
「口当たりの良さ」にこそ
彼らの歴史が表れている
今年2月、ザ・キングトーンズのリーダーでありメインボーカルの内田正人が亡くなりました。82歳でした。
キングトーンズといえば<グッドナイト・ベイビー>ですが、僕にとって<グッドナイト・ベイビー>というと真っ先に思い出すのは第三舞台の『朝日のような夕日をつれて』です。あの作品の序盤で、第5のキャラクター「少年」が登場するときに流れるのが、この曲でした。
派手な衣装を着た役者が振付つきで歌うという演出のインパクトもあって、僕はこの曲のことを長らくムード歌謡の一つとしか見ていませんでした。グループとしてのキングトーンズ、そして彼らのキャリアのなかでの<グッドナイト・ベイビー>というものを自分なりに解釈できるようになるのは、ドゥーワップを聴くようになってからのことでした。
日本では現代にいたるまで、海外で最新の音楽スタイルが生まれると、耳の早いアーティストやミュージシャンが輸入してきて、カバーしたり自作曲に取り入れたりしながら、あの手この手で日本のマーケットに浸透させる、というパターンがあります。ドゥーワップに関しては、間違いなくキングトーンズがその「輸入業者」の代表格でした。
結成は1960年(母体となるグループは58年)。内田正人は「プラターズの<Only You>をカバーしたい」という動機でグループを作ったと語っていますが、<Only You>のリリースって1955年なので、当時の情報伝達速度を考えると、かなり早いリアクションだったのではないでしょうか。
今聴くと「<グッドナイト・ベイビー>のどこがドゥーワップ?」と感じるかもしれません。しかし50年も前に、本場のフィーリングをそのまま持ってきて受け入れてくれるリスナーが、果たしてどれだけいたかは疑問です。あくまで演歌や歌謡曲をベースにしつつ、ファルセットやコーラスといったエッセンスをまぶしながら、徐々にリスナーを啓蒙し、開拓していくしかなかったわけで、<グッドナイト・ベイビー>のもつ昭和歌謡とドゥーワップが混じりあったような不思議な味わいには、そんなパイオニアの苦闘が表れています。(実際、彼らのレコードデビューが69年にまでずれこんだのは、歌謡曲化してしまうことを躊躇したからといわれています)
シングル<グッドナイト・ベイビー>のB面は<捨てられた仔犬のように>という曲なんですが、メンバーの加生スミオが書いただけあって、グループの個性をそのまま出したような黒っぽい曲になっています。A面の取っつきやすさとB面の個性というメリハリもまた、彼らなりの折り合いの付け方のように見えます。
そんなキングトーンズの代表的なアルバムといえば、なんといっても81年の『Doo-Wop! STATION』なのですが、僕はあえて『Soul Mates』(95年)を選びたい。グループ結成35年周年の記念盤で、高野寛や大沢誉志幸、上田正樹、佐野元春といった多彩な作家が曲を提供しています。
スタンダードナンバーを中心に選曲された、ドゥーワップグループの面目躍如ともいうべき『Doo-Wop! STATION』に比べると、作家陣書き下ろしの新曲が中心の『Soul Mates』は、よりレンジの広い「ポップスアルバム」といった仕上がりです。けれど、この口当たりの良さと消化力の高さにこそ、キングトーンズというグループの歴史が表れているように思うのです。
白眉はなんといっても、1曲目に収録された、作曲山下達郎、作詞伊藤銀次の<Down Town>。僕はシュガーベイブ版しか知らなかったのですが、実は元々、75年前後に山下・伊藤コンビがキングトーンズの15周年記念盤への提供曲として作った曲だったのです(紆余曲折を経て当時はお蔵入り)。20年の時間を経て、本来歌うはずだったキングトーンズの元へ曲が帰ってきたことになります。
キングトーンズ版の<Down Town>は見つからなかったので、カバーを2曲貼ります。なんてすばらしい歌声。
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