渋谷の城」に引き続き、
今回も意外な場所に隠れた歴史の痕跡を訪ねてきました。

ただし、今回は前回よりもさらにシュールです。
今回訪ねたのは、「千駄ヶ谷の富士山」。

…「はぁ?!」という感じですよね。。
千駄ヶ谷になぜ「富士山」?
だいぶ衝撃的な組み合わせですが、百聞は一見に如かず。
行ってきました。


「千駄の萱野」に立つ八幡さま

問題の「富士山」があるのはここ。

大きな地図で見る

JRの千駄ヶ谷、東京メトロ副都心線の北参道から歩いて5〜6分、
瀟洒な住宅街の中に、石造りの鳥居が忽然と姿を現しました。
ここが目的の「鳩森八幡宮(はとのもりはちまんぐう)」です。
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前回、金王八幡宮や渋谷氷川神社を訪れた時も感じましたが、
都心の神社というのは、驚くほど「しれっ」という具合に、
街の中に溶け込んでいます。

鳩森八幡宮は、神亀年間(724〜729年)の草創と伝えられる、
つまり奈良時代にまで歴史が遡るという、めちゃくちゃ古い神社です。
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「鳩森」という名前の由来について、『江戸名所図会』によれば、
「この地に瑞雲現じ 白気降り 白鳩数多西をさして飛びされり その霊瑞を称し鳩の森という」
とあります。
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※『江戸名所図会』では「千駄ヶ谷八幡宮」という名前で紹介されています

ちなみに、前回登場した「渋谷金王丸」も、
この神社に祈願したことがあるそう。

「千駄ヶ谷」という地名は、
この辺り一帯がかつて一面の萱(かや)の野で、
「1日に千駄(馬1000頭分)の萱を産出する」と言われたところからきています。
今では想像もつきませんが、
大昔は萱ばっかりのだだっ広い土地で、
その中にポツンとこの八幡さまがあったのかもしれませんね。

で、肝心の「富士山」はというと・・・
ありました。
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これです。
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これが「千駄ヶ谷の富士山」です。


江戸人が作った「インスタント富士山」

江戸時代、「富士講」(ふじこう)という民間信仰が大流行しました。
富士講とは、簡単に言えば、
富士山に登り、山に宿る神様にお詣りすることで、
そのパワーをいただこう、御利益を得ようとするものです。
伊勢神宮にお参りする「お伊勢参り」も江戸時代にブームになりましたが、
その富士山版、というようなイメージでしょうか。
信者たちは、仲間同士で組織(講)を作って富士山にお参りしていたことから、
「富士講」と呼ばれています。

日本人は昔から、大きな岩や巨木といった自然物には神様が宿ると考えてきましたが、
特に「山」は、神様が好んで鎮座するものとして見られてきました。
山岳信仰は、
浅間神社(浅間山)や御嶽神社(御嶽山)として、全国あちこちに伝えられています。
中でも日本一の山である富士山は、山岳信仰の大本命。
そのご利益たるやハンパじゃない、と考えられていたのでしょう。

けれど、高さ3000mもの富士山を、気軽に登ることはできません。
当時は「5合目まで車で行く」なんてことはできませんし、
そもそも富士山は当時、男性しか入山できない女人禁制の地だったため、
女性は全く登ることができませんでした。

で、どうしたか。
江戸の人たちは、町中に「富士山のレプリカ」を作って、
そこに登ればいいんじゃないか、と考えたのです。
「…そんなインスタントでいいの?」と思わず突っ込みたくなるような、
なんとも逞しい発想です。

このような経緯から、
江戸の町中に大小さまざまな人工の富士山、
「富士塚」が造営されました。
中でも鳩森八幡宮の富士塚は最古の部類に入るもので、
「江戸八富士」(←そんなものがあるのか!)の一つにも数えられています。
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※上掲の『江戸名所図会』の絵にも、よくみると「富士」が描かれています

というわけで、僕も早速登ってみることにしました。
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「登山道」はかなりハード!
階段状になっているのは最初のうちだけで、
後半は岩と岩の間に足を挟み込んで、
両手も使いながらよじ登る感じ。
見た目が可愛いからといってナメてかかったら、
わりとそこそこの「登山」でした。

「標高6mの富士山」、その頂上からの風景です。
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人工の山に登ってご利益を得よう、なんていう考え方は、
現代の感覚からすればいかにも「ユルッ!」なのですが、
実際に登ってみると、これはこれで、
けっこう非日常感が味わえました。

都市に住んでいる身からすれば、
わずか5〜6mの岩と土の塊でも、
十分「山」になりえるんですね。

はじめはちょっとナメてた富士塚ですが、
いざ自分の身で体験してみると、
むしろ江戸の人たちの、
ミもフタもなく楽しんでしまう貪欲さに頭が下がる思いでした。




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