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華やかなスポットライトを
浴び続けられなくても


 以前、作曲家エリー・グリニッチが夫のジェフ・バリーと共に結成したコーラスグループ、レインドロップスについて取り上げたことがあります。レインドロップスのレコードはエリーとジェフの多重録音によって作られており、もう一人のメンバーであるエリーの妹ローラは、レコーディングには関わっていませんでした。ローラはコンサートや撮影など、グループとして露出するときにだけ参加する、いわば「形だけのメンバー」という存在だった・・・という話まではふれました。

 実は、このローラには「影武者」がいました。そもそもローラ自身が影武者みたいな存在なのに、さらにそこに影武者がいたなんてややこしすぎるのですが、長いツアーなどを回る際はこの影武者がローラとして帯同したそうです(ちなみにジェフにも影武者がいる)。

 ただし、この「影武者」はローラと違い、歌が歌えました。なぜなら本物の歌手だったから。この「影武者」が、今回取り上げるビヴァリー・ウォーレンです。

 ビヴァリーは1962年、ブレントウッズというコーラスグループのメンバーとして活動するところからキャリアをスタートさせます。当時14歳でした。やがてブレントウッズが解散すると、今度はリッキー&ホールマークスというグループの一員になります。

 リッキー&ホールマークスはBell Records傘下のAmy Recordsから1枚だけシングルをリリースするのですが、大して売れずにグループは解散。しかしこのときにエリー・グリニッチと知り合ったビヴァリーは、彼女の作った<It Was Me Yesterday>でUnited Artistsからソロ歌手としてデビューします。ちなみに僕が最初にビヴァリーを知ったのは、エリーのコンピに入っていたこの曲でした。



 結局、このシングルも大して売れなかったのですが、このときのエリーとの縁が、レインドロップスの「影武者」としての活動につながっていきます。その後、65年にはゴフィン&キングスキーター・デイヴィスに作った<Let Me Get Close To You>をカバーしてLaurie Records傘下のRustからリリースするのですが、こちらも大して売れなかったもよう。



 72年には(この時点でまだ20代前半)、<It Hurts To Be Sixteen(なみだの16歳)>で知られるアンドレア・キャロルとB.T. Puppy Recordsから『Side By Side』というタイトルのスプリットLPを出します。A面がアンドレアでB面がビヴァリー。ここではシフォンズが63年にNo.1ヒットをさせた<He’s So Fine>を、本家シフォンズをコーラスに迎えてカバーしたりしています。

 ちなみに、このアルバムのリリース元であるB.T. Puppy Recordsは<ライオンは寝ている>で有名なトーケンズが設立したレーベルで、ビヴァリーが吹き込んだ<A Few Casual Words>と<Papa Bill Is Home>を作曲したポール・カハンはトーケンズの楽曲を手掛ける作曲家。この頃のビヴァリーはトーケンズの周辺で仕事をしていたようです(ちなみにアンドレアの<It Hurts To Be Sixteen>を作ったのはトーケンズのオリジナルメンバーであるニール・セダカ)。

 その後、ビヴァリーはカントリーバンド、ヴィンス・ヴァンス&ヴァリアンツやリッキー&ホールマークスの元メンバーが作ったブレンドエアーズ、ドゥーワップグループのティーンコーズといったグループを渡り歩きながらキャリアを重ねていきます。還暦を迎えても現役バリバリで、08年時点ではNYのターセルズというコーラスグループで活動していたそうです。

※2011年の映像


 さて、ここまで延々と、ビヴァリー・ウォーレンという一人の女性歌手のキャリアを紹介してきました。彼女はお世辞にも有名とはいえません。むしろ「ど」がつくほどマイナーなアーティストです。けれど10代の前半からずっと、途切れることなくアメリカの音楽業界のなかで生きてきました

 彼女のキャリアの特徴は、グループの一員として出てきて、途中ソロ歌手として活動をするも、再びグループの一員に戻っていくところです。このときに、自分がリーダーとなるのではなく、既存のグループに途中から加わり、「お手伝いさん」の位置に甘んじ続けるのは、何かを悟って諦めた結果なのか、それとも本心では忸怩たるものがあったのか。いずれにせよ、長いバックコーラス稼業を経てソロになり、世界的なヒット映画『ホーム・アローン2』の主題歌を歌ったり、さらには自身をモデルにした映画が作られたりするダーレン・ラブとはまったく異なります。

 ビヴァリーの50年以上に及ぶキャリアは傍目には低空飛行に映るかもしれません。でもね、僕は声を大にしていいたいんだけど、彼女は素晴らしい歌手です。前述のようにエリー・グリニッチのコンピに入っていた<It Was Me Yesterday>で初めて聴いたんだけど、あまりの声の良さに一瞬時が止まったような気さえしました。

 そこから夢中で彼女の情報を追い求めて、なんとか入手できたのが、2008年にリリースされた彼女の唯一のアルバムであり、キャリアのほぼすべてを網羅したベスト盤『The Secret’s Out』。私、手違いでこれ2枚持ってます。日本はおろか、世界中を探してもこのアルバムを2枚所有している人ってレーベルと本人以外他にいないんじゃないか

 さっき「低空飛行」と書いたけど、音楽業界には華やかなスポットライトが当たり続ける人だけじゃなく、彼女のような存在もたくさんいるんですよね。でもそれってよく考えてみたら現実も一緒で、「100点の人生」を夢見ても、ほとんどの人が「62点」とか「45点」しか取れず、その中途半端な点数と自分の満足感とを折り合い付けながら生きているはずです。

 そう考えると、彼女のキャリアの重ね方っていうのは、大スターの華やかな経歴よりもかえってシンパシーが湧く気がします。そして、淡々とキャリアを積んで確かな実力があれば、いつかこういう形(ベストアルバム)でギフトがもらえるってところも、なんか勇気をもらえます。








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