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荒れ狂う音の中に
祈れる旅人の姿を見る


ブラッドサースティ・ブッチャーズ(以下ブッチャーズ)のボーカル/ギター、
吉村秀樹が急性心不全で亡くなりました。
46歳という若さでした。

ブッチャーズは1987年に札幌で結成されました。
ハードで、ノイジーで、パンクで、
でもすごくメロディアスで、深い内的世界をもつブッチャーズ。
ジャンル分けをすることが困難な、
オリジナリティの溢れるこの孤高のバンドは、
結成以来26年間にわたって、コアなロックファンの間で、
ほとんど神格化といってもいいくらいに深く愛されてきました。

僕自身も、高校時代に初めてブッチャーズを聴いた時には、
強烈なインパクトを受けたのを覚えています。
突き刺さるようなギターの音。
重く垂れこめながらも、どこか浮遊感のあるベース。
攻撃的なリズムを止めないドラム。
ブッチャーズのロックは、
まるで音という名の嵐のようでした。

けれど、ブッチャーズのロックの魅力は、
そうした激しさではありません。
一見すると狂暴なのに、耳を傾けていると、
気持ちはむしろ湖の水面のように静まり返っていきます。
それは、吉村秀樹の書く歌詞の力が大きいように思います。

吉村秀樹は本当に独特なボキャブラリィを持っている人で、
いくつもの印象的なフレーズから構成される歌詞は、
独立した一篇の叙事詩のようです。
煽ったり、具体的なメッセージを述べたりするわけではないのに、
その詩には強い意志の力が込められていて、
それが吉村自身の伸びやかな声で歌われると、
ロックというよりは、まるで読経やコーランを聴いているかのような、
意味というものを超えた深いカタルシスを感じるのです。

改めて聴きなおしていますが、
ブッチャーズの音楽を説明するには、
「ブッチャーズ的な」というような言葉を使うしかないくらい、
圧倒的にオリジナルです。
そして、どうしようもないくらいかっこいい。
世間的にはどちらかというとマイナーなバンドになるのでしょうが、
間違いなく、日本のロックの至宝だと思います。

『NO ALBUM 無題』は2010年にリリースされた、
現時点での最新のオリジナルアルバムです。

ブッチャーズは、2003年に元ナンバーガールの田渕ひさ子が加わりました。
吉村、射守矢(Ba)、小松(Dr)という鉄壁の3人に、
田渕の、脳髄をえぐるような恍惚としたギター音が加わったことで、
以前よりもさらに音が複雑かつ分厚くなりました。
本作『NO ALBUM 無題』は、
音の広がりといい、曲のポップさといい、
現4人編成の到達点を示す作品だと思います。

アルバムの冒頭を飾る<フランジングサン>には、
こんな歌詞があります。

情け深い 情緒パズル
言い訳紛いは崩れ身砂を掴む
この想い 焦がしてくれ
逃げたくないんだ SO フランジングサン


僕はこの詩の中に、
果てのない旅に出た殉教者の孤独さと、
その彼が天に向かって祈りをささげているような神々しさを感じます。
今この曲を聴くと、その旅人の姿が、吉村秀樹と重なります。

ネットの記事によると、ブッチャーズは新しいアルバムの制作中で、
吉村は既に全ての曲のレコーディングを終えていたとのことです。
結果的に遺作となってしまった新作を、心して待ちたいと思います。



<散文とブルース>







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