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一緒に年を取るという
「器」のあり方


 80年代アイドルの歌、それもデビュー曲やキャリア初期の歌を2018年の今聴きなおしてみると、あまりの「アイドル然」「女の子然」とした世界観に気恥ずかしさを覚えることがあります。そのなかにあって、薬師丸ひろ子<セーラー服と機関銃>は異質な響きをもっています。別れを予感させる歌詞とシリアスな曲調、当時17歳の瑞々しく生硬な彼女の声は、アイドルという瞬間性を真空パックした存在とは真逆の、普遍的な何かを感じさせます。

 多くのアイドルがオーディションなどを通じて、あくまで歌手としてデビューしたのに対し、薬師丸ひろ子は映画女優としてキャリアをスタートしました。歌手デビューした後もしばらくの間は、シングルは全て自身が主演する映画の主題歌でした。それらの歌に投影されるのは薬師丸ひろ子自身ではなく、彼女が演じる役であり映画の世界観でした。いってみれば、薬師丸ひろ子は歌という水を注ぐための「器」に徹していたのです

 実際、彼女自身も「歌を歌うときは、リスナーの記憶や作り手の思いをできるだけ損なわないように、なるべく当時のまま歌いたい」と語っています。歌が歌手のキャラクターとは切り離され、独立を守っているところがアイドルとしては異質であり、だからこそ、今聴いてもハッとする普遍性をもっているんだろうと思います。

 2016年に奈良の春日大社で行われた初の野外ライブを収録した『Best Songs 1981-2017〜Live in 春日大社〜』というアルバムがあります。実はこのアルバム、ライブ本編で歌われた曲順のままではなく、<セーラー服と機関銃>から、ほぼリリース順に沿って曲を並べ直して収録されています。つまり、当時を知る人は思い出をトレースできるような仕掛けになっているわけです。これは間違いなく「リスナーの記憶を大事にする」という彼女の意向なんだろうと思います。

 じゃあ肝心の歌は「当時のまま」なのか。もちろん、そんなことはありません。(多分)キーは当時と同じですが、声質はそれなりに年齢の変化を感じさせ幾分低くなった印象です。一方で、30年以上のキャリアの積み重ねによって、圧倒的に歌は上手くなっています。そして、当然ながら歌い手の変化は、歌そのものの印象も大きく変えます。それがもっとも端的に表れているのが、1stアルバム『古今集』の1曲目であり、竹内まりやのセルフカバーでも有名な<元気を出して>

 薬師丸ひろ子がまだ10代だったオリジナル版は、若い主人公が失恋した同世代の友人を励ますという、まさに歌詞の通りの、牧歌的で他愛のない「励ましソング」でした。ところが、50代半ばを迎えた現在の彼女の声には、かつてはなかった母性的な包容力や一つひとつの言葉への説得力があります。そのためこの曲は、失恋だけでなくあらゆる悲しみを射程に捉えた「人生の励ましソング」に聴こえます。


 2曲目の<探偵物語>も、オリジナルとは印象ががらりと変わった曲です。例えば2コーラス目サビ前の「昨日からはみ出した私がいる」という部分。これ、オリジナルだと少女から大人へ一歩を踏み出した心情を歌っているように聴こえますが、現在の薬師丸ひろ子が歌うと「戻れない一線を越えてしまった」という、道ならぬ恋への抗いがたい情熱を表現しているように感じるのです(それでもいやらしさをまったく感じさせない彼女の透明感がすごい)。

 以前、70歳を超えたポール・マッカートニーが歌う<Blackbird>について書いたことがあります。歌い手の変化とともに歌そのものも変化し、それまでとはまったく違う世界が見られるようになること。それはまるで、終わったと思っていた物語にまだ続きがあることを発見したような気分になります。

 そしてもう一つ、今回このライブ盤を聴いて思ったのは、歌が「年をとる」ことで、その変化のなかに聴き手は自分自身の人生の経過をも重ねあわせられるということ。<元気を出して>のなかに「人生はあなたが思うほど悪くない」というフレーズがありますが、このアルバムで聴くと、なんだか自分のこれまでの人生を肯定されたような気持ちになるんですよね。言うまでもなくこれは、現在の薬師丸ひろ子の声で、しかも僕自身も大人になった今(初めてこの曲を聴いたのは確か中学生の頃でした)聴くからこその感慨です。

 時間の経過を感じさせない「当時のまま」のパフォーマンス(たとえばマドンナのような)もいいけれど、歌い手が年齢を重ね、それに伴って歌の聴こえ方も変わり、その聴こえ方の変化のなかにリスナー自身の物語も重なること。いわば、歌手と歌とリスナーがみんなで一緒に年をとっていくこと。それはそれで、とても素敵なことじゃないかと思います。そして、それもまた「器」の一つのあり方なんじゃないかとも思います。








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