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「音楽は魔法」という言葉を
たまには信じてもいいじゃないか


 スペインのマドリードを拠点とするElefant Records(エレファント・レコード)は、世界中で僕がもっとも愛するレコードレーベルの一つです。そして、エレファントの所属アーティストのうち、レーベルの精神をもっとも色濃く体現している(と僕が感じる)のが、以前紹介したThe Schoolと、今回紹介するThe Yearning(ザ・ヤーニング)です。

 The Yearningはイギリスの2人組ユニット。シンガーソングライター、プロデューサーとして活動していたジョー・ムーアが、ボーカリストのマディー・ドビーをフィーチャーする形で2011年に結成されました。当時、マディーは若干14歳でした。

 ジョー・ムーアの作る音楽は、ブリル・ビルディング勢やブライアン・ウィルソンモータウンなど、50年代終わりから60年代前半あたりの遺伝子をダイレクトに受け継いだ、王道でキラキラしたポップス。それをそのままやると単に懐古主義的で暑苦しいだけになってしまいますが、マディーがその透き通るような歌声で、普遍的な響きをもつ「現代の音楽」へと中和しています。この「レトロなんだけどアップデートされている」というバランス感が、僕が思うエレファントのイメージそのものなのです。


 そんな彼らのエッセンスが凝縮されているのが、『From Dawn Till Dusk (2011-2014)』(17年)。彼らの音源で最初にCD化されたのは、14年の1stアルバム『Dreamboat & Lemonade』なのですが、実はそれ以前にも配信限定でリリースした2枚のEPや、レーベルのコンピ盤への提供曲など、既発曲がたくさんありました。それらの初期音源をまとめてCD化したのがこの『From Dawn Till Dusk (2011-2014)』です。

 初期音源だけあって、結果的にジョー・ムーアのやりたいことがもっとも端的に表れたアルバムになっています。モロにビーチボーイズな<Why’s She Making Those Eyes At You>やフィル・スペクターとモータウンのハイブリッドのような<Don’t Call Me Baby>(タイトルからして最高です)など、一つひとつの楽曲の純度が高い。ノーランズのカバー<Gotta Pull Myself Together>も名演です。オリジナルとはまったく違う仕上がりですが、この曲を選んだ着眼点やその料理の仕方にThe Yearningの個性を強く感じます。

 彼らは2ndアルバム『Evening Souvenirs』(16年)や、現時点での最新音源であるEP『Take Me All Over The World』(18年)で、フォークやボサノヴァ、映画音楽などのジャンルを開拓しています。いわば「レトロ職人」のような独自の進化を遂げつつあるのですが、その原点は間違いなくこの1枚に詰まっているのです。


 さて、そんなThe Yearningですが、今年4月に初来日が実現しました。東名阪の3か所をめぐるツアーで、僕は最終日の東京公演に行ってきました。

 今回来日したのはジョーとマディー、そしてここ数作品のレコーディングに参加しているギタリストのマーク・キフの3人。ジョーは奥さんと3人の子供たちも連れてきていて、家族と一緒にオープニングアクトの演奏を聴いたり、ジョーが演奏しているのに途中で子供が疲れて寝ちゃったりと、ライブというよりもホームパーティのような雰囲気でした
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 子供たちが遊んでいて、僕ら観客もソファに座りながらお酒を飲んでいて、そのくつろいだ空間のなかで音楽を楽しむ。僕は何度も「ここは天国なんじゃないか」と思いました。生の演奏を聴けたのは感激だったし、特にドビーの歌声は音源以上に透明感があって素晴らしかったのですが、何よりよかったのは、会場のあの雰囲気を体験できたことかもしれません。「音楽は魔法」という言葉が陳腐ではなくリアルだと感じてしまうようなあの空間と時間こそ、The Yearningの音楽そのもののようでした。








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