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「一人きり」であることが
パーティーよりも親密さを生むこともある


 ニュージーランドのウェリントンで、ヨーロッパ系の父とインドネシア人の母のもとに生まれたアメリア・マーレイは、14歳のときに両親が離婚したことをきっかけに音楽にのめりこむようになりました。そして19歳のとき、それまで活動していたバンドが解散したのを機に宅録を開始。「Fazerdaze」という名前でソロ活動を始めました。

 17年6月にリリースされた『Morningside』は、Fazerdazeにとって初のフルアルバム。もう半年以上が経ちましたが、未だに強烈な印象が残っている作品です。今年の年間ベストを選べと言われたら、僕の中では確実にベスト3には入ります

 僕がFazerdazeを知ったきっかけは、The Courtneysでした。彼女たちと同じFlying Nun Recordsのレーベルメイトということで認識したのが初めてだったと思います。その後、本作のリードトラックとしてSound Cloudで公開された<Lucky Girl>がめちゃくちゃ良かったので、即アルバムを予約したのでした。



 ただ、いざ聴いてみたアルバム『Morningside』全体の風合いは、疾走感のあるギターポップだった<Lucky Girl>から予想していたものとは、少し違っていました。それは、タイトルの「Morningside」という言葉に込められた意味に表れています。

 Morningsideはニュージーランドのオークランド郊外の小さな町の名前で、Fazerdazeがアルバムを録り終えたのが、まさにこの町でした。この町の名前は、作品にとって記念碑的な響きをもっているのでしょう。しかし同時に彼女は、「Morning」と「Side」とに分けられるこの言葉について、「人生の暗い部分を通り抜け、向こう岸にたどり着いて、それによって強くなるということの象徴」という風にも捉えているそうです。

 ライナーノーツに書かれている彼女のこの言葉が示唆している通り、アルバムはポップなんだけど決して陽気ではなく、むしろ内省的で、どこか陰のある雰囲気に包まれています。メリハリがあってスピード感のある<Last To Sleep>も90sオルタナのような<Friends>も、さらには前述の<Lucky Girl>でさえも、このアルバムの文脈の中で聴くと、静謐な印象を受けます。

 それは歌詞にも表れていて、例えば<Take It Slow>という曲では、何かに夢中になり、囚われ、執着していた時間の終わりが歌われています。
「ずいぶん遠くへ来てしまった。どこへ向かえばいいのかわからないけど、また私たちは旅立つ」
「私たちは慎重に、ゆっくり時間をかけて進んでいく」

 僕がいいなあと思うのは、ここでは何かが終わることの不安や徒労感といったものを「乗り越えるべき障害」や「敵」といった自分の外にあるものとしてではなく、必然的なもの、あるいは人生の一部として描いていることです。そして、そこからの再生も、ドラマチックなものではなく、「慎重に」「ゆっくり」とあくまで淡々としたものです。そうした抑制された筆致に僕は知性を感じるし、共感を覚えます。

 こうした淡くて繊細なトーンは、「ながら聴き」ではキャッチできません。僕はCDが届いて初めの数回は家事をしながら流しっぱなしにしてただけだったので、実はまったくピンときませんでした。ようやくこのアルバムの真価に触れたのは、スピーカーの前に座ってじっと耳を傾けたとき、そして、電車に乗りながらイヤホンでじっくりと聴いたときでした(ちなみにこのアルバムはめちゃくちゃ音がいいので、そういう点からも「ながら」ではなくしっかり耳を傾けて聴くのがおすすめです)。

 Fazerdazeの音楽は、本に似ています。音楽は複数の人間でも楽しめるけど、本は基本的に一人しか読めません。また、「ながら聴き」はできるけど「ながら読み」はできません。本は音楽よりも、受け手に対して厳密に「一人きり」であることを要求します。しかしそのぶんだけ、本は読者との間に、マンツーマンの閉じた世界を作ることに長けています。『Moringside』も、大勢でワイワイやるパーティーで流すようなタイプの音楽ではないけど、部屋の本棚に眠る一冊の本のように、長い時間に渡って親密な関係を結べる極めてパーソナルな作品なのです。



余談ですが、このアルバムが気に入ったら、ぜひFazerdazeがSpotifyで公開しているプレイリスト「alone in ur room」も聴いてみてください。

スマパンの<1979>、The XXの<VCR>、Cat Powerの<The Greatest>などが入っているこのプレイリストは、タイトルからなんとなくイメージできるかもしれませんが、『Morningside』と同じカラーを持っています。僕が唯一お気に入りに登録しているプレイリストでもあります。

おまけ。今年10月の初来日公演にて。
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