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「カバーに寄せたオリジナル曲」で
最後にルーツ愛をもう一度


 先週に続いてシャネルズです。

 前回、シャネルズとラッツ&スターの違いを「ルーツへのこだわり」と書きました。そしてルーツであるドゥーワップやR&Bへの愛が爆発した作品として、1981年の『Live At "Wisky A Go Go"』を紹介しました。ただ、もしシンプルに「シャネルズとしての最高傑作は何か」と聞かれたら、僕は82年にリリースされた6th『ダンス!ダンス!ダンス!』と答えます。

 このアルバムは半分がカバー曲です。2nd『Heart & Soul』以降、スタジオアルバムは全曲オリジナルで統一していたので、久しぶりにカバーを取り入れた形です。とはいえ、オリジナルとカバーをA面、B面で区切った1st『Mr.ブラック』や、ほぼ全曲カバーといっていい『Live At "Wisky A Go Go"』とこのアルバムは大きく異なります。

 それは、カバー曲よりもむしろオリジナル曲の方に注目するとわかります。例えば2曲目の<週末ダイナマイト>。アルバムの実質的な幕開けを飾る派手なナンバーですが、この曲を流して聴いていると「あれっ?」と思うはずです。理由は、いつの間にか次の3曲目<Peppermint Twist>に移っているから。曲間が極端に短く、サウンドの感触も似ているのでじっと聴いていないと、曲が切り替わった瞬間がわからないのです。

 もっと顕著なのは、4曲目の表題曲<ダンス!ダンス!ダンス!>。この曲は明らかに5曲目の<Boogie Woogie Teenage>と、「つなげて1曲に聴こえるように」という意図をもって作られています。

<Peppermint Twist>も<Boogie Woogie Teenage>もカバー曲です(前者のオリジナルはJoey Lee & The Starliters、後者はDon Julian & The Meadowlarks)。つなげる2曲のうち片方がカバー曲ということはつまり、オリジナルの方をそのカバー曲に寄せて(合わせて)意識的に作っているということです

 このアルバムではほかにも、<Do You Wanna Dance>(オリジナルはBobby Freeman)に対する<Yeah!Yeah!Yeah!>や、<Lovers Never Say Good-bye>(オリジナルはThe Flamingos)に対する<星くずのダンス・ホール>など、1つ隣のカバー曲に寄せたと思われるオリジナル曲が見受けられます。

 オリジナルすらもカバー曲に合わせて作られている、いわば支配下にあるという点において、このアルバムは実質的には全曲カバーアルバムといえます。単にカバーするだけではなく、そのカバーに合わせて自分たちのオリジナル曲を作って組み合わせることで、カバーとオリジナルの垣根をなくす。この創造性とドラスティックさが、『Mr.ブラック』や『Live At "Wisky A Go Go"』との違いです(繰り返しますが、このような曲作りができる田代まさしと鈴木雅之のソングライティングチームはもっと評価されるべきだと思います)。



 ただ、一方で興味深いのは<ダンス!ダンス!ダンス!>の冒頭にあるコント(?)では、メンバーは明らかに黒人をパロディ化している点です。鈴木雅之らが演じる黒人のモノマネを聴く限り、彼らは決して原理主義的ではなく、盗むのはあくまで音楽だけというような割り切ったスタンスが垣間見えます。

 時系列で見ると、1つ前のアルバム『Soul Shadows』でシャネルズは「ドゥーワップの雰囲気を残しつつポップミュージックの一般性も追求する」という試みに一定の成果を上げました。<憧れのスレンダー・ガール>や<もしかしてI Love You>、<渚のスーベニール>といった楽曲は、ラッツ&スターの音楽スタイルのヒントになったはずです。

 そして、『Soul Shadows』で次のステップに進める自信を得たシャネルズが、その前にもう一度だけ原点である黒人音楽に向き合って、「過去の名曲に合わせてオリジナルを作る」という方法論で自分たちなりのリスペクトを示したのが『ダンス!ダンス!ダンス!』だったのではないか…というのが僕の想像なのです。

 このアルバムでは鈴木雅之だけでなく、田代まさし、佐藤善雄、久保木博之、桑野信義、新保清孝という、グループの全ボーカリストがリードをとる曲が収録されています。6人全員のリード曲が1枚に収録されているのはこのアルバムだけです

 特に素晴らしいのは田代まさし。<Peppermint Twist>の鼻にかかったボーカルを聴かせ、<Boogie Woogie Teenage>で後半から入ってくるところなどは、グループの誰よりも色気があります。もちろん作品全体のポイントを締めるのは鈴木雅之なのですが、他のボーカリストの活躍により、このアルバムでは彼の存在感は相対的に後ろに下がっています。この「全員参加」なところも、グループとしての総決算であることを感じさせます。









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