過渡期があぶりだした
彼らだけの「ダサかっこよさ」
米ロックバンド、ストロークスの新アルバム
『Comedown Machine』が3月にリリースされました。
ストロークスがデビューアルバム『Is This It?』(2000年)と、続く2枚目『Room On Fire』(03年)で、
アメリカのみならず世界のロックシーンの趨勢を、
「メロコア、ミクスチャー、でなければアンビエント」から
一気に古典的ギターロックに切り替えてしまったのは、もう10年以上前のこと。
その後、2000年代を通じて数々のフォロワーバンドが現れる中で、
ストロークス自身は3枚目『First Impression of Earth』(06年)で
それまで築き上げてきた音楽性を大きく脱皮しようとする、変化の兆しを見せました。
ところが、5年という長い期間を経て制作された4枚目『Angles』(11年)では、その変化はまだ結実せず、
それどころか、過渡期の混乱をそのまま露呈するような作品になってしまいました。
そして、5枚目となる今回の『Comedown Machine』。
不調に終わった前作の汚名をそそぎたいという意志の表れなのか、
わずか2年という(このバンドにしては)短い制作期間を経ての新作リリースとなりました。
で、結果はどうだったのか。
結論としては、前作『Angles』よりも、着実に変化は形になってきています。
前作が、新たなタイプの曲と古いタイプの曲とが混在し、
どこを目指しているのかわからない作品になってしまったことと比べれば、
今作は、進化の目的地をしっかりと見据え、そこに向かって足を運んでいるような、
力のある前進感があります。
ただ、前進しているといっても、それはあくまで「前作に比べて」という上でのこと。
着陸地点は見えてはいるものの、まだ彼らは放物線を描いている途中のようです。
曲の強度も、『Angles』に比べれば格段に復活していますが、
最盛期の彼らのクリエイティビティからすれば、まだまだ足りません。
スケッチ段階のものを強引にパッケージしようとして、手数だけを増やしている。
そんな粗さが全体的に目立ちます。
唯一、曲として十分なフックを持つ2曲目<All The Time>が、
アルバムの中でただ1曲だけ「以前のストロークス」であることがなんともアイロニカルです。
この曲をリードトラックにしているところから予想するに、
多分、アルバムとしての完成度を少しでも補強しようとして、
「着実に点を稼げる」<All The Time>を収録したんだと思いますが、
僕としては、アルバムの完成度を捨ててでも、
<One Way Trigger>や<Welcome To Japan>のような、
「どうしちゃったのストロークス?!」と突っ込みたくなる曲を増やしてほしかったですね。
今作を聴いていてとても興味深かったのは、
過渡期にあることで、
逆に、「ストロークスの根っこ」とも言うべき、
彼らの不変のオリジナリティがあぶり出されたことです。
それは、何なのか。
多分、普通に言うなら「ポップネス」という言葉になるのでしょうが、
僕としてはあえて「ダサかっこよさ」と呼びたいと思います。
「一見ダサい。なのに、かっこよく思える」
前述の<One Way Trigger>の「Take On Me」(a-ha)みたいなリフとか、
<Tap Out>のクインシー・ジョーンズみたいなイントロとか、
時代錯誤感が満載なのに、僕にはなぜかそれがかっこよく感じられます。
ああいう打ち込みっぽい感じはかつてのストロークスには全く見られなかったのに、
むしろそこを聴いて「ああ、ストロークスだなあ」と感じてしまう、不思議な矛盾。
でも、よくよく思い返してみれば、
<Take It Or Leave It>や<12:51>、<The End Has No End>など、
それまでだったら「ダサい」「古い」と思われたかもしれないメロディやギターリフを、
オセロゲームのように一気に「かっこいいもの」に反転させてきたのがストロークスでした。
別のバンドなら「ダサい」へ踏み外してしまうであろうラインを、
彼らは軽々と踏み越えて、それを「今の音」にしてしまう。
ギターロックから大きく変化を遂げようとしている今もなお、
彼らの抜群のセンスは健在なんだと感じます。
僕らの慣れ親しんだストロークスはもう姿を消してしまった。
でも、ストロークスの「魂なるもの」は消えていない。
そこが今作を聴いての一番の感動でした。
こちらが「いわゆるストロークス」の<All The Time>
そしてこっちが<One Way Trigger>
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