が臨場感が出る場合もあるので厄介)。


#5 Fixing A Hole

 この曲は【リミックス】の勝ちですね。
 【オリジナル】との大きな違いの一つが、ハープシコードとエレキギターとがきっちりと区別されたこと。2つの音が交互に顔を出す喜劇的な動きが見えるようになり、それが「雨漏りしてる穴を塞ごう」というユーモラスなこの曲の世界観と合っています。ポールのボーカルに対するエコーのかかり方が強い点も良い。
 ここまで聴いてきてようやく自分でも気づいたのですが、どうやら僕が聴き比べで重視しているのは「どちらの音がその曲の世界観に近いか」というポイントにあるようです。もちろん「その曲の世界観」というのは、あくまで「僕が考える」という注釈つきですが。


#6 She's Leaving Home

 これは間違いなく【オリジナル】です
 理由はポールのボーカル。【オリジナル】の方が、声が遠いのです。森の向こうからややくぐもって聴こえるような声の雰囲気が、この曲には合ってるように思います。それに比べると【リミックス】はポールの声が前面に出てきすぎてしまって、Too Muchです。
 レナード・バーンスタインをして「シューベルトやヘンデルよりも上」と言わしめたとかなんだとかいわれるほど美しいメロディをもったこの曲も、耳元で生のまま歌われると、美しいがゆえにかえって身もふたもなくなってしまう感じがします。


#7 Being For The Benefit Of Mr. Kite!

 【リミックス】の勝ち
 この曲の魅力は、夜の公園に突然現れた移動遊園地の中に迷い込んでしまったような、ユーモラスなんだけど、同時に妖しくてちょっと怖い予感を感じさせるところです。『チャーリーとチョコレート工場』のようなイメージでしょうか。ポールが毎回ライブで披露するこの曲の演出も、ちょうどそんな雰囲気でした。つまり全方位から音が鳴っているような、空間的な広がりが肝になります。空間を表現するなら、ステレオに軍配が上がるのは自明でしょう。

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次回はB面の6曲を取り上げます。








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