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甘いオープニングは
一気に落とすための「罠」である


 まだまだ続いてます、ZARDの話。

#第1回:ビーイングという名の「工場」
#第2回:カノン進行職人「織田哲郎」現る
#第3回:「アルバムアーティスト」としてのZARD

 前回は、ZARDの「アルバムアーティスト」という側面について書きました。今回はそのなかから5thアルバム『OH MY LOVE』を取り上げて、なぜこの作品がZARD史上最高傑作なのかについて書きます。長くなったので今回は前編です。

このアルバムについて、僕は前回、春夏秋冬の”秋”に例えました。空気は冷え、木々の葉は散り、終わりに向かってゆっくりと坂を下り始める季節のように、この『OH MY LOVE』というアルバムは前作『揺れる想い』とは打って変わり、悲しさや切なさに溢れた作品となっています

1曲目から順番に見ていきましょう。

#1 Oh my love
#2 Top Secret
#3 きっと忘れない
#4 もう少し あと少し…
#5 雨に濡れて
#6 この愛に泳ぎ疲れても
#7 I still remember
#8 If you gimme smile
#9 来年の夏も
#10 あなたに帰りたい

 #1「もう友達のエリアはみ出した」「あなたといるときの自分が一番好き」など、恋の始まりを瑞々しく歌った曲。#2は、同棲を始めたものの恋人が忙しくて一緒にいる時間が少ないことを不満に感じている女性が、思わず「昔の彼に電話」してしまうんだけど、結局最後は「やっぱりね、あなた(=今の恋人)の方がいい」と、聴いてて思わず赤面してしまうくらいにのろける曲。

 そうなのです。実は幕開けの2曲は悲しさなんて微塵も感じさせない、底抜けに甘いラブソングなのです。サウンド面で見ても、#1のイントロが清潔感のあるピアノと60年代ぽいコーラスで始まるように、聴き始めた瞬間は『揺れる想い』よりもむしろ明るい印象すら抱くほどです。実はこの2曲が、この後に襲いかかる悲劇に向けて仕掛けられた巧妙な罠だとも知らずに

 続く#3も非常にポップなナンバー。織田哲郎の手によるシングルカットもされた曲で(ただしアレンジはアルバムとシングルで微妙に異なる)、個人的にはZARD楽曲の最高傑作はこの曲だと思っています。なんてシンプルな歌詞とメロディ。

 しかしこの曲、よくよく聴くと「別れの曲」です。しかも「every day every night 泣いたりしたけど 誰にも話せなくて(中略)暮れゆく都会 あふれる人波 今にも笑顔であなたが現れそうで」などとあり、単なる失恋などではなく、恋人はもうこの世にいないことを匂わせます

 #3を単独で聴いたときはそこまで気にならないでしょう。しかし、#1、2からの流れで聴くと、#3なんて残酷な歌だろうと感じざるをえません。恋の始まりの甘酸っぱさや、恋が愛へと変わっていく模様が歌われた直後に、いきなりその恋人が死んでしまうわけですから、あまりの落差に呆然とします。というか、この落差を表現したいためにわざと#1、2にああいう曲を配置したようにも思えます。その証拠に#3以降、このアルバムはひたすら重く、苦しく、悲しみに満ちた展開を見せるからです。いよいよこのアルバムの正体が姿を現します

 #4は、ZARDでは珍しい不倫をテーマにした曲。「想い出の神戸の街」「あなたへの手紙をしたため」、その手紙の末尾に「追伸: あなたの生まれた家を見てきました」と書くなど、歌の端々から主人公の怨念めいた感情が見えてきます。『揺れる想い』にはありえなかった湿度の高さです

 続く#5は再び別れの曲。「今日で二人は他人同志だから別々に帰ろう」「雨に濡れて想い出ごと流して あなたのこと忘れられたら」と、リアルでなんとも悲しいフレーズが連発します。

 作曲は栗林誠一郎。第2回でも触れたとおりこの曲はカノン進行がベースになっているのですが、同じく栗林カノン進行である名曲<サヨナラは今もこの胸に居ます>を先取りしたような、哀切感のある楽曲です。織田哲郎のカノン進行楽曲と比べると対照的で、2人の資質の違いを端的に表しているようで面白いですね。Wikipediaによるとこの曲のドラムは青山純が叩いているらしい。そうなのか。

 ここで折り返しですが、まだまだこのダウナー系の流れは続きます。

 #6は別れの歌ではないものの、非常にしんどい恋愛の歌。「傷ついてもいい、愛したい」「もうひき返せないふたつの足跡」「失くすものなんて 思う程ないから」などと、明確には歌われていないもののこの曲も#4と同じく不倫を歌っているようにも読み取れます。曲調がシリアスなのこともあって、ZARDのシングルのなかでは1、2を争うくらい重たい曲なんじゃないでしょうか。

 #7は三たび別れの曲。ピアノをメインにしたアコースティックなアレンジでパッと見、温かな印象を受けますが、「無言で切った電話に私だと気付くわ そう願いをかけてあなたの連絡どこかで待ってた」「今頃あなたの横には私よりやさしい彼女がいると想像が先走る」「出合って2年の月日は長くて短かった 終わってしまえば花火のようね」など、実はこのアルバムのなかでもっともウジウジしている曲です。タイトルも、なんともストレート。

 続く#8で、ついに少しだけ光が射します。「なんてちっぽけな夢だったの 恋なんて季節のボーダーライン」「しがらみ捨てて明日を探そう」「恋はルーレット 巡りめぐる 気のいい家族が恋しい」と、別れの悲しさを乗り越えて前へ進もうとする姿が歌われます。

 さて、ここまで8曲分を見てきました。#1、2でバラ色の未来を想像させておいて#3で地獄に叩き落とし、そこから延々と辛く悲しい曲が続き、ようやく#8で道が開けたかも?というのがここまでの流れでした。残すところあと2曲#8の勢いで、再び#1、2のような明るい未来が訪れるのでしょうか。

 残念ながらそんなことはありません。むしろこのアルバムの真骨頂はここから。これまでの8曲は、最後の2曲に向けての伏線でしかなかったのです。

(後編へ続く)







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