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心にいつも「横浜」を

 スティールギタリストのJINTANAが、シンガーの一十三十一(ひとみとい)やギタリストのKashiffらとともに結成した6人組のドリームチーム的グループ、JINTANA&Emeralds。2014年にリリースされた彼らの1stアルバム『Destiny』は、ミュージックマガジンの2014年歌謡曲/J-POP部門で1位を獲得したばかりか、同誌の選ぶ2010年代の邦楽ベストアルバム部門でも7位を獲得するなど、非常に評価の高い作品です。

「ネオ・ドゥーワップ」と呼ばれる彼らの音楽は、その濃いビジュアルからもなんとなく想像つく通り、50年代のアメリカンポップスからフィル・スペクター大滝詠一までつながる、濃厚且つ涼やかなレイドバックサウンド。<Emerald Lover>なんて、イントロを聴いただけで僕はムフムフしてしまいました。買ってからだいぶ経つのですが、未だにかなりの頻度で聴き返すアルバムです。



 ただ、僕がこのアルバムをヘビロテする理由は、サウンドが好みというだけはありません。もう一つ、サウンド以上に重要な、そして個人的な理由があります。



 朝、自宅の最寄り駅から会社とは逆方向の電車に乗り込んで、1日だけの現実逃避を楽しむ―。世にいう「逆向き列車」というやつですが、僕の場合、この逆向き列車に乗って行きたい場所ベスト3に常にランクインする不動の「ザ・現実逃避な場所」が、横浜です。

 横浜というと、一般的には都心に近い観光地というような位置付けなのでしょうか。しかし、神奈川県南部で育った僕からすると、横浜は観光地というよりもまず「都会」というイメージになります。神奈川の南から都会へ向かおうとすると(だいたい東海道線です)、東京にたどり着く前にデーンと控えているのが横浜なのです。

 高いビルもあるし駅は大きい。もちろん人もたくさんいる。迷子になりそうな複雑さと規模感は、子供の頃の僕にとってはまさに「都会」のイメージそのものでした。中華街や元町といった、おそらく他の地域の人からするとザ・観光地に見えるであろう特別な景観も、僕には「都会はやっぱりいろんな場所があるんだな」と、都会であることの証明として見ていました。

 街が巨大であるがゆえの迫力や多様さ、大人の世界を垣間見るようなドキドキ感。そのようなものを最初に体験したのが、横浜だったのです。

 普通なら大人になるにつれて、かつては巨大に感じていた街も、訪れるごとに身の丈に合っていくはずですが、僕の場合は自分でお金を稼ぐようになったときにはすでに東京に出てきていたので、横浜の街をきちんと(というのも変ですが)体験しないまま今日まで来てしまいました。その中途半端さが逆に良かったのか、すっかり日常の風景になってしまった「地元・東京」に比べて、横浜は今でも僕の目には「非日常な大都会」として映っているのです(だからこそ逆向き列車の行先として魅力的なのです)。



 ここでようやく話はJINTANA & Emeraldsに戻ります。僕が彼らに惹かれる一番の理由は、彼らの音楽が、横浜を強烈にイメージさせるからなのです。

 彼らの音楽が醸し出すレイドバック感が、横浜のレトロできらびやかな様子を思い起こさせるから。もちろんそれもあります。しかしそれ以上に決め手になったのは、彼らの所属するレーベルが、Pan Pacific Playaという横浜のレーベルだったことでした。

「横浜のレーベルの音楽だから、聴いていると横浜の風景が浮かんでくる」だなんて、単純すぎるというか、ほとんど「思い込み」「気のせい」のレベルですが、浮かんでくるんだからしかたない。

 夜中に埠頭に忍び込んで眺めた対岸のみなとみらいや、元町から外人墓地へ向かう急な坂道、ビルや高速道路の間から覗くように見上げた横浜駅前の空。JINTANA & Emeraldsを聴いていると、記憶の片隅に引っかかっていた景色が次々と蘇り、胸の奥を締めつけてきます。彼らの音楽と横浜との連想が気のせいだとしても、この切なくもうっとりとしたこの感じは、紛れもなくリアルです

 所属レーベルの所在地という、音楽の本質とは関係のないはずの「周辺情報」が、作品の受け取り方を左右すること。人によってはそれを邪道と感じるのかもしれませんが、僕はむしろそういうところが面白いと肯定的に見ています。逆向き列車にはそうそう頻繁には乗れないぶん、その代わりにJINTANA & Emeraldsを聴いて、積極的に「気のせい」に身を委ねてやろうと思います。








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