tumblr_or2gpa8jrZ1u198l0o1_1280

大きくなった彼らの背中を
僕は呆然と見送るだけ


 大滝詠一の長年の盟友である音楽家・井上鑑は、初めて『A Long Vacation』のデモを聴いたとき、「曲が“上等”になったな」と感じたそうです。今年6月にリリースされたCar10(カーテン)の新作アルバムを聴いて、僕の頭にパッと浮かんだのも、まさに「上等」という言葉でした。3枚目にして初めてバンド名をタイトルに冠したこの作品は、セルフタイトルに相応しい彼らの最高傑作だと断言できます

 ただし、このアルバムは、2枚目『Rush To The Funspot』(2015年)やEP『Best Space』(16年)の、単なる延長線上にはありません。このことは1曲目<くらい夜に>を聴けばすぐにわかります。

 まずは、この曲が「日本語詞」であること。これまでこのバンドには日本語の曲が圧倒的に少なかったことを思えば、プレイボタンを押すといきなり日本語詞が聴こえてくること自体が意外です。アルバム全体でみても、英語詞と半々くらいのバランスにまで、日本語詞の曲が増えています。新曲は全て日本語詞じゃないでしょうか。

 重要なのは数が増えたことではなく、日本語詞の曲の「存在感」が強くなったことです。<くらい夜に>や2曲目の<マチフェス>といった曲では、メロディへの言葉の載せ方や言葉自体の選び方が過去の日本語詞の曲とはまったく異なります。特に<マチフェス>は川田晋也の脱力ボーカルともかみ合って、相当にユニークな世界観を生んでいます。これまではCar10のことを「英語詞のバンド」と認識している人が多かったと思うのですが、今作を機に「日本語詞のバンド」にパブリックイメージが変わるんじゃないでしょうか

 そして、<くらい夜に>で日本語詞以上に驚くのは、この曲の展開です。サビに入り、これまでならギターがガツン!と鳴って全力疾走し始めるところを、この曲の場合はゆったりしたシャッフルリズムに切り替わるのです。しかも、ビーチボーイズのようなコーラス付きで。

 似たような印象を受けるのはアルバムラストの<Block Party>で、こちらは<くらい夜に>よりもさらにめまぐるしくテンポが変わります。コーラスもやはりビーチボーイズ風。これらの曲に見られる今までになかったアレンジには、完全に意表を突かれます。特にコーラスなんて、絶叫系の「ギャングコーラス」こそ彼らの代名詞だったわけですから。

 ちなみに、インタビューを読んで後で知ったのですが、川田晋也はこのアルバムの制作前に映画『ラブ・アンド・マーシー』を見て、ブライアン・ウィルソン(そしてそこからの大滝詠一)を聴きこんでいたそうです。なので「ビーチボーイズ風」と書いたのは。あながち間違いではなかったらしい。そういわれると<Block Party>の、さまざまなシークエンスをつなぎ合わせながら曲が進んでいく感じは、どことなく<Heroes And Villains>っぽいです。

 んで、話を戻して、結局これまでの作品とアルバム『Car10』は何が違うのか。日本語詞の増加と楽曲のバリエーションが広がったことの2つのポイントで書いてきましたが、それらは単なる「現象」にすぎません。それらの現象の結果として、このアルバムからトータルで受ける印象は、彼らが「大人になった」という言い方が一番しっくりきます。

 今作で最初に公開された楽曲は<マチフェス>でしたが、この曲は過去の楽曲とは明らかに次元が違っています。パンクやインディーの世界を飛び越えて、もっとメジャーでライトな層までをも捉える射程の広さを備えています。僕が冒頭に述べた「上等」という表現で指したのは、この射程の広さのことです。

 彼らがそれだけの器量をもつバンドであることは、例えば『Best Space』の<ミルクティー>などで明らかでしたし、この作品でこれまで以上に人気が広がっていったとしても、それは正当な評価だと思います。ただ、自分自身で勝手だなあと思うのですが、こうなると逆に『Rush To The Funspot』の頃の、あの青さが途端に懐かしくなってきてしまう気持ちもあるのです。一度も後ろを振り返らずに遮二無二前へと突っ込んでいくようなエネルギーが。

 成熟していくことは喜ばしいことなのに、もう二度と元には戻れないことに寂しさも覚えてしまう。そういう感覚を表現すると「大人になる」という言葉が、僕にはもっともしっくりくるのです。

 ただ、最高傑作であることは間違いありません。いつのまにか自分よりも背が高くなった少年の顔を仰ぎ見るような、そんな気持ちにさせられるアルバムです。








sassybestcatをフォローしましょう
ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

にほんブログ村 音楽ブログ CDレビューへ
にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ