2018年はなんだか読書がはかどりません。あれこれ手を出してはちびちび読んでいるのですが、なぜか1冊読み終えられない。読書にスランプってものはあるんだろうか。そんな中で比較的読めているのは音楽関連の本、中でも「音楽史」に関する本でした。

 年明けあたりからちびちび読んでた『アメリカ音楽史 ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』は、頭がクラクラするくらい面白い本でした。

 アメリカの商業音楽の歴史を19世紀のミンストレル・ショウから現代のヒップホップまで時代を追いながら見ていくのですが、本書の特徴は、よくある人物中心史観(ロックでいえば、プレスリー、ビートルズ、ツェッペリン、ピストルズと追っていくような見方)ではなく、当時のアメリカを取り巻く世界の政治状況や技術の発達といった社会の動向全体から音楽を捉まえていく文化史的なアプローチをとっていることです

 このことにより、例えば「ブルースは黒人の哀歌である」とか「モータウンレコードは白人ウケを狙っていた」といった通説が否定され、逆に50年代後期からブリティッシュ・インベイジョン前夜の、ブリル・ビルディング・サウンドと呼ばれる職業作家たちによる若者向けポップスなど、これまであまり重視されてこなかったジャンルの歴史的な役割が照射されます。

 非常に刺激的だったのが、終章となる第11章「ヒスパニック・インベイジョン」です。過去に公民権運動や女性の自立などが叫ばれた時代に、その動きに呼応して音楽史における黒人や女性の貢献度や重要度が“上方修正”されたことを例に引き、ヒスパニック系の人口が総人口の1/4を占めるようになる2050年前後には、ラテン音楽がアメリカ音楽史に果たした役割が大きく注目を集めるだろうと説きます。そこではロックンロールすらもラテン音楽の下位ジャンルとして認識されるという予想と説得力は目からウロコでした。

 著者の大和田俊之は慶応法学部の若い教授。ネットでは本書と同様の趣旨によって書かれたエッセイやインタビューなども読めます。最近は雑誌『BRUTUS』の山下達郎Sunday Songbook特集(←これはバイブル!)でも寄稿していました。


 続いて読んだのは、ゴジラをはじめとする東宝特撮映画の音楽で有名な作曲家、伊福部昭『音楽入門』。これもめちゃくちゃ面白かった。

 これは前述の『アメリカ音楽史〜』よりもさらに扱ってる範囲が広くて、原始音楽から人類がどうやって音楽を作ってきたかという、音楽の歴史全体について書かれた本なのですが、ここでも特定の作曲家や演奏家に焦点を当てる人物中心史観は採られていません。本書が一貫しているのは「人が音楽をどのように聴いてきたか」という素朴な視点です。

 例えば最初は単なるリズムだけだったのが、徐々にメロディが生まれ、別のメロディと重ねる和声が生まれ、それと同時に最初はごく原初的な祭礼のためのものだったのが、宗教や科学と結びついて「音楽以外の何かを表現するもの」に変遷していったりします。

 それは言い換えれば、新たな美を探していく過程なのですが、芸術で唯一モチーフを必要としない=現実にある事象や感情に縛られない音楽には、もしかしたらまだこれから先も人類が出会ったことのない美的感覚が発見されるかもしれないという期待を抱かせます。

 去年亡くなった遠藤賢司(エンケンさん)もこの本を愛読してたらしいです。


 3冊目は一転して日本の歌謡界についての本。金曜深夜にBS TwellVで放送されている『ザ・カセットテープ・ミュージック』(←毎回欠かさず見てます)でMCを務める音楽評論家、スージー鈴木『1979年の歌謡曲』

 なぜ「1979年」なのかというと、70年代の歌謡曲全盛期に陰りが見えはじめ、ニューミュージックの足音がひたひたと聴こえてきた時代の転換期であるから…というのが本書の主張。阿久悠と松本隆の交代劇やサザンオールスターズの登場が音楽史に果たした役割が読み進めるうちに次々と明らかにされ、まるで歴史小説を読んでいるかのような痛快さがあります。

 1979年を「時代の転換期」とする解釈が100%客観的事実かと問われれば、それを証明できる人は誰もいないでしょう。「所詮、著者の主観じゃないか」と指摘されたらそれまでです(それゆえ「歴史”小説”を読んでいるかのような」と書きました)。でも僕は、評論という名前にひるまずに、自身が少年時代に体験したリアルタイムの衝撃や感動といった「主観」をむしろ前面に押し出してくる著者のスタイルを強く支持します。説得力のある分析や独創性のある解釈といったものだけでなく、その人個人の思い入れが込められてないと、文章や話を聴いて「この音楽を聴いてみよう」とはならないんだよなあ。

 本書とその続編にあたる『1984年の歌謡曲』は、このブログを続けるうえでの大きなヒントになった気がします。





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