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ナンセンスから神話まで

 2011年に千葉で結成された5ピース、ハラフロムヘル。名前からしてなかなか強烈ですが、サウンドの方も名前に負けず相当に個性的です。16年末にリリースされたフルアルバム『みのほど』は、ファーストアルバムに相応しく、彼らのキャラクターがこれでもかと詰め込まれた名刺代わりの1枚です。

 このアルバムについて語るために、話を3つのポイントに分けて進めます。歌詞メロディ、そして紅一点のボーカル、タテジマヨーコの声です。

 まずは歌詞から。これは読んでもらった方が早い。
横目いっぱい君の生存確認
星のマークをつけてきたんだ
うって変わってアマゾンデビュー
死んだと思った兄がいきてた映画
みたいな展開が続くのかい

<食べる人>

宝くじを買いましょう
3億円当てましょう ねえ3億円だよ?
3億円あったらどうする?

<宝くじ高い>

 特にインパクトの強い部分だけを引っ張ってきましたが、基本的にはどの曲の歌詞もこういう具合にシュールでナンセンス。「作者の言いたいことを述べなさい」という問題が出されたら、採点者も回答者もみんなが頭を抱えるでしょう。この独特な世界観が、ハラフロムヘルの個性の一つめです。

 次にメロディです。メロディは非常にドラマチックです。ヴァース、ブリッジ、コーラスと各パーツの境界線は明確で、それぞれがフックの強いメロディを持っているため、先へ先へと展開していく前進力があります。彼らの音楽が「ミュージカルのようだ」といわれる所以がここにあります。

 同時に、80年代から90年代はじめあたりのJ-POPに見られる、職業作曲家の手によるメロディのような情感もあって、僕なんかには懐かしい感じもします。玉置浩二の、日本っぽいんだけどカラッとしてる感じとか近いと思う。

 最後に、ボーカル・タテジマヨーコです。このバンドの一番の「顔」は、間違いなく彼女の声です。声量があって線が太い彼女の声は、最近のバンドの女性ボーカルでは珍しいタイプで、それゆえ非常にインパクトがあります。僕はCoccoとか安藤裕子とか、ナチュラル系SSWの系譜を継ぐボーカルだと見ているのですが、そんな彼女のオーガニックな声を手数の多いバンドの音で聴けることに、僕は「お得感」を感じます。

 んで。

 シュールな歌詞とドラマチックなメロディ、そしてタテジマヨーコの声が合わさると、結果としてどうなるのか。

 例えば前述の<宝くじ高い>のようなナンセンスな歌詞が、異様に高低差のあるメロディに乗っかり、さらにタテジマヨーコの声量で歌われると、まるで何らかの人生の真理を歌っているかのように思えてくるのです。「みんな当たり前のように口にしているが、宝くじって一体なんだ。俺は本当の宝くじを知っているんだろうか」と。

 シュールな歌詞が意味を持ち始めるということ自体がシュールで、まるで「シュールの入れ子」「メタシュール」みたいになってきて頭がおかしくなってくるのですが、一方で<パンツヒル>や<れない>といった抒情詩については、メロディとボーカルが言葉の抽象性を何倍にも増幅し、リスナーがどのようにも解釈できる余地を与えており、特に<パンツヒル>なんて、知らない国の神話かと錯覚してしまいそうなスケール感です。

 このように、メロディは物語性を、タテジマヨーコの声は説得力をもたらしているのですが、組み合わされる歌詞が抽象的でクセが強いぶん、シュールになったり神話のようなスケールになったりと、予測不能な化け方をします。自分たちの個性をそのままアウトプットするとそれぞれが化学反応を起こして、不安定でカオスになるというのは、ある種の宿業といえますが、同時にそれ自体がものすごい個性だなあとも思います。

 ただ、個性が強烈なぶん、それを余すところなく出した『みのほど』は、ある意味では最高到達点であり、このまま同じやり方で2枚目3枚目を作っても陳腐になっていく可能性を孕んでいます。ハラフロムヘルは「次の作品に向けたバンドの再構築のために制作期間をもうけること」を理由に、17年3月いっぱいでライブ活動を休止しているのですが、僕はこの判断をリスペクトするし、休止するからこそ次回作への期待も高まりました。








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