週刊「歴史とロック」

歴史と音楽、たまに本やランニングのことなど。

チバユウスケ

THE BIRTHDAY 『STAR BLOWS』

star blows





はるか彼方の夜空で一人
輝き続ける星のように


前作『NIGHT ON FOOL』からおよそ1年半ぶり、
先月リリースされたバースデイの新作『STAR BLOWS』は彼らの通算4枚目のアルバムにあたる。

相変わらずのかっこよさ。この高値安定感は職人のようである。
そして、作品を追うごとにぜい肉が削ぎ落とされ、汗に濡れた筋肉だけが浮かび上がってくるようなピュアネス。
バースデイは今もっとも信頼のおけるロックバンドだと僕は思う。
なんだか自然と文章も短く言い切る感じになってくる。

今回の『STAR BLOWS』は重い。
まるで洋物タバコを吸ったときのような、濃厚で重い感触のアルバムである。
1曲目<FREE STONE>は7分22秒、2曲目<風と麦とyeah!yeah!>が8分30秒と、
冒頭いきなり7分超えの曲が連続する。
このドロッとした幕開けからして、一瞬ひるむほどの重量感だ。

中盤になると、この重さに熱が加わり始める。
4曲目<BABY 507>や5曲目<GILDA>などのアッパーチューンは、
腕ずくで引っ張られ、加速させられる感じだ。
序盤で抑圧されていた分、力が一気に解放されて、なんだか叫びだしたいような凶暴な気分になってくる。
溢れ、ねじれ、突き上げられるこの恍惚とした暴力性は、まさしくロックそのものといった感じがする。

しかしラストまでこのまま行くかというと、そうではない。
終盤11曲目に配された<愛でぬりつぶせ>が、冬空に吐き出した呼気が一瞬で氷の粒に変わるように、
それまでの重苦しさや荒々しさを透明な涙へと鮮やかに変える。
前作『NIGHT ON FOOL』における<涙がこぼれそう>と同じように、
この<愛でぬりつぶせ>という名曲はアルバムのスイッチポイントとして、
作品全体を然るべきカタルシスへと導く役割を果たしている。
そしてラスト12曲目、11分という大作<SUPER SUNSHINE>で本作『STAR BLOWS』は幕を下ろす。

今回はえらく長尺の曲が多いなあと思って全体の収録時間を調べてみたら、なんと75分もあった。
重さ」はバースデイというバンドを語るうえで欠かせないキーワードではあるが、
それにしても今作は質量ともに圧倒的に重い。
その点では、聴くシチュエーションを選ぶアルバムではあるだろう。
とてもじゃないけど僕には、出勤中や散歩中に聴ける自信はない。
自分の部屋で一人きりで、あるいは喫茶店の隅の席でイヤホンをして、
そのような状況でなければこのアルバムの持つ感情は抱えられないように思う。

チバユウスケの歌には切迫感がある。
だが、聴く者を孤独に追い込むような切迫感は、ミッシェル時代にはあまり見られなかったものだと思う。
バースデイでのチバの歌を聴いていると、
まるで無人の星で真空に身をさらしながらたった一人で立っているような感覚に陥る。
凶暴な気分になりながらも、肌はやけに寒い。
だけど、全身に熱いシャワーを浴びるようなミッシェルの曲よりも、
今の僕はバースデイの寒々とした曲の方がしっくりくる。
もっともっと、重いアルバムを作って欲しいと思う。








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THE BIRTHDAY 『NIGHT ON FOOL』

night on fool



結晶のようなサウンドが鳴らす
悲しくも美しい現代ロックの名盤


これぞロックだ!と教えてくれる、問答無用の名盤。
日本のロックバンド、バースデイが2008年にリリースしたサードアルバム。

バンドの中心はギター/ボーカルのチバユウスケ。
言わずと知れた、あのミッシェル・ガン・エレファントのフロントマンだ。

ミッシェルがデビューしたのは1996年。
彼らはタイトスーツとロンドン・パンク直系のハードサウンドを武器に、
ロックという言葉が「ビジュアル系」という意味に取って代わられていた暗黒の時代に巨大な風穴を開けた。

僕は当時高校生だった。
ちょっとセンスのいいバンド少年たちはみんなミッシェルをコピーしていたのを覚えている。
そんな日本のロック史に名を刻むチバユウスケが、ミッシェル解散後3年の時を経て、
2006年に結成したのがこのバースデイだ。

まるで兵器のような破壊力をもつアルバムである。
ギターとベースとドラム以外、何一つ余計なもののない研ぎ澄まされた音。
そして、死んでしまうのではないか?というくらいに、狂おしく叫ぶチバのボーカル。
「骨身を削る」という言葉は、まさに彼のために用意された表現だ。
限界まで蒸留されたウィスキーの一滴のような、混じりけのない強さと濃さは、
ミッシェルを軽く凌駕しているように思える。

チバユウスケのパーソナリティが非常に強烈なので、
どうしてもミッシェルと比較する文脈でこのバースデイを捉えてしまうのだが、
言わずもがな、まるで違うバンドである。
その違いを端的に言えば、ブルージーかどうかだ。
ミッシェルは非常にソリッドな、乾いた音を鳴らしていたのに対して、
バースデイはブルース・ロックにより深く根差しており、
強靭さのなかにも濡れた叙情性を持ったサウンドが特徴だ。

前述のチバの圧倒的なボーカルもさることながら、
彼の詞における言葉遣いは、かつてよりもさらに磨きがかかったような気がする。
英語を使わず、純粋日本語だけで歌詞を書くソングライターは数多いるが、
その “なんでもない”日本語が、熱を帯びて“なにかある”言葉へと変貌させてしまう才能は驚異的だ。

言葉を音に分解し、メロディと不可分のものとして再構築することで、
固有のグルーヴを生み出す手法の代表が桑田佳祐や、以前本稿で紹介したミドリの後藤まりこだとしたら、
言葉をあくまでセンテンスとして繋げつつも、
意味の重なりをある種の虚無感や恍惚感へと飛び越えさせる手法の代表は、浅井健一やチバユウスケだろう。

この『NIGHT ON FOOL』は全12曲。
インストを挟んだりするような演出や装飾は一切なし。
背後に広大な奥行きを予感させる、まさに幕開けに相応しい1曲目<あの娘のスーツケース>から始まり、
平熱が微熱に、微熱が高熱に、じわじわと熱量は上がり続ける。
メンバーが徐々に汗ばんでいくのがわかるようだ。

ハイライトは11曲目、シングルカットもされた<涙がこぼれそう>。
ギリギリまで上昇した高熱を涙に変えてしまう、悲しく美しい名曲である。


<涙がこぼれそう>PV








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