先月、中川右介の『角川映画1976-199』を読んだのがきっかけで、長い間読みたかったノンフィクション『映画の奈落 北陸代理戦争』(伊藤彰彦)を読みました。

 東映が1977年に製作した『北陸代理戦争』は、『仁義なき戦い』をはじめとする実録ヤクザシリーズの中の1作で、金沢で実際に繰り広げられていたヤクザ同士の抗争を題材にした映画です。他の実録ものは既に終わった事件を題材にしていたのに対し、『北陸代理戦争』は当時まさに進行していたリアルタイムの抗争をストーリーに絡めました。その結果、この映画の内容が逆に現実のほうにフィードバックされ、主役のモデルになった組長が映画と同じシチュエーションで殺されるという惨劇が起きたのです。


 映画という繋がりで手に取った本でしたが、実は読み終えて俄然興味が湧いてきたのは、「ヤクザ」という存在に対してでした(ちなみにノンフィクションとしては文句なしの面白さでした)。興味というのは「ヤクザって普段何してるの?」「どうやって暮らしてるの?」「どういう人がなるの?」といった、本当に素朴な好奇心です。

 ということで、ヤクザのことを知ろうといろいろ本を読んだのですが、その歴史についてもっとも体系的で詳しかったのが猪野賢治『やくざと日本人』。絶版だったので、わざわざ定価の数倍の値段で古書を買ったのですが、その価値はありました。

 まず、ヤクザの起源が戦国期の「かぶき者」にまで遡れるという、予想外の歴史の長さに驚き。その後、江戸時代になると「町奴」「旗本奴」といった形で、ヤクザも体制の下に組み入れられていくのですが、その人材的基盤となったのが、関ヶ原の西軍や大坂の陣の豊臣方についていた武士でした。

 戦に負けて浪人となった彼らは、なんとか次の時代での居場所を探そうと、仕官先を探したり寺社に居候したりするのですが、1635年の旗本諸法度で浪人の仕官や寺社・武家屋敷での寄宿を全面的に禁止されると、完全に前途を絶たれてしまいます。1651年の由井正雪の乱は、そうした行き場を失った浪人たちの不満が大きな背景になっていたとする本書の説はとても新鮮でした(これって常識なのかな)。


 実はこれを読みながら思い出したのが、山口組六代目組長・司忍が暴対法について語ったインタビュー(ネットで偶然目にしたことがあったのです)。司忍組長の発言の趣旨としては、「暴対法の締め付けが厳しくなり我々がいなくなると、行き場のない人間が生まれる。そうした人間は食べるために手っ取り早く犯罪に走るので、かえって治安が悪くなる」といった内容だったと思います。

 ヤクザは必要悪か絶対悪かという議論は、ヤクザをめぐる話のなかで頻繁に出てくるテーマですが、由井正雪の話を見ると、司組長の話が事実であることは歴史が証明してるんだよな〜と思いました。

 廣末登という若手の社会学者が書いた『ヤクザになる理由』『ヤクザと介護』という本があります。前者がヤクザになる人間を生む社会的環境について、後者がヤクザを辞めた人の実態について書かれた本で、この2冊を読むといわばヤクザの「入口」と「出口」を詳しく知ることができます。

 これらの本の中に、ヤクザを辞めた人が定職に就ける割合はわずか1%という驚異的な数字が出てきます。一方で、ヤクザを辞める人の多くが、そのきっかけを「家族ができたから」と答えるとも書かれています。

 子供が生まれたから真っ当に働こうと組を抜けたけど、仕事が見つからない。でもお金はいる。手元にあるのはヤクザ時代に身につけた犯罪の技術とネットワークだけ。となると、定職に就けなかった99%の元ヤクザは必然的に犯罪に手を染めます。しかも、今度は組の掟や暴対法といった縛りもないので、ヤクザ時代よりもむしろ凶悪な犯罪に手を付けやすくなる

 暴対法でヤクザを締め付けるのはいいけど、組を抜けた元ヤクザの人たちをどうフォローして社会復帰するかという「出口戦略」とセットで取り組まないと大問題になるよ…というのが著者の論ですが、これは司組長のインタビューと本質的には一致しています。

「入口」にしても、ヤクザを生む環境が、貧困や、古くは被差別部落など社会構造的な問題と関わっているのは明らかなので、「悪い人をやっつけろ」的に矮小化できる話じゃないんだよなあ…というのが何冊かヤクザ本を読んだ上での感想。そういう意味では、実録ものとか抗争ルポものとか、ヤクザをエンタメとして消化する系の本も何冊か読んではみたものの、個人的にはしっくりきませんでした。



 ただ、ヤクザをリアリズムで見ようとすると、当然ですがやはり(暴対法への疑問とかも含めて)陰惨で、1か月にわたってひたすら本を読んでたらさすがにしんどくなってきました。来月はもうちょい軽い本を読もう。




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